『Kiss』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
この世で一番現実味がない言葉な気がする
【Kiss】
【Kiss】
うつろひぬ
君が温もり
淡き恋
ともにはまじに
果てむとぞ思ふ
〈解説〉
うつろひぬ→形が失われていく
君が温もり→君の温度
ともにはまじに→ともに混じり合って
果てむとぞ思う→命が尽きるその瞬間まで思う
《君の温度と淡い恋の形が失われていく。ともに命が尽きるその瞬間までともに混じり合いたい》
古文って、なんか、いいですよね。
僕は、すきです。
満たされぬ胃袋も心も口も
君がくちびる噛めば終わるか
(260204 Kiss)
「恋愛のABCって知ってる?」
まあなんとなくは
「おぉーさすが 鈍感な君が分かるなんて、...もしや彼氏さんのおかげでは??」
それはない
「えっ、違うんだ。まぁ分かるならよし」
で、本題は?
頬を赤らめた親友は耳元で囁く
「///...なんと、Cまで行きました///」
続く
#kiss
𖧷キス𖧷
猫ちゃんがおいらのほっぺ
ペロペロしてくれる!
かわいいチューでしょ?
でも、猫のベロって
ザラザラしてるから…
ペロペロされると、
ザラザラって(笑)
いてててて♡彡
『kiss』
なんて事のない僕の部屋
ただ違うのは
隣に君がいるという事
たわいのない話で静かに過ごし
しばらく2人で三日月を見た
顔を近づける機会はあったけど
学校の話ではにかむ君に
友人の話で笑う君に
月を見て寂しげな顔の君に
僕の方はただ見惚れていた
機会に目を背けるように
目を細めながら
ただ一緒に月を見た
「今日のデート楽しかったよ
明日また学校で」
別れ道を行こうとしたら
あなたは黙って私の手を引いて
気づいたときにはKissしてた
冷たいKissが
得意な風は
あっという間に
背を向ける
やさしいKissを
くれる春風
しばらく一緒に
踊ってくれる
………Kiss
Kiss
たった4つの文字の羅列がこんなにも薔薇色に見えるのは何故かしら。
遠い君へ
幼き頃 僅かな記憶 亡き父の
タバコの香り ただいまのキス
#Kiss
Kiss
唇から首筋へと降るキスは、私を狂わせていく
このまま堕ちてはいけないとわかっていても、
跳ねる心臓と熱くなる身体は心とは裏腹だ。
「俺のものになってくれ…」
切なく囁く彼の瞳には、私しか映っていなかった。
君にキスした。その瞬間、世界が変わった気配がした。
いろんな心配事、身近なものだったり、遠くの国の人たちのこととか、僕はくよくよ悩んでばかりだった。でも、今はそんなの気にならなくなって、愛とか真実が、きっとそこにあるって信じられた。
ここがどこだって構わない、本当は公園の広場の真ん中にいたけど、ここがお花畑だって、二人で将来住むお屋敷だって、反対に、何にもない砂漠だって、どこだっていい。
情熱が人を突き動かしている。炎のように、メラメラと湧き立つ心がある限り……なんて僕は馬鹿にしていたけど、その意味もわかった。教えてくれた人ごめんなさい。あなたの言う通りでした。
僕は君とひとつになって、世界はそこだけになった。
やがて、崖っぷちに僕たちは立っていることに気づいて、思わず抱き合った。
あたりは殺風景では表せないほど、無の空間になっていて、見下ろすと溶岩が吹き上げていた。
キスなんかしなきゃよかった。
「は〜、ベッドふかふかで幸せ〜。ここが天国かな……」
「……吐かないでくださいよ先輩。それ、俺のベッドなんだから」
だいじょぶよぉ、なんて間の抜けた返事が返ってきて、こちらまで脱力した。
時の流れの力は偉大だ。彼氏に振られた直後は目に見えるほど落ち込んでいた先輩も、数週間も経つとずいぶん元気を取り戻したようだった。
そしてなぜか、相変わらず飲みに付き合わされ続ける俺。突き放した態度を取ったはずなのに。
「……ここ、一応男の部屋ですからね。わかってます?」
「……へーきだよ……だってきみは、わたしがいやがること、しないもんねぇ」
