【友だちの思い出】
「やっぱりソーダ味」
そう言いながら、コンビニで買った棒付きアイスにそいつはかぶりつく。夕方になる時間、まだ日差しは強く首もとが熱い。
「梨味もいいと思うけど」
同じアイスの別の味を開きながら言うと、そいつは口の中のアイスを飲み込んで、
「ソーダ味が至高っしょ」
「梨も旨いよ」
「一口くれ」
「やだ」
「けちー」
そんな、帰り道。
まだまだ暑い、夏の日。
「確かにソーダ味、悪くはないな」
一人で食べる、アイス。
あの時と同じ時期なのに、随分と寒く感じた。
【日差し】
「暑いな」
「夏だし」
「この強い日差しだけでも弱めてもらえたら幸い」
「駄目だろ、この強い日差しこそ夏」
「この、皮膚をじりじり焼くようなやつが?必要か?」
「必要かどうかと問われたら、ちょっと悩む」
「だよなー」
「アイス食べたい」
「分かる」
【夏】
目を閉じても、高い湿度と温度が、眠りに落とさせてくれない。首もとを、汗が流れていく。
仕方ないので、ずいぶん夜中だけれども、サンダルを履いて外へ行く。草むしりの時に使った、携帯用蚊取り線香ケースを、火を付けた蚊取り線香を入れて、腰につける。漂う、独特の煙。
夜空にぼんやりと月が見えて、見ながら歩く。
「煙を止めてくれない?煙い」
突然、隣から声がして振り向くと、真っ白な肌と金色の髪の、背丈からして小学生位の子供がいた。しかし、
「き、つね?」
頭部のふわふわな三角耳と、背中の方のふわふわなしっぽを見て、つい呟く。子供はふふ、と笑って、
「ね、止めて。いいものあげるから」
そう言うので、何となく、線香を折る。火のついた部分はアスファルトに落として、消えるまで踏んで消した。子供は嬉しそうに、
「じゃ、これあげる」
こちらの手に何か握らせて、真っ直ぐ目を見てきて、
「おやすみ」
気がつくと布団だった。いつの間にか帰宅して、寝ていたのか。体をうーん、と伸ばそうとして、手に何か握っているのに気付いた。開く。
「石?」
淡い紫の、石がそこにはあった。
ついでに、蚊にさされていた。三ヵ所。
【あなたがいたから】
(もうすぐ始まる……)
手に汗がにじんでくる。心臓がバクバク言い出す。
ここは学校の体育館の、ステージの袖。もうすぐ、私達が立ち上げた演劇部の、初回公演が始まる。文化祭の1ステージで、観客もさっき袖から覗いた限りでは多くないけれど、でも。
「緊張、してる?」
隣で、舞台衣装に身を包んだ相方が、こっちに囁いてきた。頷くと、
「大丈夫だって。ちゃんと稽古してきたんだし、ちゃんと出来る出来る」
笑顔を向けてきた。それでも私の顔が緊張してたのか、
「おまじない」
私の汗ばんだ手をそっと包んで、
「俺の虜にしてやんよ!的な気分でいってこい」
「何それ」
つい、小さく笑ってしまう。
(あ)
緊張が、和らぐ。姿勢を正して、
「ありがと」
小さい声で礼を言った。
幕が開く合図のブザーが鳴り響く。
(いてくれて、よかった)
さあ、開幕だ。
【相合傘】
「降ってきたな」
「お前傘は?」
「朝は晴れてたんだよ」
「さて問題です」
「唐突に何」
「ここに折り畳み傘が1本」
「それを俺に譲ってくれて、お前はびしょ濡れと」
「誰が譲るか」
「じゃ、お前だけ傘で俺は濡れてもいいと?」
「言ってない」
「なら?」
「問題。傘1本でガタイのいい男子2人、濡れずに駅までたどり着くには」
「無理」
「だよなー」
「相合傘する?」
「仕方ない、入れてやろう」
「俺の傘なんですけど?」