『香水』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
道端でふっと懐かしい香りがし、足を止めた。シトラス系の爽やかで、でも主張しない心地のいい香水の香り。私は、これをどこで嗅いだのだろうか。思い出せそうで思い出せないもどかしさが、さっきまでの心地よかった気分をぐちゃぐちゃにさせる。
香りというのは、思い出よりも印象に残りやすい。それが良い記憶だったか悪い記憶だったとかは置いておいて、私にとってはきっと、忘れきれない思い出だったに違いないだろう。そう割り切って、また歩き始めた。
「きんもくせい」
高い鼻をこちらに向け、アイツはゆっくり息をする。
今日選んだ香水は金木犀。俺の肌から揮発した香水の分子が、アイツの嗅神経の末端に付着している。
それだけでなんか胸が高鳴る。
アイツの皮膚を通り抜け、隠された秘密に忍び込んだような感覚。
「いい匂いだね」
そう言い残し、アイツは帰って行った。
俺から離れても、俺から揮発した分子はアイツに微かな記憶を刻んでいる。
香水
私が纏う香りは一杯のコーヒー
僕を纏う香りは一杯の紅茶
好きなものが違っても
君の魅力は変わらない
信号待ちをする僕の目の前を、若い女性が軽やかに通り過ぎていく。
仕事中なのだろう、きれいなオフィスカジュアルに、ヒールの靴を履いている。
その時、ふわっとした風が、僕と彼女の間を吹き抜けた。
「これは…。」
僕は思わずハッとした。この香りは、ゆいがつけていた香水の匂いだ。
僕の頭は、あっという間に2人で過ごした日々にタイムスリップした。
【香水】
僕もつけてます香水
すみません今日は
思いつかないです
良い思い出に昇華出来るまで
まだまだ時間がかかりそう
それまで封印
またいつかお会いしましょう
二度とお会いしない可能性もあるけど♡
―――香りの思い出
#58【香水】
#121 華やぐ朝
殺風景な
僕の部屋に
君の笑い声と
金木犀のコロンが香り
僕の心も華やぐ朝
お題「香水」
匂いは記憶と結びつきやすいと言う
つまり匂いを纏うという事は、記憶を纏うという事だ。
「少し気が早いとも思ったんだけど……」
秋の香りを纏って現れた君が言う。
僕は「良い匂いだと思うよ」と返すと、ニコリと笑った。
君が動く度金木犀がふわりと香る。いつかの小道で散歩した景色や、肌寒い空の下交わした言葉が蘇り消えていく。
きっと街角で金木犀の香りを嗅ぐたびに、今日の君の事を思い出すのだろう。
「きゃっ」
短い悲鳴が聞こえ、君はその場から僕の方へと駆け寄ってくる。
足元を見るとひっくり返った蝉が動いていた。遠くではひぐらしが鳴いている。君からは金木犀がまた香った。
なんとも情緒が入り乱れた空間だろう。それが面白くて、思わず笑った僕に君はむくれている。
「君の事を笑ったんじゃいよ」
「本当に?」
「本当さ」
きっとこの会話も、この景色も、音も……金木犀が香るたびに思い出せるかな。
きっと、思い出すだろう。そしてその時にまた、君と話しをしよう。
なんて事無い日常の一欠片の思い出話を。
香りは記憶に直結するらしい。今し方すれ違った人のことを間違えようがないのも、言葉を交わしていないのに思い出がぶわりと呼び起こされたのも、恐らくは変わっていなかった香水のせいだ。一気に心臓を打つ痛み。知らないふりが上手に出来ず、わたしは足早にその場を立ち去るしかなかった。
プルースト効果って知ってる? ──いつの日か、その人が口にした問い。いつも同じ香りを身に纏っているのには、ちゃんと理由があるのだと。その時は面映さから笑ったものだけど、今となっては知りたくなかったとさえ思ってしまう。「いつでも君に見つけてもらえるようにだよ」
わたしはきみを忘れたいのに。脳に染み付いた香りが、いまだに消えてくれやしない。
――――――――――――――――
香水
【香水】
君と同じ匂いの香水を
僕は買おうとしたんだ
でも買えなかった
思い出せなかった
大好きだったあの匂いは
僕にはもう必要ないのかな
「香水」
そろそろ八月も終わりだというのに、太陽に焼かれそうなほどの暑さは衰えることを知らない。この炎天下の中、歩いて家に帰らないといけないなんてどうかしてる。出かけるのをもっと夕方にすればよかったな……。暑さに限界でどこか涼しいところで休もうとあたりを見渡すと、見覚えのない店が目に入った。最近できたんだろうか。ベージュ色の外観で、きれいに咲いた花の鉢植えが飾ってある、こじんまりとしていてかわいいお店。丸いショーウィンドウには色とりどりの硝子の小瓶が飾ってあった。
