『いつまでも捨てられないもの』
我ながら、実に愚かだった。
僕はクローゼットの前でため息をついた。
この間、彼女と行った旅行で、
自分の土産として買ったTシャツ。
店で一番派手で、
一番訳のわからない柄のヤツを
二人でゲラゲラ笑いながら買ったのだ。
だけど、こんなTシャツじゃあ、
宅配便を受け取ることすら恥ずかしい。
……じゃあ、何で買ってんだ、って?
そんなのこっちが聞きたいくらいだ。
とはいえ、捨てるにはもったいない。
部屋着にするしか、ないだろう。
その後、彼女が僕のうちに遊びに来た時だ。
彼女は僕の部屋着を見て、
あの旅の時と同じくゲラゲラ笑った。
やかましいのに、まぶしくて、
こっちまで笑い出したくなるような、
その彼女の顔を見て、ようやく僕は気がついた。
なるほど、だから僕はこのTシャツを買ったのか、と。
『誇らしさ』
たとえ誰も愛でなくても
お日様に向かって力いっぱい花を咲かせてる。
あの道端のヒマワリが、どうしてか、
私には誇らしげに見えるのです。
『夜の海』
耳をすませば、聞こえるかしら、私にも。
海藻のベッドの上で眠る魚の坊やのために
やさしく歌う魚の母さんの子守歌が。
静かに揺れる波の音と、その子守唄を思ったら
なんだか私も眠たくなっちゃった。
『自転車に乗って』
山ほどのすり傷をこしらえて、
半べそかきながら練習をして、
やっと転けずに乗れるようになった頃
わたしは、得意になってたの。
「きっと今のわたしなら、これさえあれば、どこへでも行ける」って。
町で一番大きな図書館とか、
近所のヤツよりもうんと広い公園とか、
誰も持っていないオシャレなペンを置いてる文具屋とか。
引っ越しちゃった、あの子の住む街とか。
いつしか自転車よりも早く遠くに行ける乗り物に慣れた頃、
私はふと、思ったの。
これさえあれば、今の私はどこでも行ける。
その思いがあれば、いつでも、どこへでも行けたのかなって。
『心の健康』
自分以外の誰かの心の健康を思って
言葉を選べるだけの余裕
たぶん、それが、私の心の健康の証