『1つだけ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
もうすぐ母の日だ。
毎年、八号鉢のカーネーションを贈っていたが、今年は花束にしようと思う。
もう、鉢を置くスペースが無いから。
玄関から始まり、客間、縁側、リビング、トイレ、庭と目の届く所には既に何鉢も置かれているのだ。
そもそもカーネーションは、亜熱帯気候の日本には不向きな植物。
大抵、梅雨時に溶けて消えるか、夏の高温と強烈な日差しに曝されて干乾びる運命だ。
しかし、我が家に来るカーネーション達は、そんな運命にアッパーカットでも喰らわしているのかの如く、みんな元気に夏を越していく。
軽くホラー。
そんなことを思いながら、プシュプシュと薬をかけて周るのだった。
テーマ「1つだけ」
道端の片隅にひっそりと転がっていたビー玉。
少し汚れているけど、そっと手に取り太陽にかざしてみた。
子供の頃、キラキラと輝くそれはまるで小さな地球と思っていた。
小さな地球は少し汚れても綺麗に輝いている。
「神様、1つだけ僕の願いを聞いて下さい」
「この小さな地球のように……」
「破壊のない美しい世界を……」
「戦争のない世界を」
そんなことあるはずないと思ったんだ。
だってあなたは大人気で、現れた途端みんながあなたに群がった。
そもそも私はあなたからとても遠い場所で、近づくことさえ出来なくて、水滴だらけのグラスに口をつけ飲むフリをしながら横目で眺めることしか出来なかった。
女の人はもちろん、むしろ男の人の方があなたに夢中で、引っ込み思案な私は、周りに声を掛けてまであなたに手は伸ばせなかった。
今日も無理だったな。
本当は、数日前にもチャンスはあった。
今よりも断然競争率は低くてラッキーなことに近くにもいた。
なのに、あっという間にあなたは連れ去られちゃったよね。
いつまでも未練たらしく想うのも嫌だったから、周りの雑談に意識を向けて相槌を打ち、あなたを忘れる努力をした。
だから、だから、諦めてたのに。
ふと向けた視線の先で、まさかまだあなたがそこにいるなんて。
どうする?
手を伸ばしてみてもいいかしら?
私なんかが?
でも、だって、寂しそう。
どうしよう?
どうしよう?
あなたが欲しい!
「取ってあげようか?」
隣の人が私の視線の先に気がついて、一つだけ残ってた唐揚げを取ってくれた。
好き。
【1つだけ】
忘れていた。
たくさん助けてくれたのに
たくさん支えてくれたのに
たくさんの物をくれたのに
なぜ忘れてたのだろうか。
"あの子"とは違って名前も顔も声も知ってるのに
忘れていたなんて…
なんて最低なヤツなんだ…
あなたはいつも笑って私の心を埋めてくれた
あなたの方が年上なのにそんなの感じさせないくらい
楽しませてくれた。
幼い頃学校に行くのを不安を感じなかったのは
あなたのおかげだろう。
年上が優しい人ということをあなたで知ったから
幼い頃は学校は怖い場所じゃないって思えた。
でもそんなあなたを忘れて…
小学校中学年くらいの時
高学年にいじめられた。
それから年上は怖いものだって思うようになった。
中学校に入る時もいじめられるんじゃないかって
思うようになった…
そんな中学校であなたと再会した。
あなたはびっくりしていたようだけど私は思い出せた
年上は怖いものじゃない、優しい人でもあるって…
だから今は不安を抱えずに学校に通えてる。
あなたに伝えたいことはたくさんあるけれど
一つだけと言われたら
『ありがとう』これが伝えれればいい。
ありがとう。
私の不安をとっぱらってくれて、
ありがとう。
あなたとの思い出を思い出させてくれて。
―――――何よりも大切な思い出
一つだけ、欲しいものがある。
それは貴方の視線だ。
その視線の先がどうか私に向けられるようにと、密かに願っているのだ。
一つだけ願いが叶うとしたら何を願いますか。
私は一つだけ。
誰かに愛されたい。
「1つだけ」
え?1つだけ願いが叶うなら?
うーん。キズを無くしたい…かな?
