『鳥かご』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
ユニバーサル大学哲学科の山本先生の教授室で飼われているセキセイインコが、イケメン猫にこんなことを語ったんだよ。
「ピヨ、ピッ、私の人生は鳥かごの中で繰り広げられていたの。
理想の未来を求めて鳥かごから飛び立ちたいと思ったこともあったけど、実は、その鳥かごの中に定められた幸せが詰まっていたわ。
その中で生きて、そしていつかは死を迎えることになる。
でも、守られた死は思い出として新しい生命の一部になるのよ。
私にとって鳥かごは決して不自由の象徴ではなく、どう生きるかを考えるきっかけを与えてくれるものなの、ピッピ」
セキセイインコちゃんも鳥かごの中でフィロソフィーしてたんだね。
「鳥かご」
No.70『鳥かご』
その鳥かごはとっくに開いてる。
それなのにどうして僕は飛び出せないんだろう。
案外悪くないもんだな、とメジロは思った。食べるものも飲むものも確実に出てくるし、床も汚すとキレイにされるし。
特段飛ぶことに喜びもなかったんだよな、食べ物を探すためとかにせざるを得ないだけだったし。
窓際から空を眺める。葉の間の光も枝をそよがす風も、こんなにのんびりと味わうことだってできなかった。いつ自分や仲間を襲う敵がこないかと警戒していたし、雨宿りの場所の確保も大変だった。
空調の効いたリビングで、鳥かごの中のメジロは微睡んでいた。
そうだ、冬の寒い間だけは仲間と一緒だった。食べ物の位置や敵の存在を教え合い、なにより皆で固まると寒さをしのげた。
時には違う種類のやつらとも一緒だったな。お互いの鳴き声の意味を教え合ったものだった。
ガツンと揺れた衝撃で、メジロは目を覚ました。入っている鳥かごが床に落ち、入口が開いている。その向こうに大きな影がこちらを見つめていた。「ニャア……」
あの生き物は、外でも見たことがある。枝の下から熱い目で見つめ、地面に降りた仲間が捕まって連れ去られることもあった。
咄嗟に違う種類から教わった警戒音を口にした。
ヂヂヂヂヂ……
それがメジロの最期だった。
鳥かごに青竜胆を差してみる。死なない青い鳥の代わりに。
「鳥かご」
《鳥かご》
『鳥が空を見つめてる
青い瞳で見つめてる
風に揺れる木々の中
鳥が空を見つめてる
鳥が木々を見つめてる
緑の瞳で見つめてる
綺麗に磨いたかごの中
鳥が木々を見つめてる』
テーブルに開かれたまま置かれた絵本。
青い空の下で羽を伸ばして小枝に止まっている鳥と、美しい装飾の窓の内側から緑の木々を眺めるかごの中の鳥が、それぞれのページに対比させるかのように鮮やかに描かれていた。
僕は今、邪神の力を持つであろう少女を監視する目的で自宅に住まわせている。
かつての旅の仲間の心の中に住んでいたというが、まだそれが真実だと確認は出来ていない。
その旅の仲間も騙されている可能性があるのだ。
よって、疑惑が晴れるまでは僕の権限をフルに活用できる帝国内で直接監視をする事に決めたのだ。
その彼女は心に響く絵が好きだと、図書館から絵本を借りることも多い。これもまた、そのうちの一冊だ。
子供向けとされてはいるが、その絵はコントラストを上手に活用して描かれており、大人の鑑賞にも耐え得る作品だ。
絵の美しさに心惹かれて眺めていたが、僕にはやはり鳥かごの鳥というのは哀れなものに感じられてしまう。
思い出すのは、左遷された先の村で見た風景。
真っ白い鳥達が美しい雲の中、列を成して飛んでいる様。
まさに安らぎを象徴するような、平和を切り取った風景だった。
「この鳥も大空を羽ばたきたかったでしょうに…。」
思わず呟けば、向かいに座る彼女はきょとんとした顔で答えた。
「そうですか? どちらも幸せならいいと思いますけど?」
僕にはそれが理解出来なかった。
鳥に生まれたからには、大空を羽ばたいている事こそが幸せなのではなかろうか。
