はじめ

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【特別な存在】

薄曇りの空が広がっている。
学活が終わって、鞄を取って駆け出す。部活も入ってないし、塾もバイトもない。時間ならある。
(今日は会えるか)
スニーカーを履いて、校門から足早に外に。角を曲がって坂を上って、上りきった所の、石段の上に鳥居が見えてくる。石段を足早に上がって、
「ふう」
息を吐く。流石に、ここまで走ると息も切れる。
でも。
そのまま、境内を見る。曇り空と生い茂る木々のせいでそこは、一層暗いのだけれど。
「…あ」
雲の間から、差し込む僅かな日光。そこに、
「いた」
思わず呟く。
白い肌、白い髪、神主の装束のような服もほぼ白く、横顔の瞳のみ赤い。
そして、烏帽子のような被り物の横から、髪の毛とは違う、白くふわふわした三角形のものが生えている。二つ。まるで、狐の耳のような。
その人は、こちらを見ず、そのまま神社の奥へと歩きだした。
「あ、あのっ」
つい、声をかけてしまう。でもそのまま、その人は歩いて。
「うわっ」
風が吹いた。自分の髪が乱れて、目を閉じた一瞬、差し込んでいた光が消えていた。
あの人も、消えていた。
(また、会えるかな)
思いながら、今日もお参りをする。

3/24/2024, 4:29:22 AM