『本物仕立ての香水売ってます』
立て看板には丸っこい文字でこう書かれていた。どういうことだろう。香水の本場から輸入してるのかな。いったい何が本物なんだろう。興味がわいてきて、涼みがてら店に入ることにした。
店の中は柔らかい白の照明で照らされていて、机や棚に所狭しと香水の瓶が置いてあった。びんの横には小さな紙が置いてあって、香水の説明が書いてある。見てみると「焼きたてのフランスパンの香り」とか「摘みたての苺の香り」とか「お菓子屋さんを通りかかったときにするバターの香り」とか、普通の香水にはないような香りが多い。というか、焼きたてのフランスパンの香りを漂わせている人ってどうなの?嫌な香りではないけど、なんだか不思議なお店。
「いらっしゃい、可愛いお嬢さん。香水に興味がおありかい?」
店の奥から白いひげを蓄えたちいさなおじいさんが出てきた。まるで白雪姫に出てくるこびとみたい。店主だろうか。
「そこはおいしい香りのコーナーだよ。気になるのがあったらかいでみるといい」
正直どんな香りなのか気になっていたので、「摘みたての苺の香り」のテスターをかいでみた。
そっと鼻を近づけた瞬間、さわやかで甘酸っぱい苺の香りが鼻を通り抜けた。甘いだけじゃなく、うっすらと葉っぱの少し青臭い香りと土の香りもする。しかしそれが苺の香りを邪魔しているのではなく、まるでたったいま苺狩りをしていて苺を摘んだかのように感じるのだ。
「す、すごい……」
思わず声が漏れた。これが本物仕立てという意味なのか。日常の一コマからそのままもってきたような、自然の香りだ。
おじいさんが自慢げにうなずいた。
「ふふふ、そうじゃろう。私が世界各地を飛び回って見つけたとっておきの香りをつかっておるからね。他にもいろいろあるよ。これとかどうかね。若いお嬢さんにはちと地味すぎるかな」
おじいさんがさしだした瓶には「夏の森の中の香り」とある。
そっとかいでみると、木々や草、岩やかすかな水の香りがただよってくる。においをかいだだけなのに、マイナスイオンというのか体が冷えて涼しくなるように感じる。本当はそんなことないのに、今夏の森の中にたたずんでいるような気持ちだった。
感激している私を見ておじいさんがほほえむ。
「本物の香りを閉じ込めて作ってあるから、いい香りがするじゃろう。すぐ香りが消えてしまうのが玉に瑕じゃが、気分転換に使う分には問題ないよ」
「だから本物みたいな香りがするんですね」
いいながら店内を見渡すと、店の端っこに隠すようにおかれた小さな棚を見つけた。そこにもたくさんの香水がおかれている。私が小さな棚に近づくと、おじいさんは嬉しそうな顔をした。
「おお、その棚に気づいたか。そこはちょっと癖があるがいい香りが集まっておるぞ」
「古びた遺跡の香り」、「新築の香り」、「鉛筆を削ったときの香り」などなど、確かに癖が強いものが多い。嫌いな人もいるけれど、癖になってついかぎたくなっちゃう人もいるような香りたち。
試しに「古びた遺跡の香り」をかいでみたら、じめっとして土や苔の入り混じった香りがした。古い、こもったような、でも歴史を感じる重厚な香り。
店の中を一通り見た時には、私はすっかりこの店を気に入っていた。一番気に入った「夏の森の中の香り」を持ってお会計に向かった。
おじいさんは私が選んだ香水の瓶を愛し気に撫でる。
「お嬢さんはお目が高い。この香りはわたしのお気に入りだよ。世界中の森を探して手に入れたんだ。大事にしておくれよ」
「ええ、もちろんです」
深緑色の袋に入れられた香水を持って、私は微笑んだ。
「また、来ますね」
外は相変わらずうだるように暑かった。でももう嫌じゃない。暑い時にこそ、今日買った「夏の森の中の香り」の出番なんだから。明日出かけるときにはこの香水をつけていこう。憂鬱だったお出かけが少し楽しみになった。
香水
ジャンポールゴルティエが君が好きだと言ったから、買いもしないで♥︎リストに入れてある。
ただの友達。
【香水】
秘密の時間を彩るのは、かすかなオーデコロンの甘さ。
あの人に不満はないけど退屈なのだから仕方ない。
彼と会うのは長くても二時間。香りが消えるまでの約束。
だから、これは浮気なんかではなくただの遊びなの。
「おかえり。今日は遅かったね」あなたが微笑む。
淹れてくれたコーヒーを飲むと、平和だなって思う。
この穏やかな時間を守りたい気持ちは本物。
