『優越感、劣等感』
ときに私は思う。人を作るのは優越感なのではないかと。今回の事件も、人をこの手で屠るというこの上ない【優越感】が世間を賑わす殺人鬼を形成していたのだから。
「…もう一度聞く。なぜ六人も殺した。」
「【優越感】だよ。何回も言わせるな。六つの、尊い命があの時は俺の腕の中にあるんだ。そいつを踊らせておくも、捻り潰してぐっちゃぐちゃにするのも俺次第。この気持ちよさが分からねぇかなあ。他のやつには一生かかってもできない経験だぜ。」
この手の狂人は何人も見てきた。正直こういうやつは嫌いじゃない、むしろ好きな部類だ。だが、法の番人として裁かなければならない。
「その気持ちよさを味わったことでお前の人生は終わったわけだが、後悔はないのか。」
「あると思うか?ここは日本、死刑はこの十数年執行されていない。終身刑だろうと無期懲役だろうと獄にぶち込まれるだけ。あんなことをしたあとに無料で住処と飯が貰えるんだ。こんなうまい話はない。」
「そうか。」ドサッ
私は100ページほどもあろうファイルを取り出した。
「あ?なんだよこれ。解決事件簿?」ペラッ
「警視庁が解決できていなかった事件、且つ私が解決した事件をまとめたものだ。」
「…おい。なんで」
〜次は3等天国 3等天国行きの廻船でございます〜
やっとだ。やっと解放される。俺はこんなゴミどもと同じ場所にいるべき存在ではないのだ。
「ぬしゃもこれに乗るんか?」
「ああそうだよ。罰線の数からして4獄からってとこか。」
ゲンセで死んでからアノヨに行くのは知ってるだろう。だが実際どんな場所かはゲンセでは分からない。閻魔の野郎が情報統制をしてるからな。アノヨは天国と地獄に分かれている。それぞれ4等が最低、1等が最高だ。俺に話しかけてきたやつは4獄、つまり4等地獄ってことだ。
「ぬしゃは1獄からだろ。よか身分なこった。」
「何を言う。俺がどんな苦労をしてここまで来たから知らねーだろ。」
俺はゲンセで殺人を2回、強盗を4回して捕まり、死刑になってここへ来た。来た当初は4獄から、そこからトクを積みやっと1獄に、そして今から3天にいくのだ。
「じいさん罰線4本のくせして3天に行くのかよ。」
ピロン
静まり返った部屋に無機質な通知音が鳴り響く。
「ごめん仕事が長引…」
スマホのロック画面に写った言葉は予想通りのものだった。最後まで読まなくてもわかる。どうせ私なんて仕事の次の存在なのだ。
ガラス製の広い机の上には七面鳥、牛肉のソテー、スペアリブなど彼の好物が広がっている。ガラス一面の壁からは東京のきれいな夜景を基にそびえ立つスカイツリーが一望できる。床は大理石でできており、照明はシャンデリア。壁にはよくわからない絵画が飾られている。どこを見渡しても生活感がなく、落ち着かない。こんな場所に一人でいては狂ってしまいそうだ。元々田舎上がりの私がいるべき場所ではない。郊外にあった、あのひっそりとしたアパートが懐かしく感じられる。
あっ。ラインに返事をしないと。
「大丈夫!仕事がんば」
…もう嘘をつくのは疲れた。これで終わりにしよう。私のことをもう想っていないのはわかっているのだから。
ピロン
あ?あいつからのラインかよ。ったくうっせえな。仕事してんだよ俺は。なんだよ。
「連絡してくんな この成金野郎」
『一件のライン』