「何故ですか?」
聞けば、彼女はこう言った。
「えっと、まず飼われてる動物はもう自分で食事を見つける能力も無ければ外敵から身を守る本能も無くしているので、今更外に離されても死ぬだけですよね?」
「…なるほど、言われてみればそうですね。」
僕はほぅ、と息を吐く。
確かにそうだ。
飼い慣らされて野生の本能を失った物が野に放たれても、生きてはいられない。現在の人間から文明を奪うようなものか。
普通に暮らしていると見落としがちな発想だ。
これには素直に感心した。
「まあ、飽きたから、用が無くなったから、手に余るからと捨ててしまう人もいますけど…。」
視線を絵本に落とし、淋しげな表情で彼女は呟いた。
僕も、動物を捨てる心情は全く理解出来ない。家族として迎えたのなら、最期まで一緒にいたいとは考えないのだろうか。
思考を巡らせていると、彼女がふと顔を上げた。
「それでも、きちんと食事と水が与えられて、暖かで綺麗な家があって、大好きな人の傍なら間違いなく幸せですよ。」
そう言い切った彼女の表情は、この上なく満たされたような笑顔で溢れていた。
そう。まるで、今の監視されている生活が心から幸せだと言うように。
ふわりと窓から入ってきた風が、絵本のページを捲る。
そこにはかごから出た鳥が人の手に乗り、指に顔を擦り寄せている様子が描かれていた。
『鳥は空を愛してる
青い大空を愛してる
優しく薫る風の中
鳥は喜び羽ばたいた
鳥は人を愛してる
暖かな人を愛してる
慈しみの柔らかい指先に
鳥は安らぎ頬を寄せた』
「井の中の蛙大海を知らず」という言葉をご存知だろうか。
見識が狭いことを指し示す諺である。私はこの諺のようになりたくないと思って生きてきた。
ところが最近になり、この諺に付け加わる日本語があることを知った。
「井の中の蛙大海を知らず されど空の青さ(深さ)を知る」
狭い世界に居続けることでその世界を深掘りすることができる、というポジティブな意味に変わるのだ。
元々の中国の言葉にはそのようなものは無く、日本語に訳される時に新たに加わったのだと言う。
私は自他ともに認めるオタク気質だ。正に井の中の蛙として生きている認識がある。すぐに視野が狭くなりがちなのだ。
そんな私を勇気づけてくれるような、励ましてくれるような日本語訳だと思った。視野が狭い時にしか見られない独自の世界があるのだと思う。
そう考えると「鳥かご」もきっと、そこからしか見られない空の青さがあるのではないだろうか。そして籠から出た時にまた新鮮な驚きや喜びを噛み締めることが出来るのだ。
言葉は相反するものだ。影と光は表裏一体だ。
鳥かご、ネガティブな意味とポジティブな意味を無理くりひり出してみた夏の日の朝。
◎鳥かご
自分の一生を籠の鳥と例える人が居るでしょう。
誰にも知られず縛られず関わらずに、産まれて死ぬことができたらその人の籠は無くなるかも知れないが、そんな人はこの世には居ない。
誰もがそれぞれの大きさの籠に囚われている。
貴方にとって自由に見える人もそれまでの人生、価値観、周りの期待に囚われている。
死後、人々はその体を籠へと変化し、その中に自身の魂を留めて楽園と称した。
その籠を管理する男は今日も彼等の楽園を覗き込む。
新しい籠の中は美しさを保って輝いている。
蔵の奥の古い籠の中は、籠の主が平穏に飽き刺激を望んだ結果が歪に楽園を変質させていた。
「人は、死後も自身を自ら閉じ込めて平和を謳い、そしていつしか狂いゆく」
哀しい憐れで愚かな生き物だね。
そう言って、男は古い籠を持ち上げた。
「周りに悪影響が出る前に処分しなきゃ」
蔵の外に向かう男の背後で、数多の楽園は輝きを放っていた。
鳥かごの中の鳥さん
自分も飼ってるよ
すごく元気な子と、
ぽっちゃりしてて落ち着いて
いる子の二匹を飼ってるよ
鳥が沢山いるお花畑で
寝てみたい
いい夢が見れるかな?
