【愛言葉】
「好き」
「すき」
「愛している」
「あいしてる」
うすっぺらいことばばっか。てきとーにかえすのも、めんどくさい。
「ばっかじゃないの」
だから、そのときはおどろいた。こっちがあいそよくわらってるのに、なに?
「あんた、それでいいの?」
なにそれ。わからないしらない、てきとーにいきててきとーにわらって、てきとーにしていたらそれでいいとおもって、
(なんで)
「嫌なんじゃ、ないの?」
こんどはしずかに、そいつがきくから。
「……わかんない」
したをむいて、そうこたえたら。そいつはティッシュをさしだしてきた。ティッシュ?
「泣きたかったんじゃね?」
(そっか)
なみだとはなみずがでて、やっとじぶんのきもち、すこしわかった。
(だれかに、そういってもらいたかった)
ティッシュでかおをふいて、のこりかえしながら、ありがとといっしょに、
「あんたのこと、好きかも」
いったら、ものすごくいやそうなかおされた。
【心の健康】
休日だからとただひたすら眠り続けていたら、外は朝から昼を過ぎ、すっかり暗くなっていた。
目を開くと、天井と壁が見えて、そして昨日の嫌なことが怒涛のように押し寄せてくる。だから、ずっと目を閉じていたのに、どうやらもう誤魔化しは効かないようだ。
(お腹空いた)
それでも空腹にはなるのだな、と思いながら、布団から出る。軽く、伸びをして、体のゴキゴキ鳴るのを聞く。
「お腹空いてるんだ?」
気付いて、呟く。
(ああ)
眠り続けたせいか、ただ時間薬なのか。
体は少しは回復していて、空腹を訴える程にはなっていたのだろう。
ちょっと微笑む。
【太陽】
「何で、吸血鬼とか怪物って、日光駄目なのかね?」
隣を歩く友人は、いつも突拍子もないことを言い出す。さあね、と頷きながら、自分はさっき買ったアイスをかじる。
「日光アレルギーとか?」
「極度にも程がある。吸血鬼なんて砂になるレベルだぞ」
友人も、アイスを舐めながらうーん、と唸った。
「我々の方が異常に耐性があって、太陽は生物を焼き殺そうとしてるとか」
「なんの為に生まれたんだ我々は」
「打倒太陽の為?」
謎すぎる会話。だが、それもまた楽しいから。
夏の光を放つ空の火球に、話題提供ありがとうと視線を少しだけ向ける。そして後悔する。
「この夏はとうとう、太陽本気出したな」
「違いない」
暑すぎる。
【鐘の音】
もう、行かなきゃいけない時間だと、それを知らせる鐘が鳴ったと、隣に座っていた彼女が立ち上がって言う。自分はそれを理解しながら、でも引き留めたくて、
「もう少しだけ、いられない?」
口に出していた。少し手を伸ばして、彼女の腕をつかもうとしていた。それを見た彼女は微笑んで、でも悲しそうに、
「駄目だよ、行かなきゃ」
呟くように言って、歩き出す。
自分は。
立ち上がることすら出来ず、ただ見送る。
頬に涙が流れているのを感じた。
「って夢を見た」
「会いたかったんだね、彼女に」
「うん、会いたかった」
「……昼ご飯、食べに行こうか。一緒に」
「ありがと。おごり?」
「元気になったのは良いけど、おごらないからな」
精一杯、元気に言って、そして元気に返され、笑って立ち上がる。
昼時を知らせる鐘が聞こえる。
【澄んだ瞳】
そんな目でこちらを見ないで。
この手は血塗られていて、自分は情けない程に濁っているから。
もう、会えないだろうけれど。
「バイバイ」
恐ろしい程に清らかにこっちを見てくるから、だからそっと手を振り返した。