『過ぎ去った日々』
部屋を整理していたら中学生のときの日記が出てきた。
そこには同じ部活だった3人の女の子への想いが綴られていた。
小学校3年生の時に、とても仲良しだった友達から裏切られてから人を信じることが怖くなっていた私が「3人は私の唯一の親友だ」とまで残していた。
今は、あれから10年の月日が流れて3人とも疎遠になってしまって
正直、思い出も朧気だから皆に対する当時の私の熱量に
日記を通して再び触れて少し驚いた。
でも、それと同時に
「一度でも誰かを親友だと思えたこと」
「どれほど私が3人を大切に想っていたか」
思い出すことができて本当に良かったと思う。
人の記憶というものは両手の指の間からサラサラと溢れ落ちる砂のようだ。
だからこそ、過ぎ去った日々に感じていた想いに
こうしてまた出会える場所を築いていきたいと思う。
私は、これを機にまた日記を付け始めた。
『お金より大事なもの』
家はお金がある方ではない。
食べることには困らなかったけど夏休みに旅行や遊びに連れて行ってもらえるような子供時代は過ごしたことがなく宿題の絵日記や一言日記には毎年頭を悩ませた。
今だって家はあちこち古くなってきて台所の換気扇もお風呂の換気扇も
壊れているけどお金が無くて直せない。
「せめて壊れたものぐらいすぐに直せるような生活がしたかった。」
「結婚する前も結婚してからも貧乏で私は一生貧乏。」
母は時々こう漏らすことがあった。
「生まれ変わったら今度こそお金持ちの男の人をゲットしなくちゃね。」
私がそう言っても母はどこか乗り気ではない様子だった。
「生まれ変わってもまたお父さんでいいかな。」
少しの沈黙の後、母はそう言ったのだ。
私はすかさず「また貧乏でいいの?」と皮肉まじりに言った。
「確かにお金が全てじゃないなんて綺麗には言えないけど
お金よりももっと大事なものってやっぱりあるんだよ。」
「お金よりも大事なものって?」
「それは自分で見つけて実感しないと意味のないものだと思う。
いつかあなたにも分かる日がくるよ。
それを教えてくれるような人と一緒になりなさい。」
私は全く納得いかなかった。
「お母さんさぁ、愛だけじゃ生きていけないんだよ?
お金がなきゃ生活もできないし換気扇も直せないの。
お母さんの方こそ、いい歳して夢見る夢子ちゃんみたいなこと言って
現実が全然分かってないじゃん。」
呆れたように言う私に
「まだまだ青いわね。」
と一言呟く母。
今日の夕飯はお父さんの大好きなカツ丼だってさ。
『月夜』
「今夜は月が綺麗だね」
帰り道、手を繋ぎながら歩く僕たちの目の前には
大きな満月が黄金色に輝いていた。
「わぁ〜!本当だぁ〜!」
彼女は目を輝かせながら、こんなに綺麗なんだから写真に残さないのは勿体ないと
はしゃいだ様子で鞄からスマホを取り出した。
立ち止まってニコニコと燦然と輝く月にカメラを向ける
シャッターを切る
気に入らなかったのか不満そうに首を傾げる
ズームをしたり角度を少し変えたりと真剣な顔で試行錯誤する
コロコロと表情が変わる彼女。
僕は月なんかよりも、そんな天真爛漫な君に釘付けだった。
「やっぱりダメだ〜。肉眼だとこんなに綺麗なのになぁ…。」
しょんぼり顔の彼女だったが、何かを思い出したようにパッと笑顔になる。
「夜の月も綺麗だけど昼間の白い月もとっても素敵なんだよ~!
この間、お散歩してたときに何気なく空を見上げたら雲一つない青空に
白い月がよく映えてて見惚れちゃったの~!」
僕は嬉しそうに話してくれる君に見惚れてしまっているよ。
そんなこと言えないけど…。
「じゃあ今度は白い月も一緒に見ようか」
「やったぁ〜!お弁当持ってピクニックしながら眺めようね!」
楽しみだねとご機嫌な彼女。
僕も楽しみだよ、
綺麗だねと嬉しそうに笑う堪らなく愛おしい君の姿を見られるのが。