先輩はそう言うと、それが限界だったのか、すぅすぅと寝息を立てはじめた。
「……『嫌がること』、か」
本当にこの先輩は、図々しくて、無神経で。憎らしくてたまらない。
裏切ってやろうと思った。この先輩が勝手に『信頼』だと思い込んでいる何かを。
俺は、ベッドに無防備に寝転んでいる先輩に近づいた。そして。
先輩の頬に、そっと口づけた。
……今晩の俺には、それが限界だった。
『Kiss』
〝Kiss〟
キスって言葉は知っている。
だけど、
したこともないし、したいとも思っていなかった。
なのに、あなたを一目見た時から、
不思議とあなたに触れたくなった。
聞いてもいいかな。
恥ずかしいから、小さく、速く、英語で。
「Is it okay if I kiss you?」
【Kiss】
「おまたせしましたぁ〜」
ほぼ予定どおりの時間にもかかわらず、スミレ先生はいつもこう言いながら爽やかな笑顔で僕の前に現れる。
「お忙しいのに、お時間割いていただいてありがとうございます。どうしても、次回作の相談に乗っていただきたくて…」
「いやいや、先生。それ、原稿を依頼している僕の台詞ですから。実際、今日の打ち合わせをお願いしたのはこちらの方ですし」
「ふふふ、確かにそうですね。でも、私もちょうど相談したかったのでタイミングはバッチリです。さすがは『担当さん』ですねぇ〜」
そう言いながら、スミレ先生はいつものようにカバンの中から「ジャポニカ学習帳」と万年筆を取り出した。打ち合わせをするときはこまめにメモをとり、時にはその場で原稿の冒頭部分ができてしまうこともある。
「珍しいですよね。今どき、先生みたいに手書きにこだわる作家さんって」
しまった、つい失礼なことを言ってしまった。作家と編集担当という関係が長くなり、ついつい余計なことを言ってしまう瞬間が増えていることは自覚して反省していたはずなのに。
「手書きっていうか、万年筆が大好きなんですよ。だから、隙あらば万年筆を使いたいっていうのが本当のところです」
なるほど。でも、これほどまでに人を惹きつける万年筆の魅力というものが今ひとつわからない。
「万年筆のどこに惹きつけられるんですか?」
「それはですね…」
と、スミレ先生はジャポニカ学習帳の白紙のページに万年筆のペン先をそっとあてた。その瞬間、ブルーグリーンのインクが白い紙に向かって流れ出す。
「この『Kissをする瞬間』がめっちゃ好きなんです」
き…キ…Kiss…ですか⁈
「そうですよ。この万年筆のペン先と白い紙が触れ合う瞬間って、Kiss以外にどう表現するんですか!」
いつも、穏やかでほんわかしたイメージのスミレ先生がこれほど激しく力説するのを初めて見た。
「私、筆圧が弱いので他の筆記具だと書いたものを読み返すと文字がかすれていたり薄すぎたりで見づらいんです。でも、万年筆だと一定の力を加えて書けばインクが均等に出てくれる。いわば『弱者に優しい』筆記具なんです」
私は万年筆に救われて作家になれたんです、とスミレ先生は嬉しそうに語った。
「じゃ、そろそろ打ち合わせに入り…」
と言うスミレ先生だったが、僕には先ほどから心に引っかかることがあった。
「あの、先ほど先生が言われた『Kissをする瞬間』って、身近な人なんかには感じないんですか?」
あ、やっぱりマズかったか。さすがに怒らせてしまったかと思ったが、意外にもスミレ先生は冷静だった。
「今のご時世、それってコンプライアンス違反ですよね。だから、ノーコメントです」
ですよね。余計なことを言いました。
申し訳ありません、と謝ると
「でも、あんな素敵な瞬間が自分の元に訪れることがあれば、それはそれで嬉しいですよね」
ねっ、とイタズラっぽく笑みを浮かべ、スミレ先生は僕の顔を真っ直ぐ見つめている。
やはり僕は、だいぶマズイことを言ってしまったらしい。いつもよりだいぶ早くなってしまったこの鼓動は、打ち合わせが終わってもなおスピードを緩めることはなさそうだ。
私はクレア=モンブラン。
