私の記憶の中で一番古いものは、どこか暗いところにいた事である。声を出せども、反響し私自身の体を震わせるだけであった。心細さというものが私の心を支配していた。けれども、心の片隅に心地良さをも感じていたのを覚えている。
次の記憶は、痛くなるほどの光である。まるで、私を蒸発させてやると言っているかのように光はそこにいた。光から目を逸らし周りに向けた。無限に続いているかのように砂の原が広がっていた。私がここが砂漠であると知ったのはもう少しあとのことであった。
そこから、あまり変わらない景色が続いた。時たま、空を飛ぶ生き物やロープのような生き物が私の周りを取り囲むぐらいのことであった。そういう時は、そっと頭を撫でてやるのだ。
どれだけだったのかは、分からない。1つ、砂の色に似つかわない緑色のものを見つけた。それはあっという間に大きくなり数を増やしていった。私はそれを大事に守り続けることにした。鮮やかな緑は、私を夢中にさせた。私自身、砂の色にとうに見飽きていたのもあるだろう。
いくらか立って、私を緑のものが覆った。どうやらこれは植物と言うらしい。植物を目当てに様々な生き物がよってくるようになった。私もだいぶ人気になったものだ、と鼻を高くしていた。
しばらくして、今まで間に見たことの無い生き物現れた。白く薄い肌をしていてた。それらは、私を見つけると一目散によってきた。それらは何かを興奮したように話していた。どうやら、彼らにとって私はオアシスなるものらしく、命を繋ぎ止めるものらしい。
彼らは、よく来るようになった。うるさくて、変な匂いの箱に乗ってくることが増えた。彼らの肌は、よく変わるらしく赤色や黒色になっている時もあった。彼らが来たせいなのかは分からないが、生き物たちの姿を見ることが少なくなっていった。結構寂しかった。
彼らは、ある日棒のようなものを持ってきた。その棒を私の中に入れた。不快感と何か食べられているかのような感覚に襲われた。
その棒が入ってから、私の周りには植物が増えた。規則正しく並べられた植物は、見たことも無いものだらけであった。生き物たちを見なくなったのもこの頃だ。
それから幾許かの時間が流れた。私の体は、食べられ続け残りも少なくなっていた。私は、動かなくなった生き物達のことを死と呼ぶことを知っていた。私もそろそろ死になるのかと感じていた。
そして....。嗚呼、私の体が!
私の記憶の中で一番古いものは、空ふよふよと飛んでいたことだ。そして、地面に落とされ、気がつくとどこか暗いところにいた。声を出せども、反響し私自身の体を震わせるだけであった。
(これが始まり)
あるところに、名もない青年がいました。
青年は、いつも空を見ながらじっと何かを考えていて、何かを書き起こしていました。
村の人達は彼のことを学者さんと呼び、たまに彼と他愛もない話をしていました。
(そして続き)
ある日、学者さんはふと思い出したかのように空をみるのを辞めました。
周りをキョロキョロと見渡し、何かを書いています。
しかし、空はいつも通り青く、学者さんの周りにもぼうぼうに伸びた草しかありません。
けれど、学者さんにはいつもとは何か違うきっかけがあったようでした。
(まだ続く)
次の日、学者さんは家にいました。
いつものように空は見ないで、子難しそうな本を読んでいました。
村の人達は、いつものところに学者さんが居ないので少しだけ騒動になりました。
その頃も、何か物理か数学か分からない本を読みながら色々と紙にメモをしていました。
(これが最後)
夜になり、結局一日中学者さんは本を読んでいました。
最後の本を閉じると、家を出てどこかに向かっていきました。
しかし、人も少ない村ですから学者さんはくらい夜に紛れて見えなくなってしまいました。
(まだ続けるつもり?)
