『香水』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「私の側にいて、今日だけは。」と、男は泣きそうな、掠れた声で言った。
「貴方は、本当にかわいい人ね。いつもは、ツンとして…強がりさんなのに、時より甘えん坊。ふふ、まるで猫みたい。」
女は、男の顔の輪郭にそっと両手を添え、目を伏せて、そっと互いのおでこ
をくっつけた。
「…。」男は、女に膝枕をしてもらい、女の腹に男は顔をうめた。
「良いわよ。たくさん甘えて…、誰にだって甘えたい時はあるもの。」
女は、男の髪を優しく撫でる。
男には、語れぬような苦しい過去と記憶が在った。
その後遺症で、男は時より苦しめられた。
男は、もう薄れて、微かとなったラベンダーの香りを嗅いだ。
男は、女とその香りが好きだった。
かつての辛い記憶の中から、覚ましてくれるから。
男は、ゆっくりと気持ちの波が穏やかになったことを感じた。
男は、女をそっと抱きしめる。
女も、また男を優しく、深く抱きしめた。
『貴方は、完璧で在りたいみたいね。
弱みが在っても、良いじゃない。
その弱みに、救われる人が少なからず、いるのよ。
…わたしも、その一人。
だから、生きてね。
辛き記憶に惑わされないで。
そして、いつか…過去の自分に言ってあげて。
生きていて、良かった。って、約束よ。』
この香りを嗅ぐと、男は思い出す。その言葉を。
君は香水が嫌いだと言っていた。
強い香りが辛いからと言っていた。
それなのに、なのに……。
君からはどうしてこんなに甘い匂いがするのか。
甘く優しい香り。
そんな香りに魅了される。
香水なんか纏う必要はない。
君のその香り、
まるで、金木犀のような、蜂蜜のような、
そんな優しい香りで包まれる。
安心する香り……。
君のそんな優しさに今日も包まれる。
■テーマ:香水
昔の夢と思ひ出を
頭のなかの
青いランプが照らしている
ひとりぼつちの夜更け
立原道造
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「わかれ」
わがままになつてゆく
わたしが許せなくて
あなたの元をはなれた
なみだと
ため息をまぜて
送りましょう
わたしの愛を
知ってほしかったから
#香水
お題『香水』
「フェネス、今日はいつもと違う匂いがする」
主様はそう言って、鼻をスンと鳴らした。
「いつも使っているヘアオイルの香りと喧嘩しないフレグランスをつけてみたのですが……おかしいでしょうか?」
先日買った、ベースノートにムスクの香りも入った香水は、嗅いで気に入ったと同時に少し期待したのだ……その、主様にも気に入っていただけるといいな、なんて。だって、ムスクは、ジャコウジカの雄が雌を誘惑する香りだから、少しでもあやかれるかな、って。
俺の気持ちを知ってか知らずか、主様は少しだけ面白くなさそうに唇を突き出した。
「フェネスだけずるい」
思いがけない反応に、瞬きの回数が増えてしまう。
「そんな楽しそうなこと、ひとりだけずるい。私もフェネスの香りと調和する香水が欲しかったなー」
「あ、ああ、主様!?」
思った以上の反応に、俺の顔に熱が集まった。
「音楽会まで時間があるから、香水屋さんに立ち寄ってもいい?」
もちろん、俺の返事は——
それは、主様と音楽会を聴きにエスポワールの街に向かっている馬車の中でのお話。
「この匂い好きだなあ」
そう言って君は私の首に顔を近づける
少しくすぐったいけど 不快ではなくて。
でもね、うれしくなかったんだ、
だってその匂い、
君の元彼が使ってた香水だから。
それに気づかない君も君だね 笑
#香水
香水
あの人は香水を付けない人だった。