自分もあなたのように
上手に飛んでみたいな
高く高くお空の上まで、、、
大空を羽ばたいて自由に飛び回るのは
とてもかっこいいと思う。
それでも、強大な敵に襲われて死ぬことを考えると
鳥かごのなかに閉じこもるのも''賢い生き方''だと思う。
やっぱり生きてることが大事だし
ここは暖かくて、食べ物にも困らないし
何より僕は愛されている。
今の生き方になんの不満もない。
そのはずなのに。
窓からよく見えるおおきな木
いちばん太い枝に止まる君と目が合って
僕の何かを見透かされている。
そんな気がした。
ある日の明け方、野良猫と戦う君。
ボロボロで、血だらけで、痛々しい
ほらやっぱり、ここの方が安全だ
少し目を離した隙に、野良猫が走り去っていく
ボロボロだけど、立派に飛んでいく君を見て
いいなあ、
#20『 鳥かご』
私は産まれた時からずっと鳥かごにいる。
友達は決められた初めから範囲でしか作れないし
世の中が決めたルールでずっと生きてきた。
少しでもみんなの違う事をしたら普通を押し付けられる。
この世の中は全てルールで作られている。
鳥かごから出ることは出来ない。
でもそんなルールに嫌気がさした私はこの鳥かごから羽ばたく事にした。
あたしは一生抜け出せない
心の鳥かごに囚われて。
気持ちの解放なんて
鍵がないから出来ないじゃない
あたしはずっと囚われの身
本当はもっと自由になりたい。
でも、無理なの
押さえつける声が態度が頑丈すぎて
それでも、
僅かな希望があるのなら
抜け出したいって
思ってしまう時もある
〜鳥かご〜
籠の中の生活なんて窮屈でしょうね…
きっと自由に空を飛び回りたいでしょうに…
なんて、思ってくれちゃったりしてます?
とんでもない!
私はこの家で飼われているおしゃべり好きなインコのピーコ
上げ膳据え膳、風通しの良い造り、好きな時に寝て好きな時に遊んで、人間様の滑稽な毎日をウォッチングの高みの見物…
住めば都、ちょっとしたコツさえ掴めばそれはパラダイスなんだから♪
「ピーコちゃん、おはよう!今日も元気?」
これが、ママさん
私のお世話係の方 言わば、私の生命線 まあ、家族皆のお世話係でもある偉大な方
皆頭が上がりません!
この方のご機嫌をとっておけば、ほぼ全てが上手くいきますよ
「ママ、キョウモキレイネ ママ、ダイスキ」
「まあ、嬉しい!本当にピーコちゃんはお利口さんね 今ご飯あげるわね♪」
こうやってご飯はすぐに出てきます
「ピーちゃん、おはよ〜 ご飯食べた〜?ご飯食べたら遊ぼうね♪」
これがこの家の子供のマコちゃん
小学校3年生の元気な女の子
私の遊び相手
いつもマコちゃんの肩に乗って、頭を撫で撫でしてもらいます(させてあげてます)
マコちゃんが遊ばせてくれるお陰で私も生活習慣病にならずに済んでます
「マコチャン、オハヨウ アソンデ、アソンデ」
こうやって食後の運動はバッチリです
「あ〜、何か寝ても寝てもスッキリしないなぁ あ、ピーコ、おはよう マコちゃんに遊んでもらってるの?パパの肩にも乗ってごらん」
これがこの家の大黒柱のパパさん
良い人だけど、ちょっと臭う…
だからパパさんの肩には乗らない
前にプハ〜ッて息をかけられて懲りました…
「パパサン、マタネ パパサン、マタネ」
「なんだよ〜、ピーコはつれないなぁ」
それ、ハラスメントよ
あ、私の好きな曲!
朝ドラのオープニング大好きなの♪
「アサドラ、イイネ アサドラ、イイネ」
「あ、ピーちゃん朝ドラ好きだもんね!チャンネル変えとくね」
こうやって、私のご機嫌タイムは確保されます♪
ちょっと小腹が空いて、甘い物食べたいな〜と思ったら
「ピーチャン、バナナスキヨ ピーチャン、バナナスキヨ」
「ピーコちゃん、おやつ欲しいの?
バナナ大好きだもんね! ちょっと待っててね
お野菜も食べなきゃね! 今日は小松菜入れておくね」
「レタス、スキヨ レタス、スキヨ」
こうやって、さりげなく好き嫌いもアピール
好きな時に水浴びして、お昼寝して、テレビ観たり、歌ったり、退屈したらおねだりして
こんな極楽手放せないわ♪
たまには外の世界へ行きたいかって?
