『1件のLINE』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
先輩と呼ばれるのには、まだ慣れない。
去年までは中学一年生で、先輩と呼ぶことしかなかった。それなのに、急に下学年がやってきて、後輩をまとめる立場になり、敬われるのはくすぐったい気持ちと多少のやりにくさがある。
先輩が卒部して、完全に自分達の部活動になった。
方針を定めるのも、部活の雰囲気作りも、他部活との連携の取り方も自分たちの判断一つで決める。
頼られる人になりたい、かっこいいと思われたい、先生からの信頼を得たい、いろいろなものが積み重なって、自分のペースを乱していく。
部長になった。
選ばれたことが嬉しかった。
大変だった。
難しかった。
他の部長ができていることができなくて焦った。
辞めた方がいいんじゃないか、と思った。
後輩からの相談を受けた。同学年からも相談があった。
悩ませてしまっている自分が情けなかった。
それでも部活自体は楽しい。
チームみんなで目標を達成できた時は、泣くほど嬉しい。無邪気に「頑張ってください」と応援してくれる後輩がいる。こっちは緊張で押しつぶされそうなのに、簡単に言ってくれるな、と思うこともあった。でも、そんなものは一時の感情で、なんだかんだ勇気をもらった。
未だに指導する立場には慣れない。
自分の考えていることがちゃんと伝わっているのか、自信がない。いつも申し訳ない態度で、後輩にも下手にでる。もっと堂々とすればいいのに、と自分で自分に言う。
先輩はこんなではなかった。
もっとしっかりしてた。
手探り状態ではなく、びしっと後輩の憧れのような行動をする人だった。自分の理想と現実の決定的な違いが自分を苦しめる。
『今度の試合、見にいくからな』
先輩からの一件のLINEを今日の朝から、ずっと無視している。既読をつけた後、なんと返せばいいのか分からない。返事の正解を見つけたら、既読をつけようと思っていたが、そんなもの見当たらない。
こんな自分を見て欲しくない。
部長として機能しない自分を見られるのは恥ずかしい。
でも、きっと後輩として受け入れる返事が正解なのだ。
『はい!来てください、絶対ですよ!』
どうすれば、大会までに良い部長になれるのか。
どうしたら先輩みたいになれるのか、そんな問いばかりがぐるぐる頭を駆け回ってしまう。
『おまえ、部長できてるか?俺が最初の時はごたごたしてたから、大変だったよ。おまえも多分大変なことあると思うけど、悩みすぎんなよ』
『また、電話するわ』
二件のLINEがきた。
自分の思考を読み取ったような先輩の言葉は、いつのまにかぼろぼろになっていた心を修復してくれるような温かさがあった。
『先輩、話こんど聞いてください』
一人で解決しなくても、先輩に頼っていいのだとやっと思うことがあるできた。
ピロン
静まり返った部屋に無機質な通知音が鳴り響く。
「ごめん仕事が長引…」
スマホのロック画面に写った言葉は予想通りのものだった。最後まで読まなくてもわかる。どうせ私なんて仕事の次の存在なのだ。
ガラス製の広い机の上には七面鳥、牛肉のソテー、スペアリブなど彼の好物が広がっている。ガラス一面の壁からは東京のきれいな夜景を基にそびえ立つスカイツリーが一望できる。床は大理石でできており、照明はシャンデリア。壁にはよくわからない絵画が飾られている。どこを見渡しても生活感がなく、落ち着かない。こんな場所に一人でいては狂ってしまいそうだ。元々田舎上がりの私がいるべき場所ではない。郊外にあった、あのひっそりとしたアパートが懐かしく感じられる。
あっ。ラインに返事をしないと。
「大丈夫!仕事がんば」
…もう嘘をつくのは疲れた。これで終わりにしよう。私のことをもう想っていないのはわかっているのだから。
ピロン
あ?あいつからのラインかよ。ったくうっせえな。仕事してんだよ俺は。なんだよ。
「連絡してくんな この成金野郎」
『一件のライン』
知らない街 新しい部屋 新しい生活
でも変わらない毎日
人に与えられた時間だけは有限
伝えたい言葉は無限
1人のキャッチボールに疲れ
また開く会話のやり取り
もう、寝なきゃ…
気がつけば午前零時
君がくれた呪いは
僕を時間の檻に支配する
聞き慣れた 通知音が突然現実に呼び戻した
……
そこには、来るはずのない君からの
一件のLINE
見ている限りの文字と
最後の記憶の顔。
喜怒哀楽は分からない。
感情は伝わらない。
想像力を働かせるのは
こちら側の仕事。
読み解くのは難しい
だから怖い。
たかが一件でも。
返す私は
なるべく明るく
なるべく感情が伝わるように
たくさん考えて送る。
失礼はないか
誤字脱字はないか
考えながら送る
たかが一件でも。
–一件のLINE–
ある人からのLINE1件が
戦々恐々とさせます
見た瞬間
みぞおち辺りに鈍い衝撃が走ります
何故こんなにもわたしを脅かすのか
また申し訳なさそうな
その態度に溜息を漏らしそうになります
内容は想像つきます
そう、息子からの無心です
早く卒業しとくれ!
