『涙の理由』
あなたと出会った日、僕は泣いていた。
クラスで人気のあなたは僕の手を握って黙っていてくれた。
あなたが僕を恋人に選んでくれた日、僕は泣いていた。
あなたは一度握った手を離そうとしなかった。
初めてデートに行った日、僕は泣いていた。
あなたは僕と喧嘩をしても最初に待ち合わせた場所から帰るときまで恋人繋ぎをやめなかった。
あなたが僕のプロポーズを受けてくれた日、僕はもう泣かないと決めた。
あなたは僕の手を握りしめながら、ただ、泣いていた。
妊娠が発覚した日、手を繋ぎながら僕は泣いてしまった。
あなたも嬉しそうに泣いていた。僕と手を繋いぎながら。
出産した日、僕たちの天使が生まれた日、僕は世界で一番の幸せ者になった。
あなたは僕の手を握りしめながら、僕たちの子を抱いていた。
反抗期、娘が家出をした日、僕は家の近所を真夜中になっても走り回っていた。
あなたはいつ娘が帰ってきてもいいように家で待っていてくれた。
娘が成人した日、僕はあなたと手を繋いでいた。
最期には3人で手を繋いで、写真を撮った。
定年退職をした日、僕はいつものように出社し、送別会には参加せずにまっすぐにあなたの待つ我が家へ帰った。
あなたは僕が帰ってくるやいなや、お疲れ様と言って僕を抱きしめた。二人で手を繋ぎながら久しぶりに映画を見た。
定期検診であなたに癌が見つかった日、僕は泣きそうになりながらあなたと手を繋いだ。
あなたも不安そうな顔で僕の手を震えながら握り続けた。
あなたが旅立った日、僕はあなたの手を繋いで離さなかった。涙でびしょびしょになっている僕にあなたは「今までありがとう。愛していますよ。」と最期に言って目を閉じた。あなたは二度と目を開けることはなかった。
今
この世界で
一番に
君に
力を込めて
伝えたいことが
あります
なんか太った?w
桔梗、それは秋に花を咲かせて冬には枯れきってしまう花。花言葉は永遠の愛。
「ね、ねえ良ければ僕と踊りませんか?」
「なんで急に敬語なんだよ笑じゃあこの学年のマドンナであり、広辞苑でもある私が幼馴染のよしみで踊ってあげましょう!」
そう言うと、桔梗(ききょう)は差し出した僕の手の先っちょを優しく掴んで微笑んだ。
僕はもう1年前から気が気じゃなかったんだ。
去年の体育祭、2年生がフォークダンスを踊っているのを見て真っ先に頭の中を埋め尽くしたのは桔梗のことだった。
幼馴染の桔梗は正直に言ってかわいい。学年の中でも一、二を争うほどだ。まあ、勉強は僕のほうが得意だが。
正直、彼女はサッカー部のチャラ男たちの誰かにかっさらわれていくと思っていた。内気な僕が話しかける前に猛アタックされて奪われて、、僕の儚い希望は失われて、、、ペアを決める当日は学校を休んだ。自分が傷つきたくなくて逃げた。
翌日、担任から「あ、そうそう。お前のダンスのペアは桔梗だから。よろしく〜。あーそう言えばあいつ、なんか言ってたな。お前から誘われたいらしいぞ。まあ、なんだ。お前も漢ならビシッと一発キメてこい!!」
半信半疑で臨んだ今回のお誘いだったのだ。
夏休みの練習を経て、本番。9月の体育祭で見事、踊り切ることができた。
体育祭も終わりに近づいたころ、桔梗の両親に出くわした。二人とも号泣して、父親は汗だくの俺を抱きしめてひたすらに「ありがとう」と言ってきた。ん?なにこれ。そんなに?高校生の娘の体育祭を観戦したからってここまで泣くか?少し不安になった僕は「えーっと。応援ありがとうございました。桔梗が僕をリードしてくれて。夏休みの自主練でも助けてもらいました。」桔梗の母は震える声で言った。「あの子は、桔梗は、、、冬にはもう亡くなっちゃうから。こんな無茶出来るのも今日が最期だったの。最期のフォークダンス、あなたと踊れて本当に良かったわ。本当にありがとう。」
桔梗の父は一層、力を入れて僕を抱きしめてきた。僕がそれをなんとか自分の頭の中に落とし込むのには時間を要した。その間に彼女は周りの友達には何も言わず、学校を辞めていた。
そこからはよく覚えていない。大好きな桔梗との時間はあまりに一瞬で、体育祭の後はどんどんとやつれていった。彼女は医者の診断通り、冬には息を引き取った。僕の目の前で、僕の腕の中で彼女は亡くなった。丁度、彼女の両親が席を外していた時だった。彼女の最期の言葉は「私はもう駄目みたい。先に逝って彼岸であなたを待ち続けてるから。急がずに、ゆっくり来てね。お土産話をいっぱい聞かせてもらうんだから。最後に一言言わせて。あなたのことを愛しています。」
僕ももう、寿命が近い。やっとそちら側へ逝けるみたいだよ。今から行くから。また僕と一緒に踊りませんか?
拝啓
別れ際に、今生の別れかもしれない卒業式の今日に、どうしても君に伝えたいことがあるのです。君を僕との縛りから解き放つために…
はあ、体が重い。制服を上から無理矢理着たせいか暑い。呼吸が……荒い。
廊下を走って君を探す。
教室……いない。
体育館………いない。
部室……………いない。
校門前の集団……いない。
一体どこにいるって言うんだ。
あ。あそこかも。あそこなのかも知れない。
君も僕と同じことを考えているならあそこにきっといるはず。屋上のさらにその上。この学校で一番太陽に近いあの場所に。
はぁはぁ……
疲れた…
呼吸が乱れてちゃダサいよね。
………
よし!行こう!!
やあ、久しぶり。なんだかんだ受験があったし会うのは本当に何ヶ月ぶりかだね。今日は伝えたいことがあって来たんだ。もう人生で会うことがないかも知れない君に。少しの間だったかも知れないけどお互いがお互いを愛し合っていた関係だった君に。これからそれぞれの道へ進んでいく僕たちの関係に今日で終止符を打とう。
ん…
なに?よりを戻そう??
……ごめん。それはできない。
俺には他に好きな人が出来たんだ。
君より頭が良くて、運動もできて、とてもかわいい子なんだ。
だから悪いけど……
うん…じゃあ、またね。
これで良いよね……
半年後、僕は病室で君に気づかれることなく息を引き取った。
誇らしさを持ちたい。矜持までは行かないけど、自信過剰までも行かない。ちょうどいい誇らしさを。
そのための成功体験が欲しい。ねぇ、神様…
一回でいいから私の気になるあの子を、私の方へ、振り向かせてはくれまいか。
そうはいかないか。ふむ…困ったものだ。
自分で道は切り開いてこそか…
だるいって、神様、、