私は真っ平御免です
この家の中だけだって、危険がいっぱい
先住民の猫のマロンなんか、隙あらば私にちょっかい出そうと狙ってるし
マコちゃんが居る時でないとお部屋に出るもの危険です
私からしたら、人間様の方がよっぽと窮屈そう
面倒なしがらみや見えない鎖に繋がれて、いつも疲れた顔をして…
一度、誰からも邪魔されない「鳥かご生活」を試してみることお勧めしますよ
こんなに快適だったの?とビックリすること請け合いよ♪
『鳥かご』
生まれたときから鳥かごの中で
飛び方なんて知るはずないのに
飛んでいってしまうのが怖くて
自由を奪い続けている
広げた羽の美しさを知らないまま
鳥かご
僕は、君に飼われている鳥が嫌いだ鳥自体は別に嫌いなんじゃなくて、きっと妬ましくて堪らないんだと思う。その鳥が死んだら其の鳥かごは僕のもの
〜鳥かご〜
狭くて自由のない場所
きっとその中に入っている時は、その事に気がつかないのだろう
自分の居るべき場所だと思い窮屈ながらにも一生懸命生きているだろう
でもそこより外の世界、可能性があると知った時が始まりなのかもしれない
きっと羽ばたいていけるから
今ある現状に満足せずもっと外の世界を覗いてみよう
きっとそこには希望の光が照らされているから
鳥かご。
僕たちが生きるこの世界は、鳥籠のような世界だと思う。
親も、先生も、先輩も、友達も、自分を鳥籠の内側に留めようとしてくる。
高く飛び立ち、鳥籠から出ようとする者を許さない。
鳥籠の内側に留めようと、コントロールしようとしてくる。
自分が何かを始める時、必ず「そんなことできないよ。」、「それをして何になるの?」とネガティブな言葉を投げかけてくる人はいるが、素直に応援してくれる人は少ない。まるで、鳥籠から出ようとする自分を引き留めるかのようだ。
僕のことを心配してくれているのかもしれないが、高く飛び立とうとすることを純粋に応援してくれる人は少ない。失敗しても大抵のことでは死なない。
常識や普通に囚われ、やりたいことができず、はみ出すことが出来ずに悩む人は多い。変化は怖いし、失敗のリスクも当然あるが、やりたいことをやらずに死んでいくリスクの方がはるかに大きい。
みんなそれなりににチャンスはある。そこで人生を変える勇気を持てれば、鳥籠の中の抑圧された社会から出られるのかもしれない。その先に自由や幸せがあるのだと思う。
鳥かご
今、大好きなアニメに出てくる
主人公は鳥かごに捕らわれても
ぶち壊して出てくるような
強さと眩しさがある人
私はたぶん
ぶち壊すどころか
満喫するだろうな
自ら鳥かごに入ってのんびりする
鳥かごの中を
自分の楽園に改造しちゃう
私はそういう人間だ
どこで
どう生きるのが幸せかは
自分で決める
どんな選択も間違いではないと思う
7日間あるうちの5日または6日だけ、
毎度数十時間、私は鳥かごに囚われる
ある程度余裕をもたせた時間に起床し
黙々と朝食を食べ、身なりを整えて
決まった時間の電車に乗り、
決まった時間にとある場所へ行き、
その日定められた物事を粛々と淡々と進め
たまに名も無き物事を挟みつつ過ごし
決まった時間になると昼食の為一時的に自由が許され
また決まった時間になると元の場所に戻り
決まった物事を粛々と淡々と進め
たまに名も無き物事を挟みつつ過ごし
決まった時間になると
何となくいつも同じになる時間帯にほんの少し自由を許される
その時間に身なりを清め、夕食を食べ
次の日に備えてベッドに潜り込む
もちろん携帯のアラームは今日と同じ時間にセットする
数時間といえど時間は有限だ
その時間を誰かによって決められた物事をする
そんな『仕事』の時間は私にとって『鳥かご』でしかない
空を羽ばたく鳥のように『自由』に過ごせたらどれだけ
楽しく、可笑しく、面白く、気ままに日々を謳歌できるだろう
そう思うけれど『鳥かご』に入らなければいけない理由を
私は理解している。生きていく上では仕方の無いことなのだと
だから私は今日も『鳥かご』へ囚われに行く
鳥かご
休日に年上の彼女が来た。
来るなり、僕の家に、前には見なかった物体を見つけ訝しげに声を出した。
なに、これ。
鳥かご。見ての通りの。
わかるけど。どうしてって意味。
大学時代の友人から、インコ1羽、もらってくれないかって話がきてさ。1羽ぐらいならまあいっかと思って。昨日買ってきた。
ふぅん。
実は子供の頃飼ってたことがあったんだ。ピー助って名前で。可愛かったよ。最後は逃げちゃったんだけどね。
ふぅん。
な、なに、その反応。怖いんですけど。
あなたの家だからあなたの自由だけど、私はヤダな。
インコが?