「一見のLINE」
ピコン
という音に反応し、動かしていた手を止めてスマホを見る。
誰だろうか
と内心ワクワクしていた。
だがそれは友人ではなくアプリの通知であった。
僕は少し落ち込んだ。
そんなよくある出来事。
それだけは確かだと、誰かに言い訳するように文字を打ち込んだ
LINEの通知音が鳴る。
私は携帯を噛みつくように掴んだ。
パスワードを入れる間すらも、いつもより少し長く感じる
トークを開いて確認する。
あの人からの通知。
胸が高鳴り、心が踊り、脳内がパニック状態になりかける。
そこには私が頼んだリンクが送られてきていた。
告白されるわけでもないし、遊びに誘われるわけでもない。
でもなぜか、あの人からなら何でも嬉しい。
シンプルなお礼を返してあの人の顔を思い浮かべる。
「今、何してるんだろう…」
そんなことがふと頭をよぎった。
中2の夏の終わり、淡い記憶。
#一件のLINE
毎日、私には必ず1件のLINEがくる。それは母と離婚して別の家に住んでいる父からだ。
LINEの内容は
今日の授業はどうだった?
心配なことはあるか?
何かいい事はあった?
土日に遊びに行くか?
この4つのどれかが送られてくる。
これだけのことでも、私を大切にしてくれていると感じることができる。
だから私は毎日くるLINEを心待ちにしているのだ。
お題 1件のLINE
お題「1件のLINE」
すぐに既読したいけど
焦らして知らんぷり
答えたいけど
まだ答えたくない
嬉しすぎて幸せすぎて
少し余韻に浸る時間を下さい
人と話すのが苦手だ。
自分の発言はこの場にふさわしいのか、相手の機嫌を損ねてはいないか、どうしても気になってしまう。自分は臆病者なのだ。
3人以上のときはいい。にこにこ笑って眺めていればそれで済む。
他の人がキャッチボールしているのを横で眺めているだけでいい。
そこに自分が参加しようとは思わない。参加できるとは思えない。
「クラスの決め事のときに便利だから」と義理で招待されたグループライン。そこでも発言したことはない。参加者のアイコンにただ並んでいるだけの存在。本当は抜けてしまいたいけれど、抜けたことが知られるのも心地悪い。結局そのままにしてある。
今日も「クラスの親交を深めよう!」と放課後にカラオケに行くそうだ。既読だけ付け、そっとアプリを閉じる。
新たなメッセージを知らせる振動。集合時間が決まったのだろうかとついさっき閉じたアイコンをタップする。目に入ってきたのはグループではなく個別メッセージ。
「今日、新刊発売日なんですけど、放課後本屋に付き合ってもらえませんか」
スタンプを一つだけ返した。放課後が楽しみだ。
/「1件のLINE」
7/11 お題「1件のLINE」
ピコン、とスマホが鳴った。
別れた彼女からかと手を伸ばす。未練がましいけれど期待していた。
『元気にしてるか』
祖父からだった。
元気ではない。けれど、80代にしてスマホを使いこなすスーパーじいちゃんからの何気ない気遣いは、不思議と心に沁みた。
俺はまだ、1/3も生きてはいない。祖父の何でも楽しむ姿勢を思い出す。人生はこれからだ。楽しい事は、まだまだきっと沢山ある。
『ありがとう』
返したLINEはすぐに既読がついた。
(所要時間:6分)
1件のLINE
たった一件の通知、それだけで世界はガラリ、と変わってしまう。
