記憶の海
最後のお客様を見送り、閉店の準備を始める。
「今日集まった記憶は50件か…。」
私は人々からいただいた記憶を整理して、店舗の地下にある記憶の海に保管しに向かった。
波の音だけが聞こえる暗い地下室。
そこに記憶の箱を沈めることで、対象者から完全に記憶を抹消できるのだ。
水には浄化する力がある。私たち生命体は皆海から生まれたという。だから、生命溢れる水に記憶を沈めて無に還らせるのだ。
私は何百年も生きているが、21世紀は負の記憶を抱えた人が多い。だから私の店に記憶を手放しに来るお客様が昔より増えた気がする。
どうか、悲しみ苦しみを抱えた人間(こどもたち)が安らかに過ごせますように。
祈りを掲げ、記憶の海の間を後にした。
5/14/2025, 7:58:43 AM