一年前
あの日の風は
まだ指先に残っている
少しだけ冷たくて
少しだけ優しかった
思い返せば
あの頃の私は
今よりも少し幼く
今よりも少し迷っていた
けれど
胸の奥で灯った小さな光だけは
消えずに
今日まで連れてきた
一年前の私が
そっと背中を押してくれる
「ここまで来たね」と
静かに微笑みながら
そして私は
あの日より少しだけ強く
あの日より少しだけ穏やかに
新しい季節を歩いている
眞白あげは
初恋の日
風のない午後
校庭の隅で
そっと名前を呼んだだけで
世界がひとつ揺れた
指先よりも
心のほうが先に震えて
言葉はまだ幼いのに
想いだけが大人びていた
帰り道
夕焼けがやけに優しくて
影がふたり分に見えたのは
きっと気のせいじゃない
あの日の鼓動は
今も胸の奥で
小さな灯りのように
消えずに息をしている
眞白あげは
明日世界が終わるなら……
明日、世界が終わるのなら
今日という一日を
そっと両手で包み込み
落とさぬように歩いていく
風の音は
いつもより静かで
どこか懐かしい
遠い記憶を撫でていく
誰にも言わないまま
胸の奥にしまっていた言葉が
ふと、あたたかく息をする
「生きてきてよかった」と
涙は流さない
悲しみよりも
この世界の美しさを
最後まで見届けたいから
夕暮れが沈む瞬間
空の色がゆっくりと変わる
その移ろいを
心に刻むように見つめて
そして
終わりが訪れるそのとき
静かに目を閉じて思う
「どうか、この一瞬が
永遠でありますように」
眞白あげは
君と出会って、
君と出会って、
世界はひとつ深呼吸を覚えた。
朝の光が少しだけ
やわらかく差し込むようになり、
見慣れた景色の輪郭が
そっと色づきはじめた。
君の声を聞くたびに、
胸の奥で小さな灯りがともる。
それは急がず、騒がず、
ただ静かに私を照らす光。
君と出会って、
「ひとりで大丈夫」と言い聞かせていた日々が
少しずつほどけていった。
強がりの隙間に、
あたたかい風が吹き込んだ。
もしあの日、
君とすれ違ったままだったらと思うと、
少しだけ怖くなる。
だって今の私は、
君と出会った私だから。
君と出会って、
世界は前より少し優しくなった。
そして私もまた、
前より少し優しくなれた気がする。
眞白あげは
耳を澄ますと
耳を澄ますと
世界は そっと
本当の声を思い出す
風が触れた葉の震え
遠くで揺れる誰かの足音
夜の底で 水がひとつ
静かに落ちる気配
言葉ではない
けれど確かに
胸の奥に届いてくるものがある
耳を澄ますと
沈黙さえも
やさしい光のように
こちらを包んでくれる
そして気づく
何もしていない時間ほど
いちばん豊かに
心が息をしていることに
眞白あげは