モンブラン公爵家の長女であり、婚約者はこの国の第一王子アレックス様がいます。
学園では常に首位をキープし、皆からの信頼も厚く充実した学園生活を送っておりました。
成人した際には結婚し、二人で国を盛り立て、学園で得た知識を活かし王子を――いえ、王を支えるつもりでした。
ですがあの日、全て失いました。
アレックス様が、平民の小娘に現《うつつ》をぬかし、私との婚約を破棄したのです。
それだけなら、私もそういうこともあると諦めることもできました。
アレックス様の幸せのためだと、自分に言い聞かせ身を引くこともできました。
ですがあの小娘はアレックス様にあることない事を吹き込んでいたのです。
その結果、私はアレックス様からは婚約破棄され、お父様からも『役に立たない娘はいらん』と家から追放されました……
学友たちも誰も庇ってくれることはなく、地位を失った私には興味がないようでした。
私は復讐を決意しました。
すべてを奪ったあの小娘に。
そして私を裏切ったかつての学友たちに。
そしてあの小娘の正体を暴き、アレックス様の目を覚ませるのです
そのためにもまず日銭を稼ぎ、生活の基盤を確保しなければいけません。
なので今、私は平民に混じり、額に汗して働いて給金をもらって生活をしております。
辛い事が多く挫けそうになりますげ、全ては復讐のため、アレックス様のためです。
泣き言を言っている場合ではありません。
決意を新たにしていると、この現場の親方がやってまいりました。
私の境遇に泣いて下さり、仕事の紹介までしてくれた大恩人です。
この人がいなければ、私は復讐を諦めていたことでしょう。
「よお、姉ちゃん。調子はどうだ?」
「私を誰だと思ってますの?侯爵家令嬢クレア=モンブランですわ。
絶好調に決まっています」
「相変わらずだねぇ。
だけどそこら辺のやつらより働いてくれるから、助かっているよ。
貴族やめてこっちに来ないか?
絶対向いてるよ」
「ふふふ、お世辞でも嬉しいですわ」
「お世辞じゃないんだけどな。
ああ、姉ちゃんにお客様だ。今、休憩所で――おい姉ちゃん」
アレックス様、やはり迎えに来てくれたのですね。
私の助けがなくとも目が覚められたようですね。
このクレア、あなた様ことを信じておりましたわ。
息を切らせながら走って休憩所に駆けつけ扉を開けます。
「アレックスさ――あれ、あなたは……」
ですがアレックス様はいませんでした。
そこには護衛を連れた第二王子のアルバート様が待っていたのです。
「ごきげんよう、アルバート様」
「僕の事覚えていてくれたんですね」
「当然ですわ」
アレックス様の所へ行ったとき、何度も会ってますからね。
子犬の様に私の後ろをついてきたのを覚えています。
「ところでアレックス様は……」
「はい、そのこととで参りました」
「!」
やはり、アレックス様は私のことを――
「実は、大変言いにくいのですが……兄上は追放されました」
「……はい?」
ついほう?
「クレア様が追放されたあと、兄上のスキャンダルが発覚しまして……」
「スキャンダル……」
「はい、兄上は貴族令嬢を20股していました」
「ほえ」
んん、20って何?
聞き間違えたかな?
「どうやらクレア様追放の件、あの平民の娘が浮気されていた令嬢を唆して行われていたようです。
もっとも婚約者の座を争い内部分裂して、流血沙汰になりました。
関係者に聞き取り調査をしたところ、クレア様の件の全容が発覚した、ということです。
第一王子は国を混乱させたとして追放。
令嬢たち及び平民の娘は、これからの沙汰しだいですが、重い刑罰が課せられます」
アルバート様から告げられた真実に言葉を失ってしまいました。
アレックス様はずっと私を裏切っていたのです。
涙が頬を伝うのを感じます。
「ご心中お察しします。ですが、ご安心ください。
これからは僕がクレア様をお守りいたします」
そういうとアルバート様は膝をつき、私の手を取りました。
「もしよろしければ、僕と婚約していただけませんか?
