ー天気の話なんてどうだっていいんだ。俺が話したいことは、ー
「本日はお日柄も良く……」
なんて外行きの猫を被ったキミと俺は始終無難な話をしながら庭園を歩く。
「週末のデート、雨みたいだよ。」
なんてスマホの向こうで少し残念そうにキミは喋る。
「晴れてよかった、皆遅れず集まれそうだね!」
なんて真っ白なドレスに包まれたキミは少し頬を赤らめ笑う。
「観測史上最大の積雪ってニュースしてたけど、大丈夫?高速が通行止めになったからってくれぐれも下道で来ようとしないでね?」
男には一生体験できないほどの痛みを感じているはずなのに、そんな時ですらキミは俺を気遣ってくれる。
「七五三、晴れたね。」
「ほらっ、入学式遅れるよ。雨降るかもしれないから傘忘れずに!」
「体育会雨天延期だったけど、スケジュール的に助かったね。」
家族が増えてお天道様のご機嫌伺いをすることが増えた。
「今日はなーんの日だっ!?ほらほら、快晴だよ?そしてここに映画のペアチケットがあります。ね?」
大丈夫、記念日は忘れてないよ。
なんならいつサプライズプレゼントを渡そうかと今朝からソワソワしてるんだよこっちは。
「なかなか晴れないね。……窓際のベッドじゃないから関係ないか、エヘヘ。」
なんでそんなに笑うんだよ。
無理して笑ってるのバレバレなんだよ。
いつもいつも笑いやがって……。
「…………。」
なんで何も言ってくれないんだよ、俺や子供たちを残して先にいきやがって。
いつもみたいに天気の話しろよ。
そしてしょうもないことで笑えよ……笑ってくれよ。
墓石を濡らすこの雨は、キミが流す雨なのか?
天気なんてどうでもいいんだよ、俺はそんなことよりもっともっと愛してるって伝えたいんだ。
好きだ、愛してるってもっと言わせてくれよ……。
「いい天気だ、いい雨が降っておる。」
ベッドに横たわり、窓から覗く雨雲を嬉しそうに見る儂を見て子供や孫たちが不思議そうな顔をしている。
そんな姿を見てつい笑みがこぼれてしまう。
「やっと儂もそっちに行ける。だいぶ長いこと待たせてしまったね。」
嗚呼、これでやっとキミに伝えにいける。
『心の底からキミを愛しています。』
5/31/2023, 1:38:13 PM