紅華

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2/3/2024, 3:42:53 AM


2/1/2024, 1:42:50 PM


夕方の公園。
防災放送からカラスの曲が流れた。
公園で遊んでいた子供たちは、自転車に乗って帰って行った。
公園に誰もいなくなり閑散となった。カラスの曲が流れ終わると、公園の入り口から親子が入ってきた。
父親と子どものようだ。子どもは一目散に誰も使っていないブランコへ駆け出した。
錆びついたチェーンが、ジャラジャラと鳴る。
子どもは父親を呼んだ。
父親はゆったりとした足取りで、ブランコのところへ来た。子どもは父親に『おして』と頼んだ。
父親はブランコに乗る子どもの後ろへ周り、背中を押してあげた。ユラユラと前後にブランコが動く。
子どもは楽しげに笑う。
父親の背中を押す力がどんどん強くなり、子どもが乗るブランコも天までいきそうなくらい高く揺れた。
子どもは、楽しく笑っている。
『もっと! もっと!』
父親は子どもの楽しげにしている姿を見て、微笑んだ。
父親の背中を押す力がさらに強くなり、ブランコは高く高く揺らいだ。

「カーカー!」

公園の木に止まっていたカラスが飛んだ。
同時に背中を押す手も止まった。
子どもはーー青年の姿になっていた。否、初めから青年だったのだ。
青年は自分を押していた後ろを振り向く。
そこには、誰もいなかった。
青年は、ブランコの手すりから手を離した。
青年は、くれない色に染まる空を見上げた。
「……ありがとう、父さん」
そう呟くと、青年は姿を消したのだった。

1/16/2024, 11:55:19 AM


きまぐれに美術館へ足を運んだ日のことだ。
普段なら美術とか芸術とか興味の持たない自分だったが、この日は何故か、美術館へ行きたくなったのだ。
特に見たいものがあるわけではない。ただ、なんとなく行きたいと思った。

地元の駅から美術館がある街へと向かう。
最寄りの駅に着き、駅から歩いて十分のところに美術館がある。
普段なら見向きもしないし、用事がない時には来ない街だ。

美術館で入場料を払い中へ入る。
平日の昼下がりだから人はまばらだ。優雅な音楽が流れていた。
適当に絵画を見て回る。有名な絵からヘンテコな絵などが綺麗に飾らせている。美術好きの人なら感銘や感嘆を吐くような絵だろうが、自分は興味がない部類だ。
普通に綺麗な絵だな、と思うだけだ。
ぶらぶらと絵画を見ていると、一際スペースが広い場所に辿りついた。
広いスペースの中央の壁には、他のキャンバスの絵よりも大きな絵が飾らせていた。
立ち入り禁止の三角コーンにテープが貼られていた。
撮影も禁止になっているようだ。
この絵画の周りには誰もいない。何人か前を通ってチラッと見るが、素通りしていく。
たしかに人を選ぶような絵画だ。
だけど、美術好きの人ならどんなに醜悪な絵でも見てやるって気だと思っていたけど、違うみたいだ。
この絵が醜悪だとは言っていない。

大きな絵の中には、美しい女性が猛々しく描かれていた。勝利の女神という有名な絵ではなくて、もっと戦場の中で命懸けで闘う姿だ。
この女性の周りには、彼女を守るように三人の男性が武器を持って囲んでいる。
女性も彼らに守られてはいるが、女性自身も共に闘おうとする『意志』が伝わってくる。
まるで、『わたしもコイツらと共に闘ってやる』と言っているかのように。
女性の手にもライフルらしき銃が握られていた。
細かい部分を見ると、女性の手は闘ってきた証なのかーー守っている男性たちと同じーーボロボロの手をしていた。
その手を見た瞬間、自分の両目から涙が落ちた。
なぜか分からないけど、彼女たちの勇姿に悲しくなってきたのだ。
彼女たちの最期がどうなったのかは知らない。
知らないはずなのに涙が出てくるなんて……。
おかしな話しだ。

1/14/2024, 2:57:38 PM


「おぎゃああ、おぎゃあああ!」
隣の部屋から赤ちゃんが泣く声が聞こえてくる。
薄いアパートの壁だ。隣室からの生活音はザラにある。だから、今日も赤ちゃんがお腹を空かせて泣いているだろうと思ったからあまり気にもしなかった。

十分程経っただろうか、隣から聞こえる赤ちゃんの泣き声は続いていた。いつもなら泣き止んでいる頃なのに、なかなか泣き止まない。
お腹ではなく寝れない癇癪を起こしているのか?

さらに十分が経った。
赤ちゃんの泣き声はおさまっていない。
そういえば、さっきから赤ちゃんの声だけで、他の人の気配は感じない。さすがに可笑しいと思い、思い切って壁を叩いてみた。
「あの、大丈夫ですか?」
壁が薄いからこちらの声は聞こえるはずだ。
すると、パタリと声が聞こえなくなった。
ビックリさせてしまったか。
そりゃあそうだよな、いきなり隣の部屋から壁を叩く音があったら誰だってビックリする。
いたたまれない気持ちでいると、隣室の方から「大丈夫です」と返ってきた。返ってきた声は男性の声だった。
「そうですか。なら良かったです」
お母さんは出かけているのか。だから赤ちゃんは泣いていたんだな。
お父さんだと不安だったから泣いていたのかもな。
そう勝手に結論を結び付けて、俺は夕飯の支度を始めた。
時刻は22時を回っていた。


* * *


翌朝、アパートの玄関の外が騒がしかった。
何ごとだろうと、扉を半分開けると警察官やら救急隊員でごった返っていた。
近くにいた警察官へ「何かあったのですか?」と、聞いてみると耳を疑う返事が返ってきた。
「ここの方ですか? この部屋で男性の遺体が見つかりまして、何か変わったこととかありましたか?」
「……え?」
あとから聞いた話しだが、あの隣室には男性だけが住んでいたようだ。赤ちゃんの泣き声は、男性が趣味で購入した赤ちゃんの泣き声だけを聞く録音だったようだ。
今まで聞こえていた赤ちゃんの泣き声は、全部違法の録音声だったと知った。

そして、どうして男性が亡くなったのかは不明のままだーー

1/8/2024, 4:40:50 AM



明日から新年になる。
初日の出を生まれてから十数年。一度も見たことがなかった。
見ようとする日に限って昼まで寝ていたり、天気が曇りだったりと不運な元旦を過ごしていた。

だが! 今度こそ輝かしい日の出を拝みたいが故に天気予報を毎日確認したのだ!

そして、来年の元旦の天気は『晴れ』と天気予報で言っていた。スマホで調べても全国的に晴れと書いてあった。
だから、今年の初日の出は拝める確率は100%なのだ!
今日は日付けが変わってからすぐに寝よう。
なんたって、今日は年末なのだから年越しはしたい!


* * *


スマホのアラームと共に目が覚めた。
時刻は午前5時ちょうど。日の出出るまであと少し。
俺は、飛び起きるようにカーテンを開けた。
外は、しんしんと雪が降っていた。まさかと思い、テレビとスマホを付けて、天気予報を見てみた。
『元日から1週間ほど雪が降る見込みですので、外出の際はーー』

俺の新年初の言葉が出た。

「ちくしょー!!」

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