それは唐突で不意打ちなサプライズだった。
中学時代からの夢を叶えるべく飛び込んだ新しい職場で働き始めて3ヶ月。
そろそろ業務にも慣れ始め、褒められるよりもオペレーションに関する注意をされることの方が多くなり、業務に関する多少の悩みも生じはじめ、何より3ヶ月も経ってあまり仲間達と仲良く打ち解けられておらず、周りはこの職場に来る前から友達でしたが?みたいな顔して仲良くしているのを見て自分ちょっと孤独だなと寂しさに沈んでいる時に迎えたクリスマス。
今日も、仲間達は2人1組になって現場から帰る中、私は1人で更衣室まで歩いて帰った。
最近、2人組からあぶれて1人になってしまうな。私だって誰かと雑談しながら更衣室まで帰りたいのに。トホホ……。と思いつつ更衣室で着替えをしていると、多少他の人よりも雑談をする仲である後輩が、私を見かけてカバンをゴソゴソやりだした。
お?何だなんだ?
後輩が何をしでかすか全く分からなかった私がどうしたのかと見守っていると、その後輩はそれはもうとびきり素敵な笑顔で「メリークリスマス!」と可愛いラッピングの袋を差し出した。
周りよりは少し仲良いかなとは思っていたが、まさかクリスマスプレゼントまで用意してくれているとは。
仲良しさんが居ないなと思っていたので、感動に心が震える。
半ば恐縮しながらも受け取り、恐る恐る開けてみると中身はお菓子詰め合わせだった。
何かお返しに出来るものないかとバッグを漁ると、今日仕事に行く前に買ったマーブルチョコがあった。お返しに渡すと、後輩は「このチョコ大好きなんです!」と滅茶苦茶嬉しそうにしてくれた。
サプライズなプレゼントに心臓の辺りがほっこり暖かくなったような気がした。
お菓子はどれも美味しかった。
手を繋いでと言うと、思い出す思い出が1つある。
東京ディズニーシーに遊びに行ったあの日、チップとデールのグリに出くわした。整列も何も無いただのフリグリだった。
どうやら今からどこかに移動しようとしていたところらしかった。
サイン欲しい!そう思って声をかけようと隣に立った私に、まだ触れ合いがありだったのもあってチップは手を差し伸べてくれた。
反射的に繋いでしまったチップの手は、私の小さめな手を包み込めるほど大きくて、冬に向けて寒くなってきていた気候のあの日にはとても暖かかった。
そうして手を繋いだまま少し一緒にお散歩して、到着した場所でサインを書いてツーショットを撮ってくれた。
これが、私の初めてキャラと手を繋いだ思い出である。
僕のご主人は、それはそれはもう熱しやすくて冷めやすいタイプである。
僕もその被害にあった被害者の1人だ。
僕はそれはそれはふわふわで、自分で言うのもなんだけど可愛いぬいぐるみだった。
某夢の国の世界一有名なアヒルが作ったという設定を持つ白いクマのぬいぐるみ。それが僕だった。
僕とご主人の初めての出会いは、某夢の国関連のグッズの専門ショップだった。
とても真剣な顔で他にも沢山いる僕の仲間達と僕の顔をじっくりと見比べ、店員さんと何やら話をして、君に決めた!ってな具合でご主人の腕に抱かれたのが僕だったのだ。
ご主人の僕への入れ込み用と言ったら、それは凄まじいものだった。
僕のお洋服を、僕を買ったグッズショップやフリマアプリで買い集めて着せ替えを楽しんだり、某夢の国にお供として連れて行ってくれたり、その後は綺麗になろうね!と一緒にお風呂に入ったりしていた。
しかし、ご主人は次第に僕を可愛がる事に飽きてきてしまったようだ。
某夢の国のとある海賊の船長に熱烈にハマってしまったある日を境に、色々と着せ替えてもらえていた僕の服装はその船長のコスプレで固定となり、夢の国に連れて行ってもらえても、僕は突発的に出てきた船長の気を引くためのお道具と成り下がった。
バッグに押し込められて、船長が目の前に出てきた時以外に出して貰えなくもなった。
勿論、お風呂だって入れて貰えなくなった。僕を洗うのは、究極のものぐさであるご主人からしたら面倒くさいだろうからね。
というわけで僕は今、夢の国に連れて行ってもらえる日以外は某海賊の鉤爪船長のコスプレをしたまま、部屋の片隅のベッドの上に押しやられ、毎日ご主人の様子を眺める日々を送っている。
「部屋の片隅」
眠れない。
暖かな布団に包まれ、1寸の光もない暗闇の中で目を閉じても、思い浮かぶはその言葉ばかり。
眠れもしないはずだ。それもそのはず。
瞼を閉じると、あの人の眩しい笑顔が思い浮かんでしまって、全く眠れそうにもない。
今日見た彼の笑顔があまりにも眩しくこの記憶に焼き付いてしまったから。
『眠れないほど』
『夢と現実』
私は小さな頃から重度の夢女子であった。
某超次元なサッカーから夢が始まり、数々の作品を経由して今はさる海賊の鉤爪の船長に落ち着いている。
支部や某占いサイトでありとあらゆる最推し達と大恋愛の末に結ばれたり結ばれなかったりした。
某超次元なサッカーの世界では仲間の一員になって世界最強のチート能力持ちとして一緒に冒険をした。
某ひとつなぎの大秘宝の世界では、これまた全ての実の能力が使え、覇気も全種類習得しているる最強の海賊として主人公の仲間になったり、白い髭の人の所の家族の一員になったり、海軍として奮闘した。
某ポケットなモンスターの世界では、モンスター達と会話出来るという設定でチャンピオンを目指したし、邪神に呼び出されて元の世界に帰る為に奮闘したし、カラシ師匠の道場の入門者としてまったり修行をした。
最近では支部で捻れた世界で踊ることが多い。
ありとあらゆる登場キャラ達と恋に落ち、時には元からキャラの婚約者として活躍し、時にはキャラ達と怪異に巻き込まれてスレ立てをし、時には悪女に謀られて嫌われたり嫌われなかったり、元の世界に帰ったりなどした。
そして今現在最推しとして据えている某夢の国の鉤爪船長とは、私が夢の国に遊びに来て出会えた時にどんな反応するかを妄想して楽しんでいる。勿論大恋愛の末に結ばれたりも忘れない。
数々のキャラ達から「ふーん、おもしれぇ女」の称号を頂戴した美魔女がこの私なのだが、現実ではどうだろう。
まずそもそも、愛した男たちは鉤爪船長意外画面から出てくることも無く恋愛のれの字もない。
唯一会える系最推しである鉤爪船長に至っても、目の前にするとたちまちド緊張のあまり口の中が一瞬でカラカラに乾いて足がすくみ、好きとしか考えられなくなって言葉も出なくなる。
夢の中ではあんなにもハグをしたり、ぺちゃくちゃお喋りをしたりするのに、現実の私は少し遠目から眺めているしか出来なかった。
容姿だって、夢では100人中100人が振り返るほどの美人かカワイイ系だったが、現実では自分磨きなどこれっぽっちもしていないが故に至って平凡な顔つきで、体だって至る所をかき壊してしまっているから汚いものである。
夢の中の私は、私のこうなりたいの理想である。
私は今、鉤爪船長が目の前にいても億さず話せるくらいになりたい。ハグだってしたいし、手を取ってエスコートして貰えた人が羨ましいとまで思う。
そんな理想を、私は今日も夢見続ける