桔梗、それは秋に花を咲かせて冬には枯れきってしまう花。花言葉は永遠の愛。
「ね、ねえ良ければ僕と踊りませんか?」
「なんで急に敬語なんだよ笑じゃあこの学年のマドンナであり、広辞苑でもある私が幼馴染のよしみで踊ってあげましょう!」
そう言うと、桔梗(ききょう)は差し出した僕の手の先っちょを優しく掴んで微笑んだ。
僕はもう1年前から気が気じゃなかったんだ。
去年の体育祭、2年生がフォークダンスを踊っているのを見て真っ先に頭の中を埋め尽くしたのは桔梗のことだった。
幼馴染の桔梗は正直に言ってかわいい。学年の中でも一、二を争うほどだ。まあ、勉強は僕のほうが得意だが。
正直、彼女はサッカー部のチャラ男たちの誰かにかっさらわれていくと思っていた。内気な僕が話しかける前に猛アタックされて奪われて、、僕の儚い希望は失われて、、、ペアを決める当日は学校を休んだ。自分が傷つきたくなくて逃げた。
翌日、担任から「あ、そうそう。お前のダンスのペアは桔梗だから。よろしく〜。あーそう言えばあいつ、なんか言ってたな。お前から誘われたいらしいぞ。まあ、なんだ。お前も漢ならビシッと一発キメてこい!!」
半信半疑で臨んだ今回のお誘いだったのだ。
夏休みの練習を経て、本番。9月の体育祭で見事、踊り切ることができた。
体育祭も終わりに近づいたころ、桔梗の両親に出くわした。二人とも号泣して、父親は汗だくの俺を抱きしめてひたすらに「ありがとう」と言ってきた。ん?なにこれ。そんなに?高校生の娘の体育祭を観戦したからってここまで泣くか?少し不安になった僕は「えーっと。応援ありがとうございました。桔梗が僕をリードしてくれて。夏休みの自主練でも助けてもらいました。」桔梗の母は震える声で言った。「あの子は、桔梗は、、、冬にはもう亡くなっちゃうから。こんな無茶出来るのも今日が最期だったの。最期のフォークダンス、あなたと踊れて本当に良かったわ。本当にありがとう。」
桔梗の父は一層、力を入れて僕を抱きしめてきた。僕がそれをなんとか自分の頭の中に落とし込むのには時間を要した。その間に彼女は周りの友達には何も言わず、学校を辞めていた。
そこからはよく覚えていない。大好きな桔梗との時間はあまりに一瞬で、体育祭の後はどんどんとやつれていった。彼女は医者の診断通り、冬には息を引き取った。僕の目の前で、僕の腕の中で彼女は亡くなった。丁度、彼女の両親が席を外していた時だった。彼女の最期の言葉は「私はもう駄目みたい。先に逝って彼岸であなたを待ち続けてるから。急がずに、ゆっくり来てね。お土産話をいっぱい聞かせてもらうんだから。最後に一言言わせて。あなたのことを愛しています。」
僕ももう、寿命が近い。やっとそちら側へ逝けるみたいだよ。今から行くから。また僕と一緒に踊りませんか?
10/5/2024, 9:17:19 AM