青く深く
色々な魚が泳ぐ水槽、その中の一つにクラゲの水槽があった。ぷかぷかと泳ぐ姿は海で見るものと違い、ライトアップされた姿が美しくどこか神秘的にも感じられる。
綺麗で自由で、どこか儚い印象を受けるそれを眺め、また次の水槽へと足を運んでいく。隣にいるあなたが、気まぐれにどこかへ行ってしまわないようにと強く手を握った。
夏の気配
先日までの雨模様が嘘のように快晴が続いていた。ニュースでは観測史上最も早い梅雨明けだと連日報じられている。空には入道雲が浮かんでおり、なんとも夏らしい景色だ。
夏の気配を感じる前に、夏が怒涛に押し寄せたような暑さを感じる。そんな中、クーラーをガンガンに効かせた部屋から一歩も出ない私のような人間がいても悪くはないだろう。
まだ見ぬ世界へ!
彼の手を掴めばいいだけ。彼が向かう先には楽しい日々、輝かしい未来が待っているような、そんな気配を感じる。それでも自分の環境が変わることに怯えて、足を踏み出せないのは自分だ。
最後の声
最後の声、その声は届かなかった。直後の大きな破裂音にかき消されたのだ。あたりには静寂が漂った。
その姿を目にした時、手を大きく伸ばしたがうまいこと動かないことに気づいて、ふと見ると自分の手のひらは真っ赤に染まっていた。
全部が上手いこと動かないことに気づいて、よく見ると自分の身体中あちこちと血が滲んでいた。痛みなんてもうとうに感じなくなっていた。なのに、頭はぼんやりとしてきて目の前が黒く塗り潰されていく感覚に、必死に両目をこじ開けようとするも意思に反して閉じていく。
届かない手を伸ばす。
君は最後何を伝えたかったのだろう。
小さな愛
夕ご飯を食べ、片付けを終わらせてソファに座る。今日は先に仕事が終わっていた彼が夕食を作ってくれていたため、ここは公平にと俺が片付けを済ませた。
「お疲れ。はいこれ」
先に一息ついていた彼は、俺に向かって何かを差し出した。それは俺が食べたいと言っていた新商品のお菓子だった。ありがとうと受け取ると封を開けて一つ口に放り込む。最近流行りのチョコミントが口の中で溶けていった。
「一個いる?」
「俺はチョコミント苦手だからいらないよ」
そ?とまた一つ口に放り込んだ。
「俺が食べたいのよく覚えてたね」
「そりゃ恋人の好きなものですから」
「…自分は苦手なのに?」
「俺が食べるわけじゃないからね」
全部食べたらいいよと優しく頭を撫でられる。
この人はチョコミントというよりも、そもそも甘いものが苦手だから、お菓子コーナーを覗くことがないはずなのに、それでもコンビニに寄ったら俺が好きそうなものを買ってきてくれるのだ。
そんな優しさがたまらなく幸せに感じてしまうのだった。