なのに近くにいると安心する香りがするんだよ、
でも今は何も感じない、なんでかな…何かしたかな、笑
話し合いたかった…。
君の香りをそばに感じることはもうできないのかな。
「たとえ君が僕のことを嫌いになっても、僕は君を愛しているよ」
と言っていたのは、どこの誰でしょうか。
いまや、あなたは、毎日言っていた愛の言葉を囁くことがなくなり、私との会話も避け、朝帰りをすることが日課になっていますね。しかも、他の女の香水の香りを吸い込んだ衣服で帰ってきますね。
その衣服を洗っているのは、私です。
どの年代の人にどの香りが流行っていて、あなたの好みそうな女の人が、あなたがよく行く場所にいることも知っています。
謝ってくれなくても良いんです。
もう諦めましたから。
私をきっと家政婦くらいに思っているのでしょう。
都合のいい、何も文句を言わない人だと認識しているのでしょう。
私は不思議に思います。あなたがどんな気持ちで私と結婚したのか。あなたは、私を愛し続けることができませんでした。私はあなたを嫌いになっていないのに。愛しているのに。時々、虚しくなります。大丈夫だと、言い聞かせているけれど、あなたを愛し続けてしまう私は愚かだと分かっているけれど、辛いです。
私の目をきちんと見てくれたのはいつでしょう。
見なりをほめて頂いたのはいつでしょう。
愛していると言ってくれたのはいつだったでしょう。
どうして、と叫び出してしまいたくなります。
生家から、あなたのもとに嫁に入り、この日まで身を尽くしてきました。
ごめんなさい。
あなたは、もう私に会っていないので分からないかもしれませんが、私の体はもう長くありません。気力だけでなんとか家のことをしているつもりです。肉がなくなりだんだんと皮だけになって、頬がこけてきました。
力も入らず、起き上がることも難しくなってきました。
ご飯も用意できないので、もう食べていません。
あなたが帰ってきた時に死体があったならすみません。この家からもっと早く出ていけば、手を煩わせなくて済んだのに。
あなたと過ごした日々を味わっていたくて、あと少し、と思っているうちにいつのまにか、長く居座ってしまいました。
あなたは、この手紙を見て、何を思うでしょうか。
後悔してくださるのでしょうか。罵詈雑言を並べるかもしれませんね。なんせ、私のことがもう好きではないのに、家に住まわせてくれていたのですから。
寝転がりながら、震える手でこの手紙を書いています。
私、あなたがつけて帰ってくる香水が大っ嫌い。
私が好きなのは白檀の香りなの、覚えてる?
ずっと前に言ったこと。
ねえ、きっとあなたが帰ってくる頃には死んでるわ。
ちゃんと葬って、毎日線香をあげて私の好きな匂いのあなたになってよ。
わたしはあなたのことを、一生愛したわ。
あなたの誓いの言葉とは違ってね。
【香水】
街中を歩いてると、たくさんの人とすれ違う。その中で、懐かしい匂いがした。振り返ってみたけど、誰の匂いなのかは分からない。いつ、どこで感じた匂いなのか。そんなことを考えながら、目的地のお店へ向かう。
買い物を終え、お店から出ようとすると、またあの匂いがした。
…あの人の匂いだ。先月別れた元カレの香水の匂い。付き合った当初、デートに行くと必ず彼がつけていた流行りの香水。匂いだけで思い出す、あの時のドキドキ。その懐かしい匂いに振り返りそうになったけど、グッと堪える。だってもう、私達は終わったんだから。
お題「香水」
私は香水の匂いは苦手。
香水の柔軟剤とは違う独特な匂い。
もちろん好きな匂いはあるけれど香水は私の好きな匂いには程遠いものばかり。
いつか好きな匂いに出会えるかな...。
甘いシャワーを纏って
