―スマイル―
笑っていれば、何も問われない。
笑っていれば、期待も失望も向けられない。
笑っていれば、踏み込まれないで済む。
便利だ。
本当に、吐き気がするくらい。
本音を出さない代わりに、
感情そのものを薄めてきた。
怒らない。
泣かない。
欲しがらない。
欲しがらなければ、奪われもしないから。
「大丈夫?」
その言葉に、反射で笑う。
大丈夫じゃないと答えたあとに待っている
沈黙と、気まずさと、後悔を知っているから。
誰も悪くない。
だからこそ、余計に救いがない。
私が笑っている限り、
誰も私を傷つけていないことになる。
笑顔は麻酔だ。
もう、何が辛いのかも分からない。
分からないから、助けも呼べない。
呼べないから、誰も来ない。
それでも笑う。
笑わなかった瞬間、
「何かを欲しがってしまった自分」が
はっきり見えてしまうから。
欲しがるのは、期待だ。
期待は、裏切られる前提で存在する。
だったら最初から何もない顔をしていたほうが楽だ。
それは、私を生かしているように見えて、
ゆっくり、確実に、私を消していく。
でも、もう戻れない。
笑わない私には、
居場所がないことを知ってしまったから。
だから今日も笑う。
中身が空っぽだと、
誰にも気づかれないように。
選ばなかった。笑っていれば、何も問われない。
笑っていれば、期待も失望も向けられない。
笑っていれば、失敗しても「まあ、あの子だし」で済む。
便利だ。
本当に、吐き気がするくらい。
本音を出さない代わりに、
感情そのものを薄めてきた。
怒らない。
泣かない。
欲しがらない。
欲しがらなければ、奪われもしないから。
「大丈夫?」
その言葉に、反射で笑う。
大丈夫じゃないと答えたあとに待っている
沈黙と、気まずさと、後悔を知っているから。
誰も悪くない。
だからこそ、余計に救いがない。
私が笑っている限り、
誰も私を傷つけていないことになる。
笑顔は、麻酔だ。
痛みを消すんじゃない。
「痛いと感じる権利」を奪う。
もう、何が辛いのかも分からない。
分からないから、助けも呼べない。
呼べないから、誰も来ない。
それでも笑う。
笑わなかった瞬間、
「何かを欲しがってしまった自分」が
はっきり見えてしまうから。
欲しがるのは、期待だ。
期待は、裏切られる前提で存在する。
だったら最初から、
何も持たない顔をしていたほうが楽だ。
それは、私を生かしているように見えて、
ゆっくり、確実に、私を消していく。
―でも、もう戻れない。
笑わない私には、
居場所がないことを知ってしまったから。
だから今日も笑う。
中身が空っぽだと、
誰にも気づかれないように。
進まなかった。
続けなかった。
私は視線を落とし、
そのまま、何もしなかった。
私は、諦めたわけじゃない。
最初から、始めていないだけだ。
題名:【文明の利器】
―どこにも書けないこと―
私は、努力している人を見ると、吐き気がする。
拍手も称賛も、全部、うるさい。
「頑張れば報われる」
そんな顔で立っているのが、どうしようもなく気に入らない。
努力なんて、才能の言い換えだ。
そう思わないと、やっていられなかった。
時間を使える余裕、信じ続けられる心、折れても立ち上がれる強さ。
それを全部を持っているくせに、「続ければできるようになるよ」なんて言われると、
胸の奥で何かがぐちゃりと潰れる。
私は、努力できない。
正確に言えば、
努力しても、信じられない。
続けた先に何もなかったとき、
自分が完全に空っぽだと認めてしまう気がして、
最初から本気になれない。
だから、途中でやめる。
途中で諦める。
「本気じゃなかったし」と、逃げ道を残す。
それなのに、
本気で走り続けて、
ちゃんと結果を手に入れる人を見ると、
なぜか裏切られた気分になる。
ずるい。
本当に、ずるい。
私が守ってきた言い訳を、
あの人たちは、何も言わずに踏み越えていく。
汗を流して、歯を食いしばって、
私が避けてきた場所に立っている。
嫌いだ。
尊敬なんてしていない。
ただ、自分が惨めになるから、
視界に入ってほしくないだけだ。
それでも私は、
努力する人の失敗を、心のどこかで待っている。
「ほらね」と思える瞬間を、
密かに、卑しく、期待している。
私は、もう努力しない。
諦めたのではなく、選ばなかっただけだ。
頑張らない理由を並べるのも、
誰かと比べて傷つくのも、
全部、疲れてしまった。
あの子と一緒にコンクールに絵を出すとき。
あの子は
“めんどくさい”
“センスないから無理”