ずっとお慕いしていました」
その瞬間、心臓は高鳴り、体が熱を帯びていきました。
そう、私はこの瞬間にアルバート様に恋をしたのです。
先ほどまで、元婚約者の裏切りに涙したにもかかわらずです。
そして愛を告げられ、簡単に落ちてしまう。
なんて軽薄な女なのでしょう。
「ダメですか?」
アルバート様が子犬の様に目を潤ませながら、上目遣いで聞いてきます。
それはずるい。
断れないではありませんか。
「喜んでお受けいたします」
それを聞いたアルバート様は満面の笑みを浮かべました。
「それでは早速城に戻――」
「聞いたな、みんな。今日は宴じゃああ」
アルバート様が何かを言おうとしたまさにその時、外で聞いていた親方たちが部屋になだれ込んできます。
突然の事態に、アルバート様は膝をついた体制で固まり、護衛たちはアタフタしています。
無理もありません。
私にとっては日常茶飯事ですが、彼らにとっては初めての経験でしょう。
「よかったな姉ちゃん」
「ありがとうございます」
親方が肩を叩きながら祝福してくれます。
すると親方がアルバート様の方に向き直りました。
「おい坊主、姉ちゃんを幸せにするんだぞ」
アルバート様はあっけに取られていました。
それ不敬罪ですよ、親方。
あとで罪に問われないようフォローしておきましょう。
アルバート様は気を取り直したのか、表情を引き締めました。
「はい、絶対に幸せにします」
そう言ってアルバート様は私の手に口づけをしました。
《Kiss》
“キス、口付け、接吻、口吸、ベーゼ……と、様々な言い方のある。
それらを思い浮かべるとき、人は何か特別なこととして捉えているのではないか。
例えばそれは恋人同士。
好きな人とすること、といった認識をしている者は多いだろう、愛情表現の一つとして用いられている。
例えばそれは友達同士。
お巫山戯や、本心を隠しての葛藤の中かも知れない。それでも、信頼という前提があるからこそ成り立つ。
そんな風に、多くの人が、キスは特別だという認識をしているだろう。”
「開口一番すごい話になってる……やっぱ読むのやめようかなぁ……」
友人から借りた小説を閉じ、独り言ちる。
結構面白いから読んでみて、と言われたが最初からキスの話題が来るとは想定外だ。この手の話は縁がなく、苦手だった。
「まあでも、アイツに悪いし……や、帰りに読むのはやめるか」
自転車通学だが、疲れたときは一旦公園に停めて本を読む。
それが、修斗の日課だった。
しかし、ここで読み止めるのはだめか、と再び本を開く。プロローグというやつが、あと数文だけ残っているのだ。
“これは、神々にとっても同じことである。
特別な、契りを交わす術の一つとして捉えられているのだ。
それがこの行動の指す意味であった。”
導入部分を読み終えたところで、修斗は本を閉じた。
別にこの先が気にならないでもない。
それでも、一度本を読むのを止めたからには、これ以上読み進めるのは良くない、そんな風に思ったのだ。
だが、このままではいつもより三十分も早く家に着いてしまう。通りで小説を三日もあれば読んでしまう訳だ、帰りにしか読んでいないのに。
家が嫌いという訳ではないが、弟妹が多く騒がしい。修斗にとってはこの下校時間が唯一、静かに一人でいられる時間なのだ。
だから、その時間を削ってしまうのは惜しい。
友人から借りた小説を鞄にしまって、自転車に跨る。
「遠回りして帰れば、多少は時間潰れるかな。……なんか面白い場所とかあったらいいんだけどなぁ」
この町は狭い。それはもう、隣の隣の隣の家の人の娘の飼い犬が子供を産んだ、ということが一夜にして町中に広まったくらいだ。遠くて、余りにも狭い話題なのに。
呆れるほど狭くて、見知った顔ばかりで、コンビニが二軒あることが唯一誇れる町。
修斗は時折、辟易してしまうのだ。
誰も彼も知っていて、酷くつまらない。