淡い記憶をかき混ぜて
気分も自分も騙してしまうの
香水
匂いって、頭に残る記憶の中で一番鮮明にかつ長く
覚えてられるらしい。
逆に言えば、どれだけ忘れたくても忘れられない
貴方の使ってた香水は甘い匂いだったね
香水
ネオン街に照らされる真っ黒な空。浮かぶアイスのような月が、窓に照らされている。その光景を、おれは小さな部屋の中で、ぼんやりと見ていた。
俺は、今日彼女と部屋で1日過ごす、いわばお泊まりデートをしていた。
俺の家に彼女が行きたいと言った時、少しびっくりした。
何せ、彼女のようにオシャレなものは何一つ置いてないし、なんなら生活に使うための最低限のものしかないから。それでも、俺の家で泊まりたいとお願いされ続け、最終的にこっちが折れることとなった。
せめて俺の思うオシャレなものを置きたい、と思ってホテルにあるような間接照明を買ったのは内緒。
まあ、そんな訳で今俺らは寝室にいる。彼女が今風呂に入っているから、俺はここで待ってるということだ。
やがて、彼女が寝間着姿で部屋に入ってくる。風呂上がりで熱いんだろうか。寝間着が少し薄い。温かかったよ。とメイクをしたキリッとした顔じゃなく、ふんわりとした笑顔で言った。
喉の奥が、こくりと鳴る。
やがて、彼女は俺の隣に座ると、すこし恥じらいを持ちながら言った。
いい香水はないか、と。俺は香水の専門店で働いてるから、いいのがないか聞いてきたんだろう。
俺は部屋から香水の雑誌を取りだし、説明をし始める。
でも、おれはこのままの匂いも好きなんだよなぁ。
シャンプーもボディーソープも、使っているものは一緒のはずなのに、何故かすごくいい匂いがする。
ふんわりしているというか、なんというか。
そんな匂いのまま近づかれて、長い髪を耳にかけようとすれば、俺はもうキャパオーバーな訳で。
しかし、そんなことは一切悟られたくない。俺は隠して説明を続ける。一通り説明し終えると、俺はどうしてそんなことを聞くんだ。と言った。
すると、彼女は余計に顔を赤らめ、下を向き始めた。
そんなに聞きづらい事なのか、と俺は彼女の方をじっと向く。やがて、蚊の鳴くような声で彼女は言った。
「いい香りがすれば、俺が余計に夢中になってくれると思ったから。」と。
勘弁してくれ、と俺ははぁと頭を抱えてため息をついた。
そんな事しなくても、俺はもうお前に夢中だっての。
そんな思いを込めて、彼女を後ろからぎゅっと抱きしめる。可愛いとかではなく、もはや愛おしいレベルまである。やがて俺は身体をはなすと、彼女の左手を持ち、自分の普段使っている香水をその細く白い手にシュッとかけた。その手に鼻を近づけ、すんすんと匂いを嗅ぐ。
不思議だ。シャンプーもボディーソープも使っているものは同じなのに、こんなにふわふわといい香りがするのに。
香水だけは、匂いが一緒で。彼女の手から俺と同じ匂いがするのだと分かった時は、優越感が占めていた。
握った手が、ひどく熱く火照っている。
これは、風呂上がりのせいか。
──それとも、俺のせいか。
匂いは第一印象。
例えば食べ物。
まず人は見た目と匂いを嗅ぐことから始める。
何故だろうか。
人もそうだと思う。
匂いとは色んな意味があるが自分は性格を匂う。
同じ性格の匂いがする人もいれば。
真反対の匂いの人も。
たまにどちらか分からない人がいる。
その人たちは香水を付けていた。
匂いが違う。
本当のその人では無い。
香水。
歳を重ねるごとに匂いの大事さに気づく。
香水を付けたがる年頃になってしまったのか。
匂いによって人の色が変わる。
1回振りかけるだけで他人に化けることができる。
大きな力をあんなに小さな体で兼ね備えている。
香水は強く深い。