私遊びすぎて、周り見えなくて怪我すること
多いんだよ。そして親に怒られる…
私コスプレしたいんだよ。
目立たせないようにできるけど、
目立つちゃ目立つから無い方がいいんだよ。
コスプレはやくしたいな
ひとつだけと言うと命や人生とかそんなことしか思い浮かばない。よく考えると少なからず似ている命や人生があるはずだ。そのふたつは全く違うとは言えないがある人からは唯一無二と言われるのだろう。成功者を模倣として生きていけば同じ者になれるのか。それは無理な話だ。周りの環境から影響を受け合う人の生き方では全く同じ人生を生きるというのも無理ということだ。自分の納得いく人生。成功だと思える人生。など、目標を決めても、決めなくてもきっとその人の人生になる。
人生、いくつも選択肢があるのに
ひとつだけしか絞れないなんてバカみたい
【1つだけ】
1つだけ
生きていて辛いことってたくさんあるよね
学校だって、仕事だって、結婚したって、
しんどくて辛い気持ちはどこかにある。
息苦しくて、周りからも理解されなくて。
そんな毎日で嫌になっちゃうかもしれない。
でも1つだけ希望を持つとしたら、
少し先の未来に大きく変わることがあるかもしれない。
だからそれまでは少しだけ頑張って生きてみようって。
しんでしまったら終わりだからさ。
1つだけ。
1つだけ欲しいものがある。
物欲。
物欲が欲しい。
何も要らないというこの感情は要らないから。
欲しいものが欲しい。
なにか
なんでもいいから
ほしい。
1つでもいいから。
なにかが欲しいという感情が欲しい。
『一つだけ叶えたいことがある。』
私はそう言われた
特別な関係の人にそう言われた
「1つだけ」
私の後ろにいるのは誰だろう
パンプスのストラップを止めるために
玄関にしゃがみこんでいる私の背中を撫でたのは
聞いたことの無い声だった
「1つだけ、聞いておきたいの」
口を固く結んで耳をすませる
その声は信じられないほど震えていた
私の母は気丈な人だ
幼い頃に父親と大喧嘩の末離婚、
女手1つで私を育ててくれた
強くてたくましい母親
そんな彼女に私が見いだしていたのは
母性ではなく
限りなく父性に近いものだった
母は多くの物事を背中で語り、
私の幼心に寄り添うことをしない人だった
何度、母のささくれだらけの手を焦がれ、
同じ時を過ごしたいと願ったことか
しかしそれは
何時になっても叶うことがない夢と化した
私が虐められた時も、
父親が押しかけてきた時も、
残業明けの早番の時でも、
母の背中は頼もしく、
その声は常に力強く未来へと伸びていた
だから私は母の声が震えることを知らなかった
弱い母を、知らなかった
今の今まで
「あたし、良いお母さんだったかな?」
ああ
最後になんという愚問だろうか
これから旅立つ娘に
どうして母は敢えてこの問いかけをしたのか
私はどう答えるべきか分からずに
パンプスの金具をじぃっと見つめていた
その長く重い一瞬の沈黙は
今も私の心の中に響き続けている
『一つだけ願いが叶うとしたら。
あなたは何を願いますか?どんなにちっぽけな事でも構いません。私が叶えて差し上げましょう。』
天国にて。
「神様ったら構われたいからって人間界にこんな紙をばらまくなんて…神様には悪いけど、地獄の鬼に燃やしてもらうかぁ。」
あるひとりの天使は、大量の紙と、雲の下…人間界のゴミ処理場を見ながら呟いた。
1つだけ迷ってることがあるんだ。
ある夜そんな悩みを抱えた友人から電話が掛かってきた。
聞けば友人は今度の週末に初めて出来た彼女と初めてのデートに行くらしい。
その彼女はスイーツが大好きで、できれば美味しいと有名なお店を何軒か一緒に回りたいという。
彼女はどちらかと言うと見た目が可愛らしい洋菓子よりも、優しい甘さの和菓子系が好きと言っていて、その中でも餡子を使ったものがいっとう好きということらしい。
友人はものすごく真剣な声音で、最後は鯛焼きの専門店と今川焼きで有名なお店のどちらに行けばいいかと尋ねてきた。
なんだそんなことか。
僕はそこでいったん思考をリセットする。
なんだそんなことか。
そんなしょうもないことで、こいつはこんな必死な様子で電話をしてきたのか。
僕は息を吸い込んだ。
そして思いっきり言ってやる。
どっちだって同じだろ!
どうでもいいわ、そんなこと!
いま何時だと思ってやがる!