『迎えに行くよ』
画面に表示された名前に、見覚えはない。それなのに、アイコンの写真はどこかから盗撮された自分自身の写真で。
ひゅっ、と喉が鳴る。カタカタ、と震え出す体を守るように抱きしめて、縮こまった。
ピンポーン、とインターホンが鳴り響く。浅く速くなる呼吸に、恐怖で溢れてくる涙が頬を伝う。
「迎えに来たよ」
ドアの向こう側で、たしかにそう声がした。
テーマ:一件のLINE #240
一件のLINEがまだ未読です。
そんな通知が来るのだが、
未読のランプがついているものはない。
壊れたか??
そんなことを思いながら放っておいたら、
いつのまにか二件、三件と増えていった。
怖くなってスマホをログアウトする。
すると直った。
何だったんだ、
怖いなと思いながらLINEを開こうとすると
LINEが消えていた。
-一件のLINE-
『愛してる』
LINEの通知からただこの一言
妙な感じだったが遅い時間帯であるため後回しにし、その日は終わった
後日、電話がきた
先ほどLINEを送ってくれた人が亡くなったのだ
唐突な出来事に頭が真っ白になった
暫く時間が経ち唖然と立ち尽くすとき、インターホンが鳴った
画面には
電話で亡くなっているはずの人が立っていた
状況を把握出来ないが慌てながらも電話で亡くなっていると話したら
そんなこと知らないと言った
そんなはずはないと電話履歴をみれば、ないのだ
電話したはずの履歴がないのだ
LINEにも見たがなにもないのだ
何も存在してないのならあの日あのとき
LINEと電話をしていた相手は一体誰なんだ
一件のLINE
私の友だちは公式か家族か。
LINEというかスマホのない時代に生まれて本当に良かったと思う。
来てないと思ってずっと待ってたら結構前に来てた夜
"1件のLINE"
どうして直ぐに開かなかったのだろう
いつもみたいに
“あとで読めばいいや”
なんて、思ってしまったのだろう
その“あとで”は……
もう二度と来ないと知っていたら
直ぐに開いたのに
今はもう……
怖くて開くことすら出来ない
公開ばかりの未読メッセージ──
(2023.07.11/1件のLINE)
#1件のLINE
あなたからのLINEであって欲しいな、
今でもそわそわして待ってる
1件のLINEを返すのに、
とても長い時間がかかっていた頃があった。
長い時は1時間くらい。
学生の頃、LINEの返信が本当に苦手で、
一言返すだけでも10分くらい考えることがよくあった。
相手に分かりやすく、
堅苦しくなく自然な文体で、
嫌われないように、
なるだけ手短に済ませられるように。
そうこう考えている内に、
「おい無視すんな」
とメッセージが飛んでくる。
ああ、また1から文を考え直さねばならないのかと携帯をぶん投げてしまいたくなる。
大体こういう事を言ってくるやつに限って、
会って話せば良いようなどうでもいい内容しか送ってこない。
勝手に動画送りつけて感想求めてくるやつが1番苦手だった。
今は適当に理由作って後日返信したりするのだが、
学生の頃は返信時間が本当にシビアだった。
社会人になって暫くは、忙しさにかまけてLINEを返さない事がザラにあった。
今となっては「おい無視すんな」と言ってくるのは上司くらいか。
たった1件のLINEに何ヶ月ぶりに返事をすると、何時間か後に、素っ気ない返事が返ってきた。