そんな香水を自分は好いている。
香水
何時も乗るバスで、今日もいい香りがしている…微かに香り乍ら、鼻腔を擽る…少し俯いた顔は、長い黒髪に隠れて、一度も拝めない…毎朝同じ席に座り、外の景色を見たり、文庫本を見ている彼女の顔は、気になるけれど、後から乗る僕は、何時もつり革に掴まり先に降りるので、その香水の香りと黒髪からしか、思い描くしか無くて…
誰かがあの香水の香りだと言ったから、少しでも、少しだけでもあなたの事を知りたくて。あなたの解像度を上げたくて、匂いがキツいと近寄りもしなかった香水のコーナーに足を踏み入れた。
聞いただけのメモもしていない香水の名前を探して、一番小さいサイズが表記されているカードを持ってレジに向かった。店員が持ってきた瓶は想像より小さくて、想像より重たかった。
お店を出て、すぐにパッケージを開ける。サンプルで嗅いだ匂いはほかの匂いと混ざってよく分からなかったから、きちんと匂いを嗅いでみたかった。
重たいガラスの瓶からしゅっ、と出て空気と混ざる。風に乗ったその香りは、好きでも嫌いでもなかった。
友達から誕生日プレゼントにもらった、レモンの香りの香水。それから逃げるようにベランダに出て、煙草に火をつける。煙をくゆらせて、焦げた匂いで鼻に残っていた酸味の香りを誤魔化した。
あの人は、微かにレモンの匂いがする人だった。
「香水?柔軟剤?」と尋ねても、「何もしてない」と困ったように笑う人。爽やかに透き通っているような人。その人の匂いを嗅ぐと、自分も明るくなれた。
だから私も、レモンの香りが好き、だった。
棺で眠っている彼と出会った時、もう私が好きなレモンの香りはなくなったのだと悟った。それからは、煙草の臭いで自分の中を汚していった。彼はもういないのだと言い聞かせるように。レモンは腐ってしまったのだと言い聞かせるように。
美味しいはずの煙草が、何故か苦く感じて興ざめになる。ベランダの床に置いてあった灰皿に、煙草をぐりぐりと押し付けて、頭を掻きながら部屋に入った。
机の上で、ふわりとレモンが香る。何年も蓄積された汚れが、さらりと簡単に流されていく。
それが気持ちよくて、でも苦しくて、涙が止まらなかった。
花のやわらかな香りや、石鹸の清潔な香り。時には紅茶のような落ち着く香り。
人それぞれ好みがあって、香水自体苦手な人だっている。
私はそれでも、香水を付けるのは意味があると思う。
香水は自分のイメージだ。人は1度嗅いだ匂いは記憶に残ると言われているし、何より付けてるってだけでなんだか大人っぽく感じる気がする。
ふとした瞬間、大切な人の香りを嗅ぐと安心した気持ちになるように。
あなたの香りを探して、身にまとって欲しい。
きっと、それは誰かの記憶に残るから。
#香水
ある程度大人になってから
色々吟味して
今は定着しているわたしの香水
ずっとレギュラーで使用している
今の香水は
よく人からいい香りと言われる
不快感を与えない
爽やかな大人の香り
嗜みのひとつとして使用しています
だって
やっぱり
自分の匂いが気になるんだもん
シトラスのようにスッキリしていて、
バニラのように甘い香り。
あなたとすれ違う度に香る匂いは、
あなたと話してみたいと思わせる。
いい香りですね。つい声が出てしまった。
あなたは、恥ずかしそうに頬を赤らめ
いい匂いでしょ?と可愛らしくはにかんだ。
なんだか照れくさく、恥じらいを誤魔化すために、
外を眺める。
ガラスに映る自分の姿に、照れくささと
心地よい高鳴りを感じた。
柑橘系の香水を纏い、あなたに近づきたいと
今日も
容姿をを磨く。
通るたびに香る匂い。
君が通った場所には君の匂いが微かに残る。
だからね、何処にいても見つけられるんだ。
# 109