はじめ

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【鐘の音】

 もう、行かなきゃいけない時間だと、それを知らせる鐘が鳴ったと、隣に座っていた彼女が立ち上がって言う。自分はそれを理解しながら、でも引き留めたくて、
「もう少しだけ、いられない?」
 口に出していた。少し手を伸ばして、彼女の腕をつかもうとしていた。それを見た彼女は微笑んで、でも悲しそうに、
「駄目だよ、行かなきゃ」
 呟くように言って、歩き出す。
 自分は。
 立ち上がることすら出来ず、ただ見送る。
 頬に涙が流れているのを感じた。

「って夢を見た」
「会いたかったんだね、彼女に」
「うん、会いたかった」
「……昼ご飯、食べに行こうか。一緒に」
「ありがと。おごり?」
「元気になったのは良いけど、おごらないからな」
 精一杯、元気に言って、そして元気に返され、笑って立ち上がる。
 昼時を知らせる鐘が聞こえる。
 

8/6/2024, 1:38:25 AM