anonym

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8/21/2022, 1:02:18 PM

鳥のようになれたなら、あの果てしない大空を自由に羽ばたけるのだろか。遮る物さえ交わして、行きたい所へと自由自在に飛ぶことの出来る鳥ならば、思い立った時に君の側へと行けるだろう。
あるいは君のような優しい人間に飼われてしまうのだろうか。まあそれも一興なのかもしれない。籠の中の自由であれど、その身一杯に愛情を注がれるのなら前向きに考えてしまいそうだ。酷い人間だったらその時はその時だ。結局今と対して変わらないような日常のようなものだろうし。
でも、やっぱり人間でいたい。鳥になったら命を狙われるはずだけど、こんな平穏な日常を送っている人間が生き長らえられるわけがない。鳥が自由だと言うが、鳥が空中だけで生きるのは少々難しいだろう。それは人間と何ら変わらない。何よりも話せなくて、笑いあえなくて、触れられないというのはこれほどない地獄だろうに。仮初の自由も、本当の自由も要らないから、とにかく

鳥のようになれたとしても、君の傍に居ることが出来る人間のままでいたい。



[鳥のように]

8/20/2022, 12:29:28 PM

さよならを言う前に、ふと浮かんでしまった。ずっと昔からそばに居た君を、これから会うこともないだろう君の記憶にどうやったら残れるのか。けれど生憎それを発する勇気はなかった。でも君に傷を負わせたい。ならば、と誘導した。
「いつまでも捨てられないもの、ってある?」
君が答えられないのは知っているし、逆に質問で返して来るのも知っていた。ようやく捨てようとしているから秘密、と返せば黙り込む。多分、それは君の目の前にいる奴のことだろう?最初に質問を投げかけた、ずっとそばに居た奴。君が恋人を作れないのはきっとそいつのせいで、心のどこかで鬱陶しく思ってるんだろう?……なんて、自分で自分を悪く言うのはちょっとしんどいけれど。けれどもう会うことも無いこの機会に君に出来うる限りの傷を与えたかった。何度恋人を作って変えても顔色ひとつ変えず嫉妬もしない君が恨めしかった。こんなにも好きなのに、君はその感情を抱いてくれていない、と。
「いつまでも捨てられないものを捨てるためにここにいるんだ」
「好きだよ。ずっと前から」
君に精一杯の感情をぶつけよう。ちょっとでも傷が付いて、少しでも記憶に残り続けてくれればいい。

さよならを言う前に、君を呪おうと思う。



[さよならを言う前に]

8/19/2022, 1:48:45 PM

空模様を眺め続けて時間が溶ける。人は手が届かないものほど惹かれる、とはよく言ったもので決して届く事の無い空にも同じことが言えるらしい。手を伸ばしても、乗り物に乗っても、飛んでも触れることは出来ない。そもそも概念的なものなので触れる云々は不可能なのだけれど。
けれど、貴方は溶けた。あの気分が沈みそうな鈍色の、曇天の空に煙となって消えていった。だからこそ貴方が消えていった空に惹かれ、愛している。

空模様はきっと、貴方の表情だから。



[空模様]

8/18/2022, 3:15:23 PM

鏡に映る自分に触れた。実際はただただ平凡な顔で、言ってしまえば特段醜い訳では無いことくらい自覚してる。ちょっとの加工でみんなと大して変わらない顔面偏差値になれるんだから間違いない。けれど、今は、この瞬間は酷く醜く思えてしまう。ふっと視線を落として蛇口から流れる水を見た。
ふと思いついて視線を上げて、声に出した。素敵だね、と。ああ、よく見ると目もぱっちりしてるし、口元もいい感じじゃない?あれ、思ってたよりも自分って――なんて。思い込んでしまえば自分もカースト上位の子達くらい良い顔に見えたけど、その自己洗脳も解いてしまえば映るのは死んだ目をする気味の悪い表情だけ。嗚呼、君だったら毎朝鏡を見る瞬間も楽しいのかな、なんて思ったりして。花が咲くような笑顔や、ただぼーっとする表情さえも見惚れてしまうような君だったのなら。
そして君の顔を正面から見れる鏡にさえ嫉妬した。

やっぱり鏡は好きになれない。



[鏡]

8/17/2022, 12:20:04 PM

いつまでも捨てられないもの、ってある?
そんな問いかけを急にされては思い付くものも思い付かない。そもそもこんな質問を突然してくるなんて一体どうしたものか。逆に問い返すとケラケラと君は笑った。目を細めて、僅かに開いた口で、視線が奪われる。ハッとして視線を手元に戻すと君は言葉を続けた。ようやく捨てようとしているから秘密、だと。自分が答えられない質問をしないでと言うと、君にやんわりと肯定されたが、それでもなお興味があるのか回答を促してきた。
答えられるわけが無い。何年も傍にいるために、君の隣にいられるようにと捨て去ったはずの心情だと言えるものか。気が付くと恋人を作って、別れて、また作って。コロコロと変わる君の恋人を恨めしく思いながらも、結局燻り続けている君への感情が捨てきれないなんて、そんなこと、言えるはずが

「いつまでも捨てられないものを捨てるためにここにいるんだ」

「好きだよ。ずっと前から」

ない、はずだった。



[いつまでも捨てられないもの]

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