本当の意味で一人になんてなれやしなくて、今、この瞬間ですら通りすがりの酒井さんに「修斗君、おかえり」と挨拶される。
箱庭で飼われている気分になって、息が詰まるのだった。
こうして遠回りをして帰ったとて、目新しいものはなにもない。
瓦屋根の佐藤さんの家があって、杉下のばあちゃんの菓子屋があって——
「……あれ? こんなとこに神社なんてあったっけ……?」
修斗の記憶では、雑木林が広がっていた筈の場所に鳥居が建っていた。いや、鳥居の周りは雑木林だから、正しくは雑木林の中に鳥居が建っていたのだ。
とにかく、修斗の知らない場所があった。
「まあ、時間潰しにも良さそうだし……神社をちょっと見るだけなら……」
今の修斗には好奇心、それだけだ。
鳥居の傍に自転車を停め、お辞儀をしてから鳥居を潜る。
修斗にとって全く想像していなかったのは、石段の多さだった。
毎日往復一時間掛けて自転車で通学しているし、体力もある方だ。それでも、息が荒くなる多さだった。途中で休めば良かったけど、気になってそれどころではなかった。
「……はぁー……ふぅ。よし、お邪魔しまーす」
息を整えてからお辞儀をして二つ目の鳥居を潜り、修斗は境内を見回した。
思いの外広く、大きな神社だ。
広い参道。右手には手水舎。そして正面には御社殿が構えてあった。その手前両脇には狛犬もある。
しっかりとした神社にしては、宮司も巫女もいない。そもそもそういう人達の為の社務所もない。お守りや札、おみくじや絵馬もない神社だ。
どこかちぐはぐな印象を受ける神社だった。
「けど普通に御社殿なんだよなぁ……」
修斗は昔祖母に聞いたことがあったが、確か小さな町の社とは、他の大きな神社の管理下にあるという。だから、小さな神社には境内社や末社、と呼ばれるものがあるのだ。
だが、目の前のこれはどう見ても大きい。
賽銭箱もあるし、やはり御社殿だろう。
「大きな神様が祀られてる……にしては、知らなかったんだよなぁ」
有名どころでもないし、ますますわからない。
取り敢えず参拝でもするか、と手水舎に向かう。正しい手順も、祖母に教わった。
柄杓を右手で持って水を汲み、左手、右手、口、左手、取っ手の順に清める。
ポケットに手を突っ込むと、いつかの五円玉が出てきた。
賽銭箱の前に立ち、滑らせる。
二礼二拍手一礼。目を閉じて祈る。
初めまして、神様。お邪魔してます。金いっぱい欲しいです。かわいい女の子に会えますように。この町にせめてカラオケができますように。バスとか電車とかが通りますように。……なにか面白い、初めてのことに出会えますように。
最後の一文を強調して、修斗は目を開く。
さて戻るか、と踵を返してふと思う。
「……うーん、欲張りだったかな」
『——多い多い。それにここはそういう場所では無い。感謝を捧げるだけの社だぞ』
「なんだそれ、ケチ臭くない?」
『なにを言うか! 充分普段から恩恵を与えているというのに……』
「たとえば?」
『……そろそろ帰っていいか、阿呆』
「大人ってすぐそうやって逃げるよなー……え? ……は? 誰?」
なぜ今漸く気付いたのか、修斗は目を白黒させて周囲を見る。当然誰もいない。
今自分は誰と会話をしていたのか、修斗は背筋が凍った。
『……そう身を固くさせる必要はないぞ、修斗。後ろを見てみよ』
「さっきも見たって…………見た、のに」
声に従って振り返ると、そこには男がいた。
金の瞳は澄んで、整った顔立ちも相まって神々しい。長い白髪を揺らして、白い着物に身を包んでいる。なにより目を引くのは、犬の耳としっぽが付いていることだ。
脳が追い付かず、修斗は混乱した頭で、どこかおかしいと思いつつ理解する。
「……えっと、神様?」
『まあそうだな。私はここに祀られている神だ。……して、修斗。なぜこんなものを持っていた』
こんなものと言って神様が手にしていたのは、修斗の鞄にあった筈の小説だ。
