視察のため、暗い夜道を二人で歩いていると、光莉はどこか違和感を覚えた。
「……ここ、私たちが知ってる場所じゃないみたい」
横にいた妹の夜弥にそう伝えると、夜弥は冷静な口調でこう言った。
「……別世界に迷い込んだか」
「えっ。そんなことありえるの?」
さらっとあり得ないことを言う妹に、光莉は疑問を投げかける。
「0ではないだろう。これは私の憶測だが……、必ず何処かに出口はあるはずだ」
「……それならいいけど……」
「……不安なら手を繋ぐか?」
「!」
大丈夫だと遠慮する暇もなく、光莉は夜弥に手を握られてしまった。
……こうしていると、幼い頃を思い出す。
「……こんなに大きくなっても、夜弥はまだ私と手を繋ぎたいんだ」
「当たり前だ。逆に何がおかしい?私はこれからもお前と手を繋ぎたいと思っているし、他の行為だってしたいと思っている」
「な……っ、急な爆弾発言やめてよ……」
驚いて手を振り解こうとすると、逃さないと言わんばかりにまた手を掴まれる。
今度はさっきより強く、ぎゅっと。
この調子だと、どうやら当分は手を離してくれなさそうだ。
題『ここではないどこか』
君と最後に会ったのは、×月×日の昼休みだった。
オレンジ色の夕焼け空が雲を染めている。
校舎屋上のフェンス際に、彼女はただ静かに立っていた。
「……来てくれたのね、××くん」
「……」
「見て、夕焼けがとても綺麗よ。……最後に見る景色にはぴったりだわ」
そう言った彼女の表情は、一体どんな顔をしていたのだろうか。
「……本当に飛び降りるつもりか」
「…………ええ。もちろん」
「……後悔するぞ」
「しないわよ。……止めないでって、約束したでしょ?」
彼女は、ゆっくりと俺の方を振り向く。
一歩足を後ろに踏み込めば、もう彼女の命はないというのに、その時の俺はなぜか酷く冷静で……。
止めればよかったとか、何か救える方法があったはずだとか、考えるべきことは沢山あったのに。
「……時間はあっという間なんだな」
——気付けば、彼女は俺の前から姿を消していた。
題『君と最後に会った日』
「あ~良かった!1年前の二人の仲の悪さをみて、正直どうなるか心配だったけど、そんな不安がることなかったよ〜」
「……私達のどこが仲良さそうに見えるんだ、光莉」
「誤解しないでください、お嬢様。これはただ、面倒事を避けるためにしただけの事。決して、夜弥様を助けたわけではありません」
「助けなど必要ない。こいつが勝手にしたことだ」
「えぇ……?でも二人とも嫌そうな顔してなかった気がするけど……」
「「それは違う!/違います!」」
——お題『1年後』