『君の奏でる音楽』
本音を言うと、耳障りだと思ったこともありました。
ただでさえ暑いのに、
聞いてるだけでよけいに暑くなる
と、舌打ちすらしたくなる日もありました。
でも、その生涯の大半を、地下で過ごしていた君が、
太陽の光に照らされたまぶしいステージへ
ようやく上がってきたのだと思うと
そんな悲しいヤジを飛ばす気には
とてもなれないのです。
残りたった数日と言われるその命の限り、奏でている君の音楽に、
汗ばんだ笑顔で耳を傾けられる人でありたいな
と、思うのです。
おしっこだけは、引っかけられたくないけどね。
『麦わら帽子」
母さんからは
「出かけるんなら、被っときなさい。今日も暑いんだから」って言われてたけど、
正直、あんまり気が進まなかったの。
だって今日のスカートには絶対似合わないし、
セットした髪だって崩れちゃう。
だから、カバンの底に押し込んで、
仕舞っておこうかとも思ったんだけど、
待ち合わせに現れた君の笑顔を見た途端、
思わず被ってしまったわ。
あんまり眩しかったんだもの。
『また明日』
キミと並んで歩く帰り道。
夕日に染まるいつもの別れ道に差し掛かった時だった。
「じゃ、私はこっちだから。さようなら」
キミはいつものようにそう言った。
言えなかったな、また今日も。
遠ざかるキミの後ろ姿を見ながら、僕は思う。
ほんとは、ずっとキミに伝えたい言葉があったのに。
だから。
僕は、また今日もキミに言う。
「また、明日」と。
『イブの夜』
「今夜は特別。イブの夜」
みんな私にそう言うの。
特別だから
夕飯はご馳走だったし、ケーキも食べて良いんだって。
特別だから、
夜の間にサンタさんからプレゼントが届くんだって。
年に一度の、特別な夜だから。
みんなは私にそう言うの。
だけども、私は知ってるの。
たとえ、イブの夜じゃあなくっても
「明日は何して遊ぼうか」って相談しながら
一緒にぬくい布団に入れる夜こそが、
きっと幸せな夜なんだ、って。
『プレゼント』
いつ頃だろうか。
「今年は何をサンタさんにお願いしようか」と、
プレゼントに悩んでいたのは。
近所の友達が持ってるゲームとか。
読みたかったマンガとか。
普段は駄々をこねても買ってもらえないオモチャとか。
欲しいものはたくさんあったから、
それはそれは、難しい問題だったっけ。
それなのに。
いつからだろうか。
あれが欲しい、これが欲しいと、願ってばかりの僕が
「あの子が欲しがるプレゼントは何だろう?」と
毎年悩むようになったのは。