あっさりと神だ、と言われたところでどうすればいいのかわからない。
一先ず修斗は噛み砕いていくことにした。
「……それは俺っじゃなくてわたくし? の友人から借りたもので、して……なんで、なぜ神様が俺、わたくしの小説を持ってん……いらっしゃるんでしょう……か?」
修斗の隠し切れない変な敬語がおかしかったのだろう、神様は笑いを堪える。
『……っ……よいよい、畏まるな。好きに話せ、修斗。私はそれで怒らん』
「はぁ……なら神様、遠慮なく。その小説、俺の友達から借りたんだ、面白いぞって」
敬語は諦めて、修斗は先程の問いに返す。
『ふぅん……トモダチか』
「別にそいつに変なとこはないけどな? その本も、たしか家の本棚にあったから読んだみたいだし。それを、こんなものって……」
なにが気になるのか、神様はそれを手にしたまま御社殿の石段に座る。
手で示されたので、修斗もその隣に並んだ。
『……これは、神にとって大切な書物だ。特に土地神たる私にとっては』
「土地神だったの!? ……へぇ、そうなのか」
『そうだぞ、修斗。だから私に望むのではなく感謝しろ』
「うっ……それは知らなかったから……すんません。いつもありがとうございます」
『よいよい』
神様は機嫌が良さそうだ。
というかなぜ修斗の名前を知っているのか気になるが、まあ、神だからか。
「それで、その本なにが書いてあるんだ?」
『大事な所は読んだだろう、ここだ』
神様が示したのは冒頭の部分。
“これは、神々にとっても同じことである。
特別な、契りを交わす術の一つとして捉えられているのだ。
それがこの行動の指す意味であった。”
「これがなにか?」
『これが重要なのだ。そのままの意味だぞ』
そのままの意味。
つまり、神と契り——契約をする為の方法としてキスをすることがある、ということか。
『正解だ、修斗。正しく捉えられておる』
「口に出さなくてもわかるのか……流石神様」
『褒めてくれるな。……契りを交わすとな、人は契った相手たる神の力を扱うことができるのだ。それがあれば、神の神格にもよるが多くのことができるようになる』
「それ、神様が契約する利点ないじゃん」
『そうでもない。神の力とは、神格とは信仰による影響が大きい。つまり、人を介して力を示すことで信仰を集めやすくするのだ。……神が直接この世に干渉することは認められておらず、世の理に反する。それ故に、人を介することでしか力を顕現させられぬのだ』
互いに利益はあるのか。
納得したところで、この丁寧に説明してくれている神様に今更ながらの疑問を投げる。
「契りは多分わかった。で、俺なんで今神様と話してるんでしょう?」
『……そうだな。修斗や、この社がいつからあったかわかるか?』
「……さぁ」
『そうであろう。だがな、ずっとあったのだよ』
ずっとあった。修斗には雑木林しか見えていなかったここに。
『驚くのも無理はない。この社に来るのは老人ばかりだったから、恐らく私の存在が消えかかっていたのだろう』
「……神様って、忘れられたら消えるのか」
『そうだ。だから、今修斗の目にこの社見えるようになったのは奇跡的なことだな』
どうせすぐに消えるが、と口にした神様は手にした小説を修斗に寄越す。
「……神様、」
『さて修斗や、そろそろ日も暮れるぞ。弟妹の待つ家に帰るが良い。今から帰ればいつもと変わらぬ時間に着くだろう』
別れの挨拶を切り出したかと思うと、神様は立ち上がって歩き出す。
修斗は慌ててその背を追う。
「なあ、神様! 名前聞いてなかった、教えてくれ」
『……書物を読む前でそれか、空恐ろしい奴め。教えてやるが、次ここに来るまでに小説を読み切っていたら私の名を呼んでも良い』
神にここまで言わせる奴なんぞ、修斗以外にはいないだろう。
神様は呆れて、去り際に名を告げる。
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
