梅雨に濡れる君が好き
田舎のバス停までの道のりで「傘ないから入れてよ」なんて行って傘に入ってくるキミ。
キミがいつも折り畳み傘を通学カバンに入れてるのを知らないフリをした僕。
お互い様だな、なんて内心苦笑しながら少し濡れてしまったキミにタオルを渡し田舎道を歩く。
バス停がもっと遠ければいいのに……なんて思いながら。
梅雨に濡れる君が好き
「単位足りてんのー?卒業出来る?」
突然降り出した雨から逃れてコンビニの軒先で濡れた髪を拭きながらニヤリと君は笑う。
仕方がないから勉強みてあげる、なんて言ってるけれど勉強道具持ってきてるのバレバレだからな?
梅雨に濡れる君が好き
「降るかな、なんとかもってくれるといいな……。」
暗く広がる曇天を見上げつつ白無垢姿の君は憂鬱そうにため息をつく。
でも、そんな姿すら愛おしくて抱きしめたら気崩れるからって怒られたのはいい思い出かな。
梅雨に濡れる君達が好き
前日から入念に準備して出かけたピクニック。
突然の雨に追われ逃げ込んだ屋根のあるベンチで涙ぐむ娘をあやすキミ。
ふくれっ面になりながらもお弁当を食べる娘に笑いつつ、タオルで2人を拭いてあげる。
梅雨に濡れる君が居ないのは寂しい
娘が独り立ちし、孫も生まれ今年も梅雨の時期がやってきた。
残念ながら、もうキミは隣には居ないけれど近々私もそちらに行くよ。
だからもう少しだけ待っていておくれ。
それじゃあそろそろ行くよ、孫たちが遊んでおくれとうるさいんだ。
また来るから、ね。
そう言って梅雨の雨に濡れる墓石をそっと撫でてから帰路に着く。
それは明日かもしれないし、来週かもしれないし、数ヶ月後、それとも数年後かもしれない。
でも必ず迎えに行くからそれまでもうしばらく待っていてくれよ。
そしてまた笑ってくれよ、ずぶ濡れだねって。
ー天気の話なんてどうだっていいんだ。俺が話したいことは、ー
「本日はお日柄も良く……」
なんて外行きの猫を被ったキミと俺は始終無難な話をしながら庭園を歩く。
「週末のデート、雨みたいだよ。」
なんてスマホの向こうで少し残念そうにキミは喋る。
「晴れてよかった、皆遅れず集まれそうだね!」
なんて真っ白なドレスに包まれたキミは少し頬を赤らめ笑う。
「観測史上最大の積雪ってニュースしてたけど、大丈夫?高速が通行止めになったからってくれぐれも下道で来ようとしないでね?」
男には一生体験できないほどの痛みを感じているはずなのに、そんな時ですらキミは俺を気遣ってくれる。
「七五三、晴れたね。」
「ほらっ、入学式遅れるよ。雨降るかもしれないから傘忘れずに!」
「体育会雨天延期だったけど、スケジュール的に助かったね。」
家族が増えてお天道様のご機嫌伺いをすることが増えた。
「今日はなーんの日だっ!?ほらほら、快晴だよ?そしてここに映画のペアチケットがあります。ね?」
大丈夫、記念日は忘れてないよ。
なんならいつサプライズプレゼントを渡そうかと今朝からソワソワしてるんだよこっちは。
「なかなか晴れないね。……窓際のベッドじゃないから関係ないか、エヘヘ。」
なんでそんなに笑うんだよ。
無理して笑ってるのバレバレなんだよ。
いつもいつも笑いやがって……。
「…………。」
なんで何も言ってくれないんだよ、俺や子供たちを残して先にいきやがって。
いつもみたいに天気の話しろよ。
そしてしょうもないことで笑えよ……笑ってくれよ。
墓石を濡らすこの雨は、キミが流す雨なのか?
