「たとえ君が僕のことを嫌いになっても、僕は君を愛しているよ」
と言っていたのは、どこの誰でしょうか。
いまや、あなたは、毎日言っていた愛の言葉を囁くことがなくなり、私との会話も避け、朝帰りをすることが日課になっていますね。しかも、他の女の香水の香りを吸い込んだ衣服で帰ってきますね。
その衣服を洗っているのは、私です。
どの年代の人にどの香りが流行っていて、あなたの好みそうな女の人が、あなたがよく行く場所にいることも知っています。
謝ってくれなくても良いんです。
もう諦めましたから。
私をきっと家政婦くらいに思っているのでしょう。
都合のいい、何も文句を言わない人だと認識しているのでしょう。
私は不思議に思います。あなたがどんな気持ちで私と結婚したのか。あなたは、私を愛し続けることができませんでした。私はあなたを嫌いになっていないのに。愛しているのに。時々、虚しくなります。大丈夫だと、言い聞かせているけれど、あなたを愛し続けてしまう私は愚かだと分かっているけれど、辛いです。
私の目をきちんと見てくれたのはいつでしょう。
見なりをほめて頂いたのはいつでしょう。
愛していると言ってくれたのはいつだったでしょう。
どうして、と叫び出してしまいたくなります。
生家から、あなたのもとに嫁に入り、この日まで身を尽くしてきました。
ごめんなさい。
あなたは、もう私に会っていないので分からないかもしれませんが、私の体はもう長くありません。気力だけでなんとか家のことをしているつもりです。肉がなくなりだんだんと皮だけになって、頬がこけてきました。
力も入らず、起き上がることも難しくなってきました。
ご飯も用意できないので、もう食べていません。
あなたが帰ってきた時に死体があったならすみません。この家からもっと早く出ていけば、手を煩わせなくて済んだのに。
あなたと過ごした日々を味わっていたくて、あと少し、と思っているうちにいつのまにか、長く居座ってしまいました。
あなたは、この手紙を見て、何を思うでしょうか。
後悔してくださるのでしょうか。罵詈雑言を並べるかもしれませんね。なんせ、私のことがもう好きではないのに、家に住まわせてくれていたのですから。
寝転がりながら、震える手でこの手紙を書いています。
私、あなたがつけて帰ってくる香水が大っ嫌い。
私が好きなのは白檀の香りなの、覚えてる?
ずっと前に言ったこと。
ねえ、きっとあなたが帰ってくる頃には死んでるわ。
ちゃんと葬って、毎日線香をあげて私の好きな匂いのあなたになってよ。
わたしはあなたのことを、一生愛したわ。
あなたの誓いの言葉とは違ってね。
8/30/2023, 2:35:42 PM