「母の手」
母は歩くのがとても早かった
私が遅れて歩いていると
母は背中に手を当て
グーパーを繰り返した
私はその手を捕まえたくて
いつも母の手を目指して
追いかけていた
捕まえた母の手は
とても温かくて
とても力強くて
とても大きくて
とても優しかった
母と手を繋いで
歩く時間は
だいすきだった
年月は経ち
母と手を繋ぐことはなくなった
でも
手を繋ぐことはなくなっても
母の手は
いつもそばにあった
部活の試合に負けて
悔しくて泣いてしまった時
優しい手で
顔を包んでくれた
大事なプレゼンの前で
緊張していた時
温かな手で
お弁当を作ってくれた
独り立ちをする時
力強い手で
私の手を包んで
勇気をくれた
そして
大きくて
とても柔らかな手
優しく
白いベールをかけてくれた
いつか私も
母の手のように
大切な人のそばで
支え、守り、助ける
そんな手に
なりたい
2024/12/10 手を繋いで
「1人目の運命の人」
あなたが好きだった
一目惚れだった
この人だと思った
付き合うのに
時間はかからなかった
付き合えた時は嬉しくて
夢かと思った
大好きだった
愛してた
だから、
苦しかった
とっくの前から気づいてた
あなたは
「彼女がいる」という
自分が好きなんだって
私に尽くしてくれたのは
私があなたから
離れないようにするため
たくさん私と写真を撮ってくれた
それは
ストーリーに載せるためだけ
そして
あなたは気づかないようにしてた
私がいたから
あの子が気になるっていうこと
気づいてるよ
あの子を見る目が
とてつもなく優しいということ
言葉の一つひとつが
愛しいっていうこと
ありがとう、ごめんね
私
たくさん苦しい思いをさせて
あなたは1人目の
運命の人だったんだね
そう思うことにするから
最後に言わせて
時計の針が0を指す頃
スマホに届いたのは
よく行くカフェの
誕生日クーポンだった
どんなお祝いメッセージよりも
あなたの
「おめでとう」
それだけが欲しかった
それしかいらなかった
あの時の私に
さようなら
2024/12/9 ありがとう、ごめんね
「1人の夜に」
家族と暮らすと
1人の時間というものが
なかなか作りずらい
仮に部屋にいたとしても
生活音が聞こえてくるだけで
1人でないと思ってしまう
憂鬱だった
1人きりになりたい
何も考えず
ただ1人になりたい
ずっと思っていた
突然だった
一人暮らしになったのは
朝アラームで起きて
満員電車に揺られ
9時に業務が始まり
18時に終わると
帰りにスーパーに寄って
30%オフになった唐揚げと
ティッシュペーパーを買い
自宅に戻る
平日はこの繰り返し
休日も特にすることがなく
ベッドの上で
淡々と動画を永遠と見る
憧れていた1人での暮らし
なんでだろう
心が空っぽな感じがするのは
母の作る豚汁が恋しい
父のうるさい笑い声が恋しい
母のがさつに窓を閉める音が恋しい
父の買ってくるコンビニのお菓子が恋しい
ふと寂しくなって
気づけば涙が溢れた
部屋の片隅で
1人の夜に
2024/12/7 部屋の片隅で
「逆上がり」
私が小さかった頃
逆上がりがなかなか出来なかった
周りがどんどんできていくなかで
幼いながらに
焦りが募った
毎日毎日
近所の小さな公園で
夕焼け小焼けの音楽が聞こえてくるまで
練習した
いつの間にか手には
豆ができていた
ある時
疲れ果てて
宙ぶらりんのまま
ぼーっとしていた
そしてなんとなく
空が高く見えた時
「空を歩けたらいいのに」
ふと思った
そして
冷静になって考えた
努力で空は歩けないけど
逆上がりは努力で叶えられる
気合いが入った
この3日後
私の逆さまの世界は
いつもの世界になった
いつもよりも
ちょっぴり背の高い
清々しい世界だった
2024/12/6 逆さま
「夢の中で」
昔から寝つきはいい方だった
ベッドに入れば
いつのまにか
眠っていた
よく眠れているのだろう
夢も見ず
大きな雷が鳴っても
地震が起きても
基本的には起きることがない
いつからだろう
眠れなくなったのは
眠るためだけに
家に帰るような生活
眠る時間がもったいないと思い
家でも作業すると
次の日
なかなか仕事が捗らない
仕事は溜まっていくばかり
減らせど減らせど
次から次へと
仕事が追ってくる
眠れないほどに
私の心は
仕事で埋め尽くされていく
身体がこれでは持たないと
眠ろうとすると
全く眠れない
つまらない動画を見ても
温かい飲み物を飲んでも
薬を飲んでも
眠れなくなっていた
お願い神様
夢の中だけでいいの
どうか
ゆっくり
眠らせて
2024/12/5 眠れないほど