サイコロ

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2/13/2026, 1:49:03 PM

―待ってて―

「――――」
その言葉は約束というより、
僕の中でひとつの季節みたいに居座った。 

終わりが来ないまま、
ただ、居続ける季節。

最初の頃、僕は、
時間を数えていた。 

あとどれくらい。
あとどれくらいで。
あとどれくらいしたら。 

でも、ある日、
数えるのをやめた。

数えても、
減っていかないことに気づいたから。 

「待つ」という行為は、
未来に向かうものだと思っていた。

でも違った。

待つというのは、
同じ場所に、
何度も自分を戻し続けることだった。

僕は、
新しい景色を見ても、
新しい人に会っても、
どこかで必ず、

この場所の温度を探してしまう。

ここじゃない、と確認して、
また、戻ってくる。

君は、
きっと覚えていない。

あのとき、
どんな声で言ったのかも。
どんな顔で言ったのかも。

もしかしたら、 
本当に、
何気ない一言だったのかもしれない。

でも私は、
その何気ない一言を、
ここまで持ってきてしまった。

捨てる理由が見つからないまま。

あの日の言葉は
時間とともに薄れていく。

写真みたいに
色褪せて
ぼやけて
削れて


あの日、君が何と言ったのかも曖昧になった。

それでも。

君は。

どこかで誰かと時を過ごしている。

僕は。

ひだまりのような君の笑顔を探し続けている。


記憶から切り離そうとしても離せない。

君は僕の唯一の存在だったから。
僕には君しか居ないから。

でも、 

君にとって僕は背景の一部。
僕を選ばなくても他の人がいる。

それが、とてつもなく憎い。

ずるい。

ずるいよ。

僕を選んでよ。

僕の心には君が根をはっている。

種を植えても、根だけが伸び続けて、どれだけ待っても花が咲かない。抜いても意味を持たない。

僕じゃだめ?

僕には君しかいないんだよ。

ねぇ、

幸せにするから。

僕は君をずっと待ってるよ。

帰ってきてよ。

「待ってて」って君が言ったんだから。

おねがい。独りにしないで―――


題名:【廃墟の花壇】

2/12/2026, 10:51:15 AM

―伝えたい― 

伝えたい。

その言葉を考えるだけで、
少しだけ息が苦しくなる。

最初は、
ただ、君に届けばいいと思っていた。

君が困っても、
笑ってごまかされても、

それでも、

「言えた」という事実だけで、
私は救われると思っていた。

でも。 

違った。

伝えたいと思うたび、
君との「今」が、
どんどん脆く見えるようになった。 

君は、何も変わらない。 

いつも通り笑って、
いつも通り話して、
いつも通り、
私の隣に立つ。

それなのに私は、
一人だけ、
崖の端に立っているみたいになる。

 

もし言ったら。 

この距離は、

もう二度と戻らない。

今みたいに、

名前を呼んでもらえないかもしれない。

今みたいに、 

何でもない話で笑えないかもしれない。 

今みたいに、

「また明日」って言えないかもしれない。

それが怖い。

怖いのに。

それ以上に、
このまま何も言わずにいる未来のほうが、
もっと怖い。

私は、
君の人生に、
何も残らないまま消えるのが怖い。

数年後。
君が、
別の誰かの隣で笑っていても。

その記憶の中に、
私は、

背景の一部にもいないかもしれない。 

それが。
どうしようもなく、
痛い。

伝えたい、は、
もう願いじゃない。 

ただの、
恐怖に近い。

私は今日も、
君の隣で笑う。

喉の奥で、
言葉が、
形になりかけて、
何度も崩れる。

もし今、

君が、
少しでも、
私から離れたら。

私はきっと、
この気持ちごと、
どこにも出せないまま、
腐らせてしまう。 

それが分かっているのに。


私は、

何も言わない。

何も言えない。


だって、


君にとって私は。
 

季節が一つ巡れば、
思い出す理由も。
きっと、なくなる。




そのくらいの存在だから。

  



