『仲間』
確かな根拠はないけれど、
きっと、いると思うのです。
顔は見たことがないし、
声も聞いたことがないけれど、
たぶん、世界中にいるはず。
私と同じようなこと、考えてる人が。
「え、もう一年が終わるの! 早くない?」
……って。
あなたもそうですか?
じゃあ、お仲間ですね。
お仲間にも、そうじゃなくても、どうか新しい年に、幸多かれ。
『ありがとう、ごめんね』
げんげ、すみれ、しろつめくさ……
妹と一緒に遊びに出かけた道端で、
花をたくさん見つけたの。
私はお姉さんだから、
花冠だって作れるの。
そしたらね、
「ありがとう」
大きな花冠を頭に乗せて、
妹は、はしゃいで言ったの。
だけどね、
花のなくなった道端で、
花を探して迷子のように飛ぶチョウチョを見たら、
なんだか胸がチクリとしたの。
はしゃぐ妹には聞こえないように、
私はこっそりつぶやくの。
「チョウチョさん、ごめんね」
『逆さま』
実は逆さまだったのです。
今朝、慌てて履いた靴下の表と裏が。
だからでしょうね。
足がムズムズしていたのは。
実は逆さまだったのです。
昨日あなたに言った「大嫌い」というセリフが。
だからでしょうね。
今になってこんなに心がズキズキするのは。
実は逆さまだったから、
あなたにお願いしたいのです。
昨日の私のあのセリフ、もう一度だけ逆さまにしても、いいですか?
『眠れないほど』
雪の降る季節のある夜のこと。
重そうな瞼を擦りながら
息子が僕に問いかけた。
本当に来てくれるかな。
ボクの家、煙突がないけども。
ずっと欲しかったあのゲーム
プレゼントしてくれるかな。
ボクは今日も母さんに「早く寝なさい」って怒られちゃうような、悪い子だけども。
僕は小さく微笑んで
「大丈夫だから、もうおやすみ」と声をかけ
息子をなだめながら思うのだ。
この心配を、
キミが眠れないほどしている間くらいは
彼の正体を秘密にしておきたいな、と。
『夢と現実』
ある夜、私は夢を見た。
そこでは、私はお姫様。
豪華なドレスに身を包み
宝石みたいなケーキを食べる。
お城のみんなは私にお辞儀し、
「姫は今日もお美しい」と言ってるの。
そして、朝がやってきて
私は夢から目覚めたの。
そこでは、私はただの少女。
お姉ちゃんのお下がりの制服に身を包み
いつもと同じ、豆腐の味噌汁をすする。
母さんは笑いながら
「まだ寝癖がついてるよ」と、櫛を差し出すの。
夢の私も良いけれど
こうして家族とご飯を食べてる私だって悪くない。
そんなふうに思える私のことが、私は結構好きなのだ。