『イルミネーション』
これは絶対言えないんだけど、
実は私、キミにウソをついたの。
駅前に10万球のLEDがあろうが、
巨大なツリーがあろうが、
今日みたいに寒い夜は、
まっすぐ家に帰ってから
こたつでアイスを食べるのが
私は好きなのよ。
だから、これはウソなのよ。
「せっかくだから、見に行きたい」って言ったのは。
ホントはただの口実なのよ。
キミと過ごす時間を長引かせるための。
『仲間』
確かな根拠はないけれど、
きっと、いると思うのです。
顔は見たことがないし、
声も聞いたことがないけれど、
たぶん、世界中にいるはず。
私と同じようなこと、考えてる人が。
「え、もう一年が終わるの! 早くない?」
……って。
あなたもそうですか?
じゃあ、お仲間ですね。
お仲間にも、そうじゃなくても、どうか新しい年に、幸多かれ。
『ありがとう、ごめんね』
げんげ、すみれ、しろつめくさ……
妹と一緒に遊びに出かけた道端で、
花をたくさん見つけたの。
私はお姉さんだから、
花冠だって作れるの。
そしたらね、
「ありがとう」
大きな花冠を頭に乗せて、
妹は、はしゃいで言ったの。
だけどね、
花のなくなった道端で、
花を探して迷子のように飛ぶチョウチョを見たら、
なんだか胸がチクリとしたの。
はしゃぐ妹には聞こえないように、
私はこっそりつぶやくの。
「チョウチョさん、ごめんね」
『逆さま』
実は逆さまだったのです。
今朝、慌てて履いた靴下の表と裏が。
だからでしょうね。
足がムズムズしていたのは。
実は逆さまだったのです。
昨日あなたに言った「大嫌い」というセリフが。
だからでしょうね。
今になってこんなに心がズキズキするのは。
実は逆さまだったから、
あなたにお願いしたいのです。
昨日の私のあのセリフ、もう一度だけ逆さまにしても、いいですか?
『眠れないほど』
雪の降る季節のある夜のこと。
重そうな瞼を擦りながら
息子が僕に問いかけた。
本当に来てくれるかな。
ボクの家、煙突がないけども。
ずっと欲しかったあのゲーム
プレゼントしてくれるかな。
ボクは今日も母さんに「早く寝なさい」って怒られちゃうような、悪い子だけども。
僕は小さく微笑んで
「大丈夫だから、もうおやすみ」と声をかけ
息子をなだめながら思うのだ。
この心配を、
キミが眠れないほどしている間くらいは
彼の正体を秘密にしておきたいな、と。