だから。






君といられなくなるなら。






このままでいい。






題名:【重ならない輪郭】

2/11/2026, 2:02:30 PM

―この場所で―

この場所で、僕は今日も立っている。
駅前の、あの自動販売機の横。
待ち合わせはいつもそこだった。 

君はだいたい遅れるから、
僕は少し早めに来て
飲み物を一本買って待つのが習慣だった。 

今日も同じ。

炭酸のボタンを押して、
ぬるくなりかけた缶を手に持つ。
開けないまま。

君が来たら、
「それ、もう炭酸抜けてるよ」って笑うはずだから。
人が通り過ぎていく。 

足音。
笑い声。
改札の音。

世界は、何も変わっていない。

変わったのは、
君が来なくなったことだけ。

——そう、言われた。
ちゃんと説明も受けた。 

数字も、時間も、
もう動かないことも。

僕はそのとき、泣かなかった。
泣いたら、本当に終わる気がしたから。

だから今も、
終わっていない。

この場所で待っていれば、
まだ「約束の途中」だ。

遅れているだけ。
きっとそう。

最近は、
君の顔を思い出すのに時間がかかる。
声も、少し遠い。
代わりに、
「来ない」という事実だけが、
やけにはっきりしてきた。

それでも足はここに向かう。

来ないと分かっているのに、
来ないことを確認しに来るみたいに。

缶はまだ開けていない。
炭酸は、きっともう抜けている。
それでも僕は、
そっと缶を握り直す。

指先の感覚が、少し鈍い。

この場所で、僕は少しずつ削れていく。
悲しみはもう鋭くない。
ただ、薄く、
毎日同じところを擦られている。

いつか本当に、
君の顔も、

声も、

何も思い出せなくなったら。

そのとき、僕はどうするんだろう。

待つ理由がなくなったら。

今日も、
君は来ない。


―もう。君が来ないなら僕が迎えに行ってあげる。


虚ろ虚ろに歩き出し、
駅の改札を乗り越える。


待っててね。今迎えに行くから。


周りの声がよく聞こえない。
向こう側から来る電車を見つめる。


きっと、
君は天国にはいない。

だって、僕にうそをついたから。

きっと、
君はしごくにいる。


だから、むかえにいく。


君はさびしがりやさんだから、


君はぼくがいないとだめなんでしょ。


まってて、いまからそっちにいくから。


じごくは君ひとりだったらかなしいよね。


でもぼくといっしょならたのしいよ


でんしゃがきた。
ぼくはせんろにむかってはしる。


















ぼくね
君がいないとたのしくない






ぼくやさしいから
君がやくそくやぶったのはゆるしてあげる






だいすきだよ







いま
むかえにいくからね







そしたら

また

やくそくのばしょつくろ







やっと

また

君にあえる







またせちゃってごめんね














だいす――――――――――







題名:【炭酸が抜ける前に、】

2/10/2026, 10:59:38 AM

―誰もがみんな―

誰もがみんな、
心の奥底で自分は特別だと思って生きている。 

選ばれる側だと。
見つけてもらえる側だと。
ちゃんと名前を呼ばれる側だと。  

努力という言葉を掲げ、
夢と言う形のないものを必死に握りながら

進んでいるようで。

同じ場所で足踏みを続ける。

失敗した人を見ては安堵し、
成功した人を見ては黙る。

誰もがみんな、
他人を材料にして
自分の物語を保とうとする。
 
優しい言葉を使う。
理解しているふりもする。
「大丈夫だよ。」といいながら、
手を伸ばすふりをして、
本当は一歩引いたところに立っている。

そして、本当に手を差し伸べるとしても
その手は自分が傷付かないところまで。

誰もがみんな、
救われたいと思いながら、
誰かを救う覚悟は持たない。

正しさを選んで、
安全な方に立って、
それでも孤独だと嘆く。

夜、独りになって、
ようやく本音が心の奥底から浮き上がってくる。

それでも朝になれば、
また何もなかったような顔をして、
同じ列に戻る。

誰もがみんな、
同じように不安で。
同じように怖くて。
でも、
同じように置き換え可能で。

それを知ってしまった瞬間から、自分たちは。
特別だと思っていた自分は。
ただの数の1つになる。

誰もがみんな。

そして、
自分たちが座っている席は指定席ではなく、
自由席である。


貴方たちが自分の席だと思って座っている場所は

他人がその席に座っても何の問題もない。


それは、
貴方だけがそうなのではなく、

誰もがみんな、等しく、同じなのである。




それだけの話。






題名:【真実は如何に】

2/9/2026, 11:01:33 AM

―花束―

花束を選ぶのに、また時間がかかった。
君は「どれでもいいよ」って言うくせに、
渡すと必ず、色の並びをじっと見る。
それから少し間を置いて、
「悪くないね」って言う人だった。 

だから今日も、
その間を思い出しながら迷う。
派手すぎないもの。
でも地味すぎないもの。
君が「落ち着く」って言いそうな色。

歩きながら、会話を続ける。
最近のこと。
どうでもいい失敗。
昔みたいな、意味のない話。

君はきっと相槌を打って、
天使の梯子みたいな笑顔を向ける。

ここに来る道は、もう覚えた。

待ち合わせに遅れそうなとき、
君が先に歩いていた道。
「置いてくよ」って言いながら、
結局すぐ隣に戻ってくる。

今日も同じように歩く。
花束を抱えて。

君の歩幅を想像しながら。
風が吹く。
花が少し揺れる。
「寒くない?」
問いかけるが風に攫われたのか返事が聞こえなかった。
僕は足を止める。

少しだけ、間を置く。

君のほうを見る癖が、まだ抜けない。





それから、
花束を抱え直して、
 


そっと、地面に置いて手を離す。





明日、贈る約束だった花束を。


 


明日、贈れなくなった花束を。

 



明日、君に贈るはずだった指輪を。

 



明日、君に伝えれなかった言葉を。

 



もう届かないはずなのに、わかってるのに、








それでも君に愛しています。と伝える。







昨日、あまりにも早すぎる天の迎えが来た君へ。














題名:【拝啓 君へ――】

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