安眠を貪っていたはずの僕に起きた、深夜2時のある夜の出来事である。
【1つだけ】
"1つだけ"
「先生、最後に1つだけ言わせてよ」
太陽の日が照らす静まり返った放課後の教室。
ここの数階下にある校庭から小さく聞こえる運動部員達の楽しそうな活発な声が耳に入る。
「いいよ、幾らでも言いなよ。」
赤いペンでテスト用紙に丸をつけながら、岩城先生はそう言った。
「ううん、1つだけでいい。」
私は紺色の長めのスカートを揺らし、座っていた机から一度降りる。
とんっと音を立て、私が黒板の方に向かって早足で歩くと少し軋む床。先生は椅子を傾け、私に顔を向けた。
「…私の話し相手になってくれてありがとう」
窓の外では風が吹き、綺麗に花を咲かせた桜がふわっと宙に舞っていた。
私の言葉を聞いた先生は嬉しそうな、でもどこか悲しそうな表情を浮かべた後、綺麗な花束と、私の名前が刻まれた卒業証書を渡してきた。
「…こちらこそ。」
先生の瞳が小さく揺れた、ような気がした。
私は直接手で受け取ることはできない。
先生はそっと立ち、花瓶が置かれた私の机まで花束と卒業証書を持って歩いた。
「これでもう終わり、かぁ…」
私はもうとっくに普通の人間では無い。
卒業式が行われるほんの数週間前だった。
私は登校中、飛び出してきたトラックに撥ねられ、そのまま意識を失った。
気づけば私は教室の自分の席にいて。
先生だけが、私の姿を"見る"ことが出来た。
今日が終われば、私はきっと消えてしまう。
誰に言われた訳でもないのに、何故か直感的にそう感じとった。
すると先生は、スカートから下、足が薄く消えかけている私を見て、一言だけ呟いた。
「卒業、おめでとう」
たった1つだけの言葉、それだけで嬉しかった。
「ありがと…、」
拙い言葉しか出てこないが、もうそろそろ時間だろう。私が校庭の方をふと覗くと、もう部員たちは帰る準備をしていた。
「ほら、下校時間だよ」
目に涙をうかべる先生。
そんな先生を見て、私は最後に1つだけ返事をした。
「またね、先生」
「結局1つだけじゃなかったな、全然良いけど。」
誰もいない教室でただ1人、先生だけが微笑んでいた。
君のことは大好きだけど、1つだけお願いがあるんだ。
つらいときは、とことん僕を頼ってよ。
すべて受けとめるから。
1つだけ願いが叶うなら空を飛びたい。
何で空を飛びたいか深く考えると分からない。
でも、鳥を見て自由に感じる。
あの空を近くに感じてみたい。
今も生きてる世界は不自由ではない。
でも、なぜか自由とは思えなくて。
今日も今日とて元物書き乙女、解釈論争に疲れて筆を折った現概念アクセサリー職人は、イメージカプ非公開の概念小物製作に余念がない。
丁度1週間前呟きアプリに投稿した作品、黒白の巻物風チャームは、予想に反して久々の、ハートアイコン2桁間近。上々であった。
万バズどころか50バズすら縁遠く、一度も反応の無い投稿もチラホラな乙女には、十分な称賛である。
解釈不一致、公式云々の集中爆撃から逃れて、悠々乙女は表現と創作を謳歌する。
それは物書き乙女がようやく辿り着いた、ただ1つの疎開先であり、安住の隠れ家であった。
「青要素足りないかな」
今日の概念小物は普段使い用。プチプライスショップで購入した歯車風パーツを土台に、ソロバンビーズと花形平ビーズで高さを盛り、その上に大きめの青ビーズ、それから王冠のデザインヒートン。
チェスの駒風チャームである。
「いや、青は、金に挟まってるくらいで良いや」
ヒートンに丸カンとカニカンを通してできあがり。
世界にただ1つだけ、とは言えないものの、物書き乙女の満足いく仕上がりであった。
「できた。金青金、リバ概念……!」
これで材料費実質200円程度だもんね。ごめんね金さん青さん安上がりで。
うふふのふ。完成したチャームをスマホで撮り、今回は呟きアプリには投稿せず、かつての二次創作仲間のグループチャットへ。
『金青金作ったったwwwww絶対普段使いできる』
メッセージはすぐ既読アイコンが付き、少しして返信された文章には、
『絶対気付かない(確信)
絶対金青金ってバレない(超確信)』
爆笑の絵文字が複数個、一緒に添えられていた。
『なお軸固定勢からは批判が相次いでおり』
『「解釈違いです」→「なら見なければ良いと思います」→「そもそも公式発表は金黒です。青ではありません」→「いいえ金の夫は赤です」までテンプレ』
『それなwww』
馬鹿笑いして、ひと息ついて、ため息に変わって。
ふと、寂しげに視線を下げる元物書き乙女。
「皆、同じ作品の同じひとが好きなだけなのにね」
なんで好き同士で殴り合うんだろうね。
キークリップのチャームを巻物風のそれからチェス風に交換して、再度、小さなため息をついた。
ギター、釣り竿、プラモデル……
あんなに『ひとつだけ』と思って
買ったのに
今じゃ部屋中『ひとつだけ』だらけだ。