人が神の名を呼ぶことの、罪深さは小説の中で語られているだろう。
それを知った上で再びこの社に現れたときは、神も容赦はしないつもりだった。
「うん? わかった、絶対読むよ!」
なにも知らない修斗は神様に誓って、神社を後にした。
一週間後————
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!」
それらの音が神社に響いて、そっとキスは交わされた。
真名を呼んでキスをする、それが契りだ。
通知の欄を開いた私は、小さく眉を顰めた。
目に飛び込んできたのは、今日のお題「Kiss」の文字。
キス、ですかぁ…。
かれこれ14年と少し生きてきた中で、私はキスらしいキスをしたことがない。したいと思ったこともない。
この年齢になると、やれ誰と誰が付き合っただとか、デートをしていただとか、はたまたキスをしたらしいだとか、そんな噂が日常的に耳に入ってくる。がしかし、その大半は私の耳に入って、そのまま脳内のダストボックスに入れられる。
でも、キスをしたらどんな気持ちになるのか、はちょっと知りたい。人間観察、的な意味で。やっぱり幸せな気持ちになるもんなのかな?というかキスをする意味って一体なんなんだ?
好奇心は猫をも殺す、という。その時が来たら、自分で確かめるだけだ。
ロマンのかけらもない文章でごめんなさい。てこさきで小洒落た文章を書くよりはいいかと思いまして…笑
【kiss】
「知ってる? キスする場所には、それぞれ意味があるんだ。もちろん耳にも、首筋にもね」
私の首筋や耳に何度もキスした後、彼が耳許で囁くように言う。
「意味?」
「そう。例えば頬は親愛、瞼は憧れ、手の甲は敬愛、みたいに部位別に意味がある」
「へえ……初耳」
「キミが今、唇以外で僕にキスするなら、何処にする?」
「……引かない?」
「え、待って。キミ何処にしようとしてるの」
「ちょっとだけ上向いて?」
急所だからと細心の注意を払いつつ、私は彼の喉仏にそっと触れるか触れないか……くらいの軽いキスをした。
「私、ずっとここにしてみたかった」
意外過ぎて驚いたのか、彼は言葉もなく瞠目していた。
「急所だし、本当は触っちゃいけないんだろうけど、女にはないものだから。それに私、君の声好きだし」
「引きはしないけど、びっくりした」
「ここにも意味があるのかな……」
「喉仏も含まれるかは分からないけど、喉へのキスも確か意味があるよ」
「教えてくれないの?」
「ん?」
「意味。首筋と耳も私は意味知らないもん、気になる」
「じゃ、耳だけね」
「何でよ」
「後は調べてみろよ。自分で」
「……分かった」
不満気な表情の私を見てフッと笑った彼は、耳許に再び唇を寄せてわざと息を吹き掛けるように囁いた。
「耳へのキスは『誘惑』だ。そんな所にキスしてくる男には気を付けろよ」
「そんな悪い男、君くらいかな」
「悪い男か……そうかもね」
低く笑う彼の声がやけに艶っぽく聞こえる。やっぱり私は彼の声が好きだなと思っていると、耳にまたキスしてきた。
何と反応して良いか分からないでいるうちにキスは頬、鼻と移り、唇にゆっくりと降りてきた。半開きのまま口を固定され、すぐに熱を帯びた舌が入ってくる。捉えられ、絡まり、解放されたかと思えばまた絡まる。
背筋に痺れが走り、私の中を這い上がってくるこのゾクゾクとした疼き。キスから先を待っている身体。
―――なるほど、彼の『誘惑』は大成功って訳か。
S氏さま。別れる前にKissして欲しかったです。我儘ですが、私からではなく、S氏さまからして欲しかったのです。どうせS氏さまは、勇気はなくヘタレですから、私からするべきでしょう。けれども私もヘタレです。次は、Kissします。そしてKissしてください。
「S氏さま久しぶりですね。」
お題『Kiss』