【特別な存在】
薄曇りの空が広がっている。
学活が終わって、鞄を取って駆け出す。部活も入ってないし、塾もバイトもない。時間ならある。
(今日は会えるか)
スニーカーを履いて、校門から足早に外に。角を曲がって坂を上って、上りきった所の、石段の上に鳥居が見えてくる。石段を足早に上がって、
「ふう」
息を吐く。流石に、ここまで走ると息も切れる。
でも。
そのまま、境内を見る。曇り空と生い茂る木々のせいでそこは、一層暗いのだけれど。
「…あ」
雲の間から、差し込む僅かな日光。そこに、
「いた」
思わず呟く。
白い肌、白い髪、神主の装束のような服もほぼ白く、横顔の瞳のみ赤い。
そして、烏帽子のような被り物の横から、髪の毛とは違う、白くふわふわした三角形のものが生えている。二つ。まるで、狐の耳のような。
その人は、こちらを見ず、そのまま神社の奥へと歩きだした。
「あ、あのっ」
つい、声をかけてしまう。でもそのまま、その人は歩いて。
「うわっ」
風が吹いた。自分の髪が乱れて、目を閉じた一瞬、差し込んでいた光が消えていた。
あの人も、消えていた。
(また、会えるかな)
思いながら、今日もお参りをする。
【バカみたい】
ああもう。
なんでみんな、私の話を聞いてくれないんだろう。
私が絶対正義なんて言わないけど、他の方法試して無理で、でもまだ見捨ててないから私のやり方やってほしいって言うの、そんなに駄目なの?
「こっちにしなさい、こっちの方がいいから。決まりね」
って言ってくるのなんで?私は何時までも何も決めちゃいけないの?
あの人に選択肢委ねたら、楽な方しか選ばずに、それで今まで駄目だったのに?それで私の案は出したら消されて?
もう考えるの嫌になってきた。
なんでこんなに、他人の人生考えているんだろう。
バカみたい。
【二人ぼっち】
空は高い。
ちくちくとする芝生の上に、二人で座る。
わずかに風が吹いて、髪を揺らす。
「二人きりだね」
右側がそう囁いて、左側が静かに頷く。
「どうなるのかな、これから」
「どうなってもいいよ、一緒だから」
話して、見つめ合って、微笑む。そっと手を繋ぐ。
空は高く青く、そして何もない。
何も、ない。
薄暗い場所に一人立つ。床は固く、天井は高く、手を伸ばしても届かない。
目の前は分厚い布だ。その向こう側、ざわざわと声が聞こえる。わずかに差し込む、光。
右を見て、左を見ると、仲間がこっちを見ているのが分かる。この薄暗い中でも、私の動きを心配して、そして期待していることが、はっきりと伝わってくる。
ああ。
(わくわくしてきたー!)
客電が消え、アナウンスが流れ、その後目の前の緞帳が上がる。高い高い天井から、私へと光が降ってくる。
その時、客が見るのは私だ。
私を、見て、期待して、そして、
「ふふ」
口の中、すぐ隣に誰かいなければ聞こえないぐらいの小さい声で微笑んで、そして袖に立つ仲間達に頷いてみせる。
さあ、始まりだ。胸を張り、真っ直ぐ立つ。
ブー、と劇場に開始のブザーが鳴り響く。
「不条理とは?」
「人間と世界の関係が道理に合わないこと、だって」
「根拠がないってことか」
「全ては偶然」
「偶然と言いつつ、それが必然」
「世の中は不条理で満ちてるね」
「それな」