“◯◯は絶対入賞するじゃん。絵うまいし。”
そう言うあの子の絵はいつも輝いていて、
惹き込まれる魅力があって、
それなのに。
謙遜して。
心から私はあの子の絵を好きだと言っていたのに。
踏み躙られたような気がした。
否定されたような気がした
結果は、
あの子だけ入賞して、私だけ外れた。
先生は、あの子を褒めた後、
“◯◯さんだけ入賞したけど◯◯さんも県の審査までは入っていたと思うよ。”
そう言って。
慰めてるつもりか。
情をかけているつもりか。
先生の隣で、あの子は謙遜しながら喜ぶ。
私は。
それを横目に。
先生の言葉を遮るように。
背を向けて別の友達と喋り出す。
先生とあの子の声が聞こえないくらいに。
いつも通り明るくうるさく友達と一緒に喋る。
それなのに先生とあの子の声が後ろからよく聞こえる。
私が誘わなかったら描くことすらしなかったくせに。
私はちゃんと期限の数日前に先生に出したのに。
ちゃんと出した私の前で完成していないと。
それなのに正直に言わずにズルをして。
あの子は忘れたと先生に嘘をついて。
あの子は1日遅れて出して。
それが先生に通って。
許せなかった。
なんで。
一瞬で今までにないほど言葉が浮かんだ。
もう嫌だった。
疲れた。
伸ばせるはずだった手を下ろして。
可能性という言葉から目を逸らす。
夢も期待も。
最初から持たなければ失わずに済む。
走り続ける人たちの背中をもう追わない。
追えなかった自分を、これ以上責めもしない。
私はここで止まる。
努力という選択肢を、
静かに、意識的に、捨てる。
何も変わらない明日を受け入れて、
何も起こらない今日を繰り返す。
どうせ無理だし。
題名:【選択肢も結果も2つのみ。】
―時計―
時計の針は、いつも正しい。
1秒ずつ、規則正しく進む。
遅れることも、迷うこともなく進む。
設定された通りに、ただ時を刻み続ける。
そこに感情はなく、躊躇もない。
嬉しいから早まることも、
悲しいから立ち止まることもない。
時計の針は、世界に等しく時間を配る。
今日も昨日も明日も、
同じ速さで、同じ方向へ。
それなのに、
その時間を受け取る私たちは、
いつも同じ形ではいられない。
止まってほしい瞬間ほど、針は静かに進んでいく。
早く過ぎてほしい夜ほど、時を刻む音がやけに大きく聞こえる。
針は、何も選ばない。
けれど私たちは、
流れていく時間の中で、
手を伸ばしたり、
そっと離したりしながら生きている。
忘れたいと思った記憶ほど、
光を帯びて残ってしまい、
大切にしたかった想いほど、
言葉にならないまま胸に沈む。
時計の針は、
それらを知ることなく、
今日もまた、一秒を次の一秒へ渡す。
私は、その音を聞きながら、
気づかないふりをしていた「それ」に、
ようやく名前をつけようとしていた。
けれど針は、
その答えを待つことなく、
もう次の時刻を指している。
題名:【模範解答なし】
―溢れる気持ち―
何気ない日々、何気ない日常、何気なく過ぎていく時。そんな代わり映えのしない、何気ない日常は平々凡々であると言えるだろう。だから、いつものように、今日という日も、昨日や明日と同じ箱にしまい込もうとしていた。ただ、学校に行って、いつものように、何気なく授業を受けて、何気なく友達と笑って過ごす。
けど、笑っているのに、幸せなはずなのに、いっぱい遊んでいる。それなのに、なんか、なにかが、心の奥底で渦巻いているような、違和感があるような、気がしていた。
そういえば私、SNSの綺麗な写真集を見て、「この場所綺麗だな」「羨ましいな」「私の周りにこんな綺麗な場所ないな」とか思ってたっけ。
そのとき、「君」が脳裏に浮かんだ。
「見て、空が綺麗だよ」
だなんて、何気ない日常の一部であるそれを、心の底から綺麗だと目を輝かせている君。その時は軽く受け流していたはずなのに、気づけば私は、いつのまにか、君に感化されていた。
何気ない日常の一部として、どうでもよかったはずだったのに。
これまで知っていると思い込んでいたはずの世界に、ふいに色が宿る。
音が流れ、光が差し、草木が唄い出す。
君の笑い声が鮮明に聞こえる。
立ち止まる理由もないはずなのに、影ですら美しく見えた。
見える。聞こえる。
当たり前だと思っていた感覚が、今になって一つずつ輪郭を持ちはじめる。
世界はずっとここにあったはずなのに、今日になって、ほんの少し広がった気がした。
その瞬間、何気ない、という言葉は、
私の中で意味を失った―――。
題名:【世界というキャンバス】