くらい夜の中では、学者さんがどこにいるかは分かりません。
そして、暗い以外に言う言葉もないので、説明もできません。
(そろそろ見るのをやめろ)
学者さんは何をしているのでしょうか。
村の人は(村の人なんて居ない)
学者さんは(辞めろ放っておいてくれ)
学者さんは、くらい夜に紛れて(終わらせようとするな)
居なくな(居なくなっていない。)
その日から、学者さんは誰も(俺を消そうとするな)
(やめろ。終わらせるな。)
(放って置いてくれ。)
(完成させるな)
(この世界は、終わらせ)もう、
めんどくさくなりました。
(やめろ)
誰もいない物語を書く必要はない。
(未完成のままでいい)
それならば、
(読むな。書くな。消すな。終わらせるな。)
(俺は、君たちの言う学者さんはまだここに)
居なくなりました。
誰も、村の人たちも、学者さんも、青い空も、生い茂っていた草も。
無くなりました。
何も無い話。
ならば、これ以上語る必要は無い。
では。
この話はこれで終わり。
水の入ったコップを片手に空を見上げた。
鳥が走り回っていて、雲が寝転んでいる朝の空。
広くて、優しい空は、いつまでも見ていられる。
ピピピッと、アラームが現実に引き戻す。
コップの中の水を流し込んだ。
コップの中には青い空と氷が残った。
小さなお弁当を机に置いて空を見上げた。
太陽と目が合って、すぐに目を逸らした昼の空。
太陽の欠片を受け取るには僕の目は弱すぎる。
時計のチクタクが僕を焦らす。
お弁当の冷たいご飯をかき込んだ。
空のお弁当と太陽の一部が入っていた。
コーヒーの缶を持ちながら空を見上げた。
何処かの太陽と地球のパートナーが空に浮かんでいた。
暗くて、静かで、遠い夜の空は、自分が解けていきそうになる。
家のドアの前で、起こされる。
缶のコーヒーは空と同じ色をしていた。
机の上のコップに注ぐ。
コップの中は、溶けた氷と空が入っている。
物は下に落ちる。
太陽は明るい。
人間がいる。
当たり前の僕らの世界。
想像をしなくてもわかる普通の世界。
僕らは、普通の中に生きている。
だからこそ、異常の世界では生きられない。
物は空中で静止する。
太陽が暗い。
自然しかない。
僕らの逆の世界。
きっと、妄想はできるけど想像はできない。
全てが逆の世界。
でも、僕らの想像は見えている世界しか逆にできないから。
それはきっと、全てじゃないから。
そっと、鏡を置くだけでそこはまだ知らない世界になるのだ。
僕は、何も好きにはなれない。
クラスの誰かが歌う曲も、街中に映るどっかの誰かも。
本屋の入口の本も、鏡に映る知りたくない誰かも。
好きにはなれない。
だって、それらは僕に寄り添ってくれないから。
明るい光だけを無情に与えてくる。
そして、僕に静かな現実を見せつけてくる。
好きにはなれない。
好きになるつもりも無い。
けれど、それを世間は許してくれないらしい。
世間は言うだろう。
流行りを追うことは当たり前だ、
今を知らなきゃ何も出来ないだろう、
人の好きな物を知ろうとしなきゃ誰とも話せない、と。
だから、僕は小さな仮面をつけて「嫌いじゃない」と呟くのだ。
グッドマークを1つ押すのだ。
僕は何も嫌いになれない。
街中で響く何かの曲も、友達のスマホにいる誰かも。
図書館に置かれたおすすめ本も、笑顔の仮面の誰かも。
嫌いにはなれない。
だって、それが常識だから。
知らなきゃ損だと、誰かが言ってるはずだ。
それから逃げることは出来ないと思う。
嫌いにはなれない。
嫌だと呟くことも出来ない。
けれど、それを僕は、僕自身が許してくれない。
僕は言った。
好きな物を好きになればいいだろう、
仮面なんて暑苦しいだけで何も得ることは無い、
流れに流されたとて行く場所はないぞ、と。
だから、僕は仮面にハンマーを振るった。
鏡を力いっぱい叩きつけた。
そして、そのままただ、「好きじゃない」と叫ぶのだ。
多分、誰にも届かないし、暗闇に響いて消えていくだけの言葉だ。
けれど、やっと僕は本当の鏡を見つけることが出来たのだ。
そして、僕は少しだけため息をついた。
僕は仮面を捨てるまではいけなかった。
それでも、いい。
-仮面は好きじゃない。ただそれだけだ。
僕は何も好きになれない。
この社会も、世間も、地球も、僕自身でさえ。
僕は寄り添えないし、
僕に寄り添ってくれないし。
けれど、
-どうしても僕は嫌いになることは出来ないらしい。
僕はそれが嫌いだと、僕に必要ないとも思えない。
きっと、まだ信じていたいのだろう。
街中で流れる曲。アイドルの誰か。有名な本。鏡の僕。
鏡の中の誰かが僕に問う。「それは好き?嫌い?」
仮面をつけながら「嫌いじゃない」と答えた。
けれど、仮面はもう笑っていなかった。