「は〜、ベッドふかふかで幸せ〜。ここが天国かな……」
「……吐かないでくださいよ先輩。それ、俺のベッドなんだから」
だいじょぶよぉ、なんて間の抜けた返事が返ってきて、こちらまで脱力した。
時の流れの力は偉大だ。彼氏に振られた直後は目に見えるほど落ち込んでいた先輩も、数週間も経つとずいぶん元気を取り戻したようだった。
そしてなぜか、相変わらず飲みに付き合わされ続ける俺。突き放した態度を取ったはずなのに。
「……ここ、一応男の部屋ですからね。わかってます?」
「……へーきだよ……だってきみは、わたしがいやがること、しないもんねぇ」
先輩はそう言うと、それが限界だったのか、すぅすぅと寝息を立てはじめた。
「……『嫌がること』、か」
本当にこの先輩は、図々しくて、無神経で。憎らしくてたまらない。
裏切ってやろうと思った。この先輩が勝手に『信頼』だと思い込んでいる何かを。
俺は、ベッドに無防備に寝転んでいる先輩に近づいた。そして。
先輩の頬に、そっと口づけた。
……今晩の俺には、それが限界だった。
『Kiss』
2/5/2024, 10:00:27 AM