芝草

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『自転車に乗って』


山ほどのすり傷をこしらえて、
半べそかきながら練習をして、
やっと転けずに乗れるようになった頃
わたしは、得意になってたの。
「きっと今のわたしなら、これさえあれば、どこへでも行ける」って。

町で一番大きな図書館とか、
近所のヤツよりもうんと広い公園とか、
誰も持っていないオシャレなペンを置いてる文具屋とか。
引っ越しちゃった、あの子の住む街とか。


いつしか自転車よりも早く遠くに行ける乗り物に慣れた頃、
私はふと、思ったの。

これさえあれば、今の私はどこでも行ける。
その思いがあれば、いつでも、どこへでも行けたのかなって。

8/14/2024, 1:08:25 PM