はじめ

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8/14/2024, 9:32:03 AM

【心の健康】

 休日だからとただひたすら眠り続けていたら、外は朝から昼を過ぎ、すっかり暗くなっていた。
 目を開くと、天井と壁が見えて、そして昨日の嫌なことが怒涛のように押し寄せてくる。だから、ずっと目を閉じていたのに、どうやらもう誤魔化しは効かないようだ。
(お腹空いた)
 それでも空腹にはなるのだな、と思いながら、布団から出る。軽く、伸びをして、体のゴキゴキ鳴るのを聞く。
「お腹空いてるんだ?」
 気付いて、呟く。
(ああ)
 眠り続けたせいか、ただ時間薬なのか。
 体は少しは回復していて、空腹を訴える程にはなっていたのだろう。
 ちょっと微笑む。

8/7/2024, 8:50:13 AM

【太陽】

「何で、吸血鬼とか怪物って、日光駄目なのかね?」
 隣を歩く友人は、いつも突拍子もないことを言い出す。さあね、と頷きながら、自分はさっき買ったアイスをかじる。
「日光アレルギーとか?」
「極度にも程がある。吸血鬼なんて砂になるレベルだぞ」 
 友人も、アイスを舐めながらうーん、と唸った。
「我々の方が異常に耐性があって、太陽は生物を焼き殺そうとしてるとか」
「なんの為に生まれたんだ我々は」
「打倒太陽の為?」
 謎すぎる会話。だが、それもまた楽しいから。
 夏の光を放つ空の火球に、話題提供ありがとうと視線を少しだけ向ける。そして後悔する。
「この夏はとうとう、太陽本気出したな」
「違いない」
 暑すぎる。

8/6/2024, 1:38:25 AM

【鐘の音】

 もう、行かなきゃいけない時間だと、それを知らせる鐘が鳴ったと、隣に座っていた彼女が立ち上がって言う。自分はそれを理解しながら、でも引き留めたくて、
「もう少しだけ、いられない?」
 口に出していた。少し手を伸ばして、彼女の腕をつかもうとしていた。それを見た彼女は微笑んで、でも悲しそうに、
「駄目だよ、行かなきゃ」
 呟くように言って、歩き出す。
 自分は。
 立ち上がることすら出来ず、ただ見送る。
 頬に涙が流れているのを感じた。

「って夢を見た」
「会いたかったんだね、彼女に」
「うん、会いたかった」
「……昼ご飯、食べに行こうか。一緒に」
「ありがと。おごり?」
「元気になったのは良いけど、おごらないからな」
 精一杯、元気に言って、そして元気に返され、笑って立ち上がる。
 昼時を知らせる鐘が聞こえる。
 

7/31/2024, 8:01:33 AM

【澄んだ瞳】


 そんな目でこちらを見ないで。
 この手は血塗られていて、自分は情けない程に濁っているから。
 もう、会えないだろうけれど。
「バイバイ」
 恐ろしい程に清らかにこっちを見てくるから、だからそっと手を振り返した。

7/26/2024, 4:13:11 PM

【誰かのためになるならば】


 もう、足はない。右腕もない。眼球も取り出され、内蔵もあちこちない。残った内蔵は薬剤漬けだ。皮膚もだいぶ取られている。
 腕や眼球や皮膚は移植のため。残った部分は薬や治療の実験のため。
 そのために、自分は生かされている。
 

「しかし、こんなになって生きてるって、どんな気分なんでしょうね」
「そういうことを言うものじゃないけどね。でも、彼に限って言えば」
「言えば?」
「幸せそうだよ」

 そう。
 誰かのためになるならば、こんなに幸せなことはない。
 ほぼ、動かない頬の筋肉を使って、ほほえんでみた。

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