紅華

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きまぐれに美術館へ足を運んだ日のことだ。
普段なら美術とか芸術とか興味の持たない自分だったが、この日は何故か、美術館へ行きたくなったのだ。
特に見たいものがあるわけではない。ただ、なんとなく行きたいと思った。

地元の駅から美術館がある街へと向かう。
最寄りの駅に着き、駅から歩いて十分のところに美術館がある。
普段なら見向きもしないし、用事がない時には来ない街だ。

美術館で入場料を払い中へ入る。
平日の昼下がりだから人はまばらだ。優雅な音楽が流れていた。
適当に絵画を見て回る。有名な絵からヘンテコな絵などが綺麗に飾らせている。美術好きの人なら感銘や感嘆を吐くような絵だろうが、自分は興味がない部類だ。
普通に綺麗な絵だな、と思うだけだ。
ぶらぶらと絵画を見ていると、一際スペースが広い場所に辿りついた。
広いスペースの中央の壁には、他のキャンバスの絵よりも大きな絵が飾らせていた。
立ち入り禁止の三角コーンにテープが貼られていた。
撮影も禁止になっているようだ。
この絵画の周りには誰もいない。何人か前を通ってチラッと見るが、素通りしていく。
たしかに人を選ぶような絵画だ。
だけど、美術好きの人ならどんなに醜悪な絵でも見てやるって気だと思っていたけど、違うみたいだ。
この絵が醜悪だとは言っていない。

大きな絵の中には、美しい女性が猛々しく描かれていた。勝利の女神という有名な絵ではなくて、もっと戦場の中で命懸けで闘う姿だ。
この女性の周りには、彼女を守るように三人の男性が武器を持って囲んでいる。
女性も彼らに守られてはいるが、女性自身も共に闘おうとする『意志』が伝わってくる。
まるで、『わたしもコイツらと共に闘ってやる』と言っているかのように。
女性の手にもライフルらしき銃が握られていた。
細かい部分を見ると、女性の手は闘ってきた証なのかーー守っている男性たちと同じーーボロボロの手をしていた。
その手を見た瞬間、自分の両目から涙が落ちた。
なぜか分からないけど、彼女たちの勇姿に悲しくなってきたのだ。
彼女たちの最期がどうなったのかは知らない。
知らないはずなのに涙が出てくるなんて……。
おかしな話しだ。

1/16/2024, 11:55:19 AM