―時計―
時計の針は、いつも正しい。
1秒ずつ、規則正しく進む。
遅れることも、迷うこともなく進む。
設定された通りに、ただ時を刻み続ける。
そこに感情はなく、躊躇もない。
嬉しいから早まることも、
悲しいから立ち止まることもない。
時計の針は、世界に等しく時間を配る。
今日も昨日も明日も、
同じ速さで、同じ方向へ。
それなのに、
その時間を受け取る私たちは、
いつも同じ形ではいられない。
止まってほしい瞬間ほど、針は静かに進んでいく。
早く過ぎてほしい夜ほど、時を刻む音がやけに大きく聞こえる。
針は、何も選ばない。
けれど私たちは、
流れていく時間の中で、
手を伸ばしたり、
そっと離したりしながら生きている。
忘れたいと思った記憶ほど、
光を帯びて残ってしまい、
大切にしたかった想いほど、
言葉にならないまま胸に沈む。
時計の針は、
それらを知ることなく、
今日もまた、一秒を次の一秒へ渡す。
私は、その音を聞きながら、
気づかないふりをしていた「それ」に、
ようやく名前をつけようとしていた。
けれど針は、
その答えを待つことなく、
もう次の時刻を指している。
題名:【模範解答なし】
2/6/2026, 10:19:12 PM