『お金より大事なもの』
家はお金がある方ではない。
食べることには困らなかったけど夏休みに旅行や遊びに連れて行ってもらえるような子供時代は過ごしたことがなく宿題の絵日記や一言日記には毎年頭を悩ませた。
今だって家はあちこち古くなってきて台所の換気扇もお風呂の換気扇も
壊れているけどお金が無くて直せない。
「せめて壊れたものぐらいすぐに直せるような生活がしたかった。」
「結婚する前も結婚してからも貧乏で私は一生貧乏。」
母は時々こう漏らすことがあった。
「生まれ変わったら今度こそお金持ちの男の人をゲットしなくちゃね。」
私がそう言っても母はどこか乗り気ではない様子だった。
「生まれ変わってもまたお父さんでいいかな。」
少しの沈黙の後、母はそう言ったのだ。
私はすかさず「また貧乏でいいの?」と皮肉まじりに言った。
「確かにお金が全てじゃないなんて綺麗には言えないけど
お金よりももっと大事なものってやっぱりあるんだよ。」
「お金よりも大事なものって?」
「それは自分で見つけて実感しないと意味のないものだと思う。
いつかあなたにも分かる日がくるよ。
それを教えてくれるような人と一緒になりなさい。」
私は全く納得いかなかった。
「お母さんさぁ、愛だけじゃ生きていけないんだよ?
お金がなきゃ生活もできないし換気扇も直せないの。
お母さんの方こそ、いい歳して夢見る夢子ちゃんみたいなこと言って
現実が全然分かってないじゃん。」
呆れたように言う私に
「まだまだ青いわね。」
と一言呟く母。
今日の夕飯はお父さんの大好きなカツ丼だってさ。
3/8/2026, 1:01:50 PM