くろん

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6/15/2025, 1:37:54 PM

大きな音を立て形を変えたマグカップ。
2つで1つのデザインとなる物の片割れが、その役目を終えたかのように床に散らばった。

大きなため息を吐きながら怪我をしないうちに早々に片付けを始め、適当な紙袋に入れる。

(あなたも1人になっちゃったね)

感傷に浸りながらもう片方のペアマグを手にして、数日前に別れを告げられた恋人との思い出が頭を埋める。

大好きだった人、この人と結婚するんだとまで思えた人、ずっと一緒にいると疑わなかったのに急に別れを告げられ、いい女ぶって縋ることもせずに了承した自分がとても憎い。

この割れたマグカップのように、もう元には戻れないということはわかっている。

今からでも泣いて嫌だと縋りたい、足にしがみついてでも離れたくないと叫びたい気持ちを閉じ込め、形を失っていない片割れのマグカップを同じ紙袋に封じ込める。

あの人は、新しいペアのマグカップを買うのだろう。私とは違う人と並んで座りながら。


鼻の奥がツンとするのを感じつつも、2つのマグカップが入っている紙袋をグルグルとガムテープで巻き、ゴミ箱の隣に置いた。

6/12/2025, 2:41:38 PM


「愛してる」

真剣な顔をして伝えてくるその言葉は、もう数え切れないくらい耳にした。

NO、嫌、無理、ごめんなさい、いくら拒否しても、毎日毎日伝えてくるこの人の告白はいつしか周りの人の中での名物となっている。

いいじゃん、付き合ってあげなよ、こんなに愛されるなんて幸せじゃん!と。大して仲良くもない人からのお節介のような助言に今日もうんざり。

好きだと言うなら、好きな人の幸せを願うのなら、放っておいて欲しい。そんな願いも虚しく、明日も明後日も、あの人は伝えてくるのだろう。

大きな声で愛を叫ぶ目の前の人に、いつものようにお断りの言葉を伝える。フラれたというのに笑顔で諦めないから!と捨て台詞を吐きながら走り去る姿に、愛しているのは諦めずに告白し続ける健気な自分というナルシスト的な人種なのでは?と感じずにはいられない。

「愛してる」

明日も同じように言われるのであろうその言葉を頭に浮かべながら、明日はなんて断ろうかと思考を巡らせた。


I Love…?

6/11/2025, 2:02:27 PM

やまない雨はない。どこかで聞いた言葉が脳裏によぎりながら窓をつたう水滴を目で追う。
テレビからは梅雨入りしたという憂鬱な知らせが定期的に流れ、休みの日だというのに上がらない気分を落ち着かせるためにリモコンで電源を落とす。

今日も1日ネットサーフィンかなぁとスマホを手に動画アプリを開き、適当な動画を流す。
流れる色とりどりの派手な演出、賑やかな笑い声、引き込まれる音楽に自然と笑みが零れる。
気がつけば時間が過ぎ、動いてないにも関わらず適度な疲労感にため息を吐く。

外の空気を吸いたい、体を動かしたいと思うが、生憎の雨。ちょっとの外出も途端に面倒に感じる。

どんよりとした風景を移す窓に近付き、止んでくれと念じながら額を付けると、ひんやりとした心地いい感触に目を閉じる。

ざぁざぁ、ぽつんぽつん、ぴちゃん。

テレビやスマホから流れていた音が無くなって、ようやく自然の音が耳に入ってきた。
色んな音が混じり合い、まるでオーケストラのようだと格好つけた感想が頭に浮かぶ。

雨が入り込まないように窓を少し開け、使い込まれた寝具に横になると、意識して雨の音を聴こうと耳を済ませた。

ざぁざぁ、ぽつんぽつん、ぴちゃん。

先程までの疲労感もあり、自然の音楽に少しずつ睡眠欲が湧いて出てくる。

今はこの雨音に包まれて惰眠を貪るのもいいかもしれない。やまない雨はないのだから、この時だけの音を楽しみ、太陽がまた顔を出す事を期待しながら重くなってきた瞼に抵抗せずに身を任せる。


部屋に流れる雨音のオーケストラに、すうすうと音がひとつ増えた。

6/11/2025, 5:58:16 AM

キラキラと太陽を反射させて揺れる水面。
ちゃぷ、と音と共に痺れるような冷たさが体全体を襲う。

1歩、また1歩と前に進めば眩い太陽のせいか潮風のせいか、ツンと目が染みてくる。

これから来る未来に期待と不安を胸にしながらも、1歩ずつ、確実に前に進む。

どぽんと全身が沈むと、静寂な世界が来ると思っていた予想とは反し、この世界はとても賑やかだ。だが、不快にはならない。

自分の意思と関わりなく手足が大きく動く。意識がどんどんぼんやりとしていくと同時に、手足も動かせなくなってくる。

嗚呼、望んだ終わりだ。と閉じていた目を開く。

光が降り注ぎ、まるで異世界か天国に来たかのような気分になる。

絶望していた世界ではあったが、最後に綺麗と思える感情が残っていた事に喜びを感じながらゆっくり意識を落とした。





力なく波に揺れながらも沈んでいくその人は、とても綺麗に微笑んでいた。