だけど少し、ほんの少しだけ刺激が足りない。
友達と遊ぶと伝えて出掛けた日、私は彼に会っていた。
オーデコロンを手首に吹きかけ、香りを確かめる。
柑橘系のすっきりとした爽やかさが鼻をくすぐる。
いつもの花の甘さもいいけど柑橘系も悪くないな。
大学生の頃から香りを纏うのが好きだった。
オーデコロンからパルファムまで、いろんな濃度を。
花や果物、ムスクにバニラなど。いろんな甘さを。
彼からのプレゼントが一つ増えても気づかれない。
「なんか、良い匂いがするね。柑橘系って珍しい」
好きな香りだと呟いて、あなたは頬をほころばせる。
他の男が選んだものだと知りもしないで嬉しそう。
「またつけるね」あなたの前ではないかもしれないけど。
永遠よりも時間に限りがあるほうが気持ちは高まる。
あの柑橘系のオーデコロンをつけるたび、彼を思い出す。
つい声を聞きたくなって、電話したのがいけなかった。
廊下で物音がして、部屋を出たらあなたがいた。
穏やかな日々に飽きてしまうのは退屈に思えるから。
そんな退屈を幸せだと思えないのは、私が悪い。
裏切りを知っても手放せないらしい。あなたは沈黙する。
何も知らない顔で、「良い香りだね」って微笑んでいる。
とても鼻が効くんだよ
室内なら、5分前にいた人の
匂いも嗅ぎ分けられると思う
だから香水なんてつけた人が
クローゼットとかベッドの下とか
隠れてもわかるから
アリバイ作りに香水は使っちゃダメだよ
荷物になると置いてきたのは
上履きだけじゃなかったみたい
二度と戻れないあの青い日々
熱気の籠った廊下に響く声
夢呟いて 待ってた
当たり前の日々は写真にはなくて
くだらない出来事さえ宝物だと
気づかなかったくらい全力だった
カウントダウンが終わるまで
忘れぬように
大人になったらあれがしたいと
それぞれの未来思い描いてた
自分の道が上手く分からず
目を逸らした先には青い空
ためらわずに 進め
当たり前の日々に名前はいらなくて
毎日が楽しいってことだけでいい
生き急いでいて大事なものを
いつの間にか見落としていた
単純でいい 焦らなくていい
昨日よりも少しだけ進んでいればいい
自分らしく 楽しめ
当たり前の日々は写真にはなくて
くだらない出来事さえ宝物だと
気づかなかいくらいに全力でいこう
カウントダウンが終わるまで
忘れぬように
【香水】
なんのにおいだろ。
なんかつけてる。でもアルコール臭くない。鼻はいいはずなんだけどな。なんか落ち着く墨みたいなにおい。
スンと鼻を鳴らすと、ちょっとびっくりしたみたいに、目を見開く。多分他の人には分からないくらい些細な反応。最近やっと分かってきた表情の変化。近くにいる自分だけの特権みたいで嬉しい。でも秘密にしてるみたいだから、気づかないフリをする。
「いいにおいがする」
「うん?」
ほら目尻が下がった。いいにおいがするから、少しくっついてみるね。
金木犀の鮮やかな香りがした。
その香りは君を思い出す。
懐かしく、でも少し寂しい気持ちになる。
#香水
お題「香水」
正直苦手
普段あまり嗅ぐことがない分
出会ってしまうと
慣れない香りは強く感じてしまう
シャンプーのあのほのかな香り
あれくらいが安心する
シトラス。
フローラル。
オリエンタル。
私が惑わしてきた香り。
私を惑わしてきた香り。
「あなたと一緒がいいから、私も買ってみたの」
「○○のために、自分もこの香水を買ったんだ」
そこに愛情なんてない。
全てはお金目当て。
そんな目的をもくらませる、刺激的な香りがもっと欲しかった。
私だけを見つめてくれるような香りが、本当は欲しかった。
〜香水〜
叔母さんが昔、海外旅行に行って買った香水を母に寄越した。
母が手首の裏に付けたのを嗅がしてくれたが
匂い云々以前に、そのキツい香りでむせてしまった。
母も余り好みではなかったようで、さてどうしようとなり
結局見た目のよさで、トイレの窓辺に飾っとくことになった。
恐るべきことに、ただそこにいるだけで匂いを放ち
芳香剤的な役割を担っているようだった。
それから半年以上経ったある日、兄夫婦が家に来た。
車で2時間以上かかる距離の為、着くなり二人とも
トイレに行った。
その後しばらくしてから私もトイレに入った。
いや、トイレの扉を開けた瞬間
「ガハッ!ゲヘッ!ゴホッ!」
兄も義姉も消臭剤と思い、大量に撒いたらしい。
トイレに飾られたのが余程不本意だったのか…
半年以上も経って、香水から恐るべき報復を受けた。