ピロン
静まり返った部屋に無機質な通知音が鳴り響く。
「ごめん仕事が長引…」
スマホのロック画面に写った言葉は予想通りのものだった。最後まで読まなくてもわかる。どうせ私なんて仕事の次の存在なのだ。
ガラス製の広い机の上には七面鳥、牛肉のソテー、スペアリブなど彼の好物が広がっている。ガラス一面の壁からは東京のきれいな夜景を基にそびえ立つスカイツリーが一望できる。床は大理石でできており、照明はシャンデリア。壁にはよくわからない絵画が飾られている。どこを見渡しても生活感がなく、落ち着かない。こんな場所に一人でいては狂ってしまいそうだ。元々田舎上がりの私がいるべき場所ではない。郊外にあった、あのひっそりとしたアパートが懐かしく感じられる。
あっ。ラインに返事をしないと。
「大丈夫!仕事がんば」
…もう嘘をつくのは疲れた。これで終わりにしよう。私のことをもう想っていないのはわかっているのだから。
ピロン
あ?あいつからのラインかよ。ったくうっせえな。仕事してんだよ俺は。なんだよ。
「連絡してくんな この成金野郎」
『一件のライン』
7/11/2023, 2:14:55 PM