anonym

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8/16/2022, 12:14:29 PM

誇らしさ、とは一体なんだろうか。勝つこと、可能にすること、日常を平穏に過ごすことも十分誇らしいだろう。世間は若者のことを謙遜しすぎだ、とか勇気がないとか息を荒くして喋るがそんな風にしたのは一体誰なのやら。こうしなければ生きられなくしたのは間違いなく自分達よりも上の世代で、そして世間全体なのに。
けれど、今回ばかりは自分を誇っていいのかもしれない。勇気を出して「助けて」の一言を言えた自分自身も、その一言を聞いて手を差し伸べてくれた優しい君も。ずっと誰にも言えなかったその一言は案外あっさりと受け入れられて、君には褒められた。助けを求めるのは並大抵の勇気じゃない、誇るべきだ、と。嗚呼、そんなことでいいのか。自分を卑下して自ら病みに行く必要なんてなくて、ただ自分の行動を認めるだけでいいのか。その途端にふっと心が軽くなって視界が歪んでしまった。泣かないで、と困った顔を見せた君に涙を拭われた。

誇らしさとは、思っていたよりも些細なことでいいらしい。



[誇らしさ]

8/15/2022, 12:21:37 PM

夜の海ほど惹かれるものはない、そう言ったのは君だった。
毎夜天候が荒れない限り海へ赴いていた君は確かにそう言ってきた。日中の海には目もくれないくせに、月が昇ると取り憑かれたかのように同じ場所へと向かっていた。
一度聞いたことがある。夜の海の何処が好きなのか、と。君はただただ笑って「わからない」と答えた。そっか、と返した後の無言の間は波の音が埋めてくれた。
君は本当に海を好いて、愛していたのだろう。人に言うことも無く、写真を撮るわけでもなく、ただ海と共に何もせず時間を過ごすだけでも、君が確かに海を愛していたことは伝わっていた。
だから、海にも愛されてしまったのだろう。昼間の君が笑顔を見せてくれた花で繕った花束を海に投げ捨てれば乾いた笑みが零れ落ちてしまう。

君を奪った夜の海は、嫌いだ。



[夜の海]

8/14/2022, 3:54:55 PM

自転車に乗って、風を切って、無心に進む。夕方の疲れきった身体で坂を登り、下り、ただただ進んでいく。誰と話すことも無く、唯一人とすれ違う時くらいは気を付けながら。カゴに入れた鞄から下げられたキーホルダーが揺れ、ぶつかり、カタカタと音を鳴らす。やけに静かで寂しくて、虚しい。
いつも一緒に帰っていた君はいない。自転車を降りてゆっくり歩いて帰った日が遠い昔のように感じる。もう君と帰ることはない。遥か遠くに聞こえるはずの子供の声が、鳥の声がやけにうるさく感じた。短い音が響き自転車が止まる。真っ赤に光る信号が恨めしい。

君を忘れるのも、思い出すのも、何をするにもまず、自転車に乗ってから。



[自転車に乗って]