紅華

Open App


夕方の公園。
防災放送からカラスの曲が流れた。
公園で遊んでいた子供たちは、自転車に乗って帰って行った。
公園に誰もいなくなり閑散となった。カラスの曲が流れ終わると、公園の入り口から親子が入ってきた。
父親と子どものようだ。子どもは一目散に誰も使っていないブランコへ駆け出した。
錆びついたチェーンが、ジャラジャラと鳴る。
子どもは父親を呼んだ。
父親はゆったりとした足取りで、ブランコのところへ来た。子どもは父親に『おして』と頼んだ。
父親はブランコに乗る子どもの後ろへ周り、背中を押してあげた。ユラユラと前後にブランコが動く。
子どもは楽しげに笑う。
父親の背中を押す力がどんどん強くなり、子どもが乗るブランコも天までいきそうなくらい高く揺れた。
子どもは、楽しく笑っている。
『もっと! もっと!』
父親は子どもの楽しげにしている姿を見て、微笑んだ。
父親の背中を押す力がさらに強くなり、ブランコは高く高く揺らいだ。

「カーカー!」

公園の木に止まっていたカラスが飛んだ。
同時に背中を押す手も止まった。
子どもはーー青年の姿になっていた。否、初めから青年だったのだ。
青年は自分を押していた後ろを振り向く。
そこには、誰もいなかった。
青年は、ブランコの手すりから手を離した。
青年は、くれない色に染まる空を見上げた。
「……ありがとう、父さん」
そう呟くと、青年は姿を消したのだった。

2/1/2024, 1:42:50 PM