天気なんてどうでもいいんだよ、俺はそんなことよりもっともっと愛してるって伝えたいんだ。
好きだ、愛してるってもっと言わせてくれよ……。
「いい天気だ、いい雨が降っておる。」
ベッドに横たわり、窓から覗く雨雲を嬉しそうに見る儂を見て子供や孫たちが不思議そうな顔をしている。
そんな姿を見てつい笑みがこぼれてしまう。
「やっと儂もそっちに行ける。だいぶ長いこと待たせてしまったね。」
嗚呼、これでやっとキミに伝えにいける。
『心の底からキミを愛しています。』
ーただ、必死に走る私。何かから逃げるように。ー
※私の死生観をつらつらと書き綴ったので、本文中に“死”という単語が頻出します。
なので苦手な方は読み飛ばしてくださいますようお願いいたします。
人生。
それは死から逃れる逃走劇なのか、それとも死へとひた走る逃避行なのか。
きっとそれは捉え方の違いでしかないんだろう。
死を肯定的に捉え死を欲し死へと向かうを人生と捉える人。
死を否定的に捉え忌避し生にしがみつくを人生と捉える人。
当然、死を欲するなんて言うと不謹慎だと怒られるだろう。
だが、少なくとも私の中には“より良い死に様”を迎えたいという願望が確かにあるのだ。
無論、今すぐ死にたいと言っている訳では無い。
あくまで自分の納得する死に方へ向けて準備する過程こそが人生だと思っているのだ。
なので当然ながら私が納得できない死に様など真っ平御免なのである。
最後まで好きに生きて満足して死ぬ、そのためにはくだらない死からは逃げ切らねばならない。
『死ぬために死から逃れる』
なんてことを言ってもきっと誰にも理解されないのだろう。
そして多くの人は生きることが目的でその後の結果として死がやってくると言うのだろう。
それでも私の中にはきっとこれからもより良い死に様を迎えるという目的のために生きるという結果が残り続けるだろう。
これは、あくまで作者である私が今現在心に秘めている死生観である。
今後の人生を歩んでいく中でその考えが変わるか変わらないかは分からない。
なので、ただただ思ったことをつらつらと書き連ねたチラシの裏の落書き程度に思っていただければと思いつつ話を締めさせて頂きたく思います。
ー半袖ー
同じ県内だけれども学校も住んでる場所も違う。
高校に上がってそれぞれ勉強と部活に追われ時間もお金もない。
ガラケーでやり取りするメールに一喜一憂していたあの頃。
季節はそんな“あの頃”の梅雨。
初めて私は……いや、僕は君の半袖姿を見たんだったね。
『なんだか恥ずかしいね』
付き合って初めてのデートの待ち合わせでそんなことを言いながら少し不安げに腕を隠す君がとても愛おしく思えたのを今でも鮮明に覚えているよ。
その後乗ったデート先への電車は残念な空模様のせいかいつもより混みあっていて。
でもその分いつもより縮んだ距離感がとてもくすぐったく思えてつい目を背けてしまう僕を見て君はニヤリ、と笑う。
そして悪戯を思い付いたような顔で更に距離を縮めた君には本当に参ったよ。
そんなこんなで季節はめぐり夏が来て、半袖姿の君にようやく見慣れた頃。
花火大会の待ち合わせに現れた君は艶やかな水色が眩しい浴衣姿でニヤリと笑ったね。
デート中に突然手を組んできた時も、初めてキスした時も、文化祭にサプライズで学生服を着て現れた時も、別れの時も。
僕の心の中に残る君は未だに半袖姿で、まるでイタズラが成功した子供のようにニヤリと笑っているよ。
嗚呼、あれから何年経っただろうか?
“僕”ではなく“俺”でもなく“私”になった今。
初めてデートしたあの時のような雨音に耳を傾けつつ湧き出る若き日の思い出にそっとまた蓋をしよう。
そして半袖姿でニヤリと笑う笑顔が素敵な君が、どうか幸せな人生を歩めていますように。
細い細い銀鎖で作られたネックレス。
少し力を込めればちぎれてしまいそうな銀細工。
浮気してるくせに律儀にクリスマスプレゼントとして嫁が渡してきたプレゼント。
もう離婚したから“元”嫁ではあるが。
“ソレ”を未だに身につけているのは自分でも気付いていない未練なのかなわなのか。
『もう未練なんてない、新しい恋がしたい』
なんて言っているけれど、自分自身で気付かないくらい深い深い心の底でまだ彼女に縛られているのかもしれない。
きっとこの“呪縛”が解かれるのは心の底から愛し愛される相手に出会えた時なのだ……そう思いつつ今日もネックレスをつけバスに揺られている。