インコだろうがオウムだろうが。
鳥アレルギー? 彼女は首を振った。
インコだろうがオウムだろうが、犬だろうが猫だろうが、熊だろうがクジラだろうが。要するに、かごに閉じ込めるのが好きになれないってこと。
で、でもインコはかごに入れておかないと、あっちこっち飛んじゃうし、フンもあっちこっちするし……。
あっちこっち飛びたいんでしょ。生きてるんだから。
い、いやそうかもだけど。
彼女は厳しい視線を向けながら、僕に手を伸ばした。
スマホ出して。 僕は、なんで、と言いたいのを我慢してポケットからスマホを出して渡した。
すると彼女は、僕のスマホを新品の鳥かごの中に入れて、小さな扉を閉じて鍵をかけた。
今日は1日、これで過ごします。 彼女は鍵を自分のポケットにしまいながら、静かな笑顔で言った。意味深なその表情はいつも通り、有無を言わせず、なので、不満を抱きながらも、
わかりました。 と答えた。
そんなやり取りを経て、コーヒーとポップコーンを手にテレビをつけた。2人並んで、ネットフリックスでアクション映画を鑑賞。前からずっと見たかった作品だ。配信日の今日が待ち遠しくて待ち遠しくて。ずっと楽しみだった。
のだけれど……。
テレビとは反対方向、つまり僕らの背中側に置いてある鳥かごが、どうしても気になってしまう。
スマホなんて、別にどこに置いても変らないはずだけど、なんだか居心地が良くないな。
よく考えると、スマホってすごいよな。自分の交友関係がほとんど全て入ってるし、過去未来のスケジュールも入れてるし、好きなインフルエンサーとか動画とかのログもあるし。口座とかも紐づいてるし。自分のほとんどが入ってると言ってもいいかもしれない。
振り返って鳥かごの中のスマホを見た。
ちょっと息苦しさを感じた。なんだか、自分自身が閉じ込められてるように見えて……。こっちは、映画鑑賞という自由を満喫した分、尚更そんな気がしてきた。
あのぅ……。 僕は恐る恐る彼女に声をかけた。
やっぱりさ、インコは無理だって断ることにするよ。
そう。自分で決めたんならそれでいいんじゃない。
うん。 あ、あれ?これって自分で決めたって言えるのかな。などと一瞬考えたが、すぐに考えるのをやめた。
じゃあその鳥かご、どうするの?
うーむ、どうしよ。処分するしか。
だったらさ、中に2層ぐらい網を張って、ドライフルーツ作ってみない?バナナとかみかんとかキウイとか。
なるほど。それは使えるかも。
生き物閉じ込めるよりも絶対にいいよ。 彼女が楽しそうに言った。
じゃあ今から果物買ってくるね。
え、ひとりで?僕も行くよ。
いいから、外、暑いし、言い出しっぺは私だから。あなたは友だちにお断りの連絡でもしてて。
うん。わかった。
じゃあ行ってくるね。 彼女が颯爽と出かけていった。
よし、じゃあ電話するか、と思ったが、
あっ、かごの鍵。 彼女のポケットに入ったままだ。
別に急いで連絡しなくてもいいんだけどさ。
スマホは目の前にある。でも絶対に届かない。
こうなると、かごの監禁力の凄まじさを嫌でも感じる。
ごめんな、僕。 と、中のスマホに向かってそっとつぶやいた。
「私に愛でられるのは、嫌いかい?」
そう微笑む彼女は聖母のようだ。
その実、僕の命を握る独裁者は試すように僕を見ている。
僕は彼女の頬を掴み、笑って返す。
「いいえ、ちっとも」