【あなたがいたから】
(もうすぐ始まる……)
手に汗がにじんでくる。心臓がバクバク言い出す。
ここは学校の体育館の、ステージの袖。もうすぐ、私達が立ち上げた演劇部の、初回公演が始まる。文化祭の1ステージで、観客もさっき袖から覗いた限りでは多くないけれど、でも。
「緊張、してる?」
隣で、舞台衣装に身を包んだ相方が、こっちに囁いてきた。頷くと、
「大丈夫だって。ちゃんと稽古してきたんだし、ちゃんと出来る出来る」
笑顔を向けてきた。それでも私の顔が緊張してたのか、
「おまじない」
私の汗ばんだ手をそっと包んで、
「俺の虜にしてやんよ!的な気分でいってこい」
「何それ」
つい、小さく笑ってしまう。
(あ)
緊張が、和らぐ。姿勢を正して、
「ありがと」
小さい声で礼を言った。
幕が開く合図のブザーが鳴り響く。
(いてくれて、よかった)
さあ、開幕だ。
6/21/2024, 1:56:26 AM