『風邪』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
【風邪】
ぴぴぴぴ。
無機質な電子音に画面を見る。
「ぐぁ〜よりにもよって今日かあ」
数字は無情にも平熱を上回っていた。
他の日なら多少無理してでも出ていったんだけど。
「山登りなんだよなぁ……」
さすがに許されないだろうし、明日以降に地獄を見るのは確定したようなもんだろう。なんなら昨日からなんか上手く鍵がかけられんなぁと悪戦苦闘してたけどこんなことになるとは。
だるい体をどうにかベッドから引きずり出してケータイに手を伸ばす。コール音が響く中、机に手を置いて体を支える。空気も冷たいぐらいの早朝、友達は起きているだろうか。せっかく起きれたここを逃すと、寝こけるのが確定している。そうなれば友人にいらぬ心配かけさせてしまうだろう。
しかし、そんな心配こそ杞憂であった。
「おはよ。めいやんどしたー?」
「あー、おはよ。じつはな」
頼れる相棒は、こんな時でも頼りになる。
私の事情を知ると了解した、という簡潔な返事とゆっくり休め、また今度行こう、と誘ってくれた。
申し訳なさもあるがそれを感じさせないように、能天気にかつ優しく振舞ってくれるのは風邪時にはとてもとても助かる。
とにかく1番の心配事は片付けた。残りの心配事は食事だ……まぁ最悪食わんでも何とかなるだろ。少しほっとしたせいか、途端に体の力が抜けていく。視界が暗くなっていくのが自分でもよくわかった。
「ぐ」
なんとかベッドに体を預けると、今度こそ本当に意識が消えていった。電話の音が聞こえた気もしたが今の私にそれを取るだけの気力は無かった。
ふと、目を開けると室内がオレンジ色に染まっている。多少は熱が引いたのか、体も軽い。起き上がって時間を見るとなるほどもう16時を大きく回っている。
「思いのほか寝てしまったな」
うぐぐ、と伸びをして体の凝りを伸ばすと何となく額に違和感。触ってみると、ぷにぷにしてる。多分冷えピタだと思うが……。
「あれ、貼ってから寝たっけ」
「私が貼ったんよ、おはよめいやん」
「うおおおお!?」
急に開いた扉から見知った友人が出てくる。予想もしてなかった私は自身のテリトリーに知らない人間を感知して総代にキョドってしまう。
「地の文でキョドっても私にわからんて」
「伝わってんじゃねーか」
「とにかく、山登りしてたんじゃないのか。それに鍵も……」
「あの後もっかい電話かけたんに出なかったから心配でこっち来たんよ。どっちにしろ今日の予定キャンセルしてあんたんとこくるつもりやったしな。」
「うーあー、ほんっとーにすまん!」
「あと、鍵はきちんと閉めな?昨日から体調悪かったんかもしれんけどガッツリ開いてたで」
「うっそー……」
もう衝撃の事実が続きすぎて、容態が悪化しそう。
なんでだよ、昨日のドアとの激闘は夢だったのか……?あれ、てか他の奴らももしかして来てる?
「いやみんなでどやどや押しかけるのも悪い思て、私だけで来たんよ、独占できるし」
「うわぁー配慮まで行き届いてるありがてぇ。
でも多分お前が昨日、遅くまで変な酒飲ませたのも原因だろうから素直に感謝もしづらいな……」
苦手だし次の日登山なのになんで酒誘ったんだよほんとに。楽しかったけど、あの酒だけは二度と勘弁。なんならあれ飲んでから調子悪い気がするし。
「やから責任感じてうちが来とんねん。ほら病人は寝とき寝とき。お粥作ったるから」
「おかんかて。まぁでもやっぱお前がいてくれるだけでだいぶ安心するよ、ありがとう」
「なぁにいつにもなく素直やん。張り切っちゃおうかな」
ルンルン気分で台所へ向かう相棒を見送って、たまには風邪でもいいかもななんて、思った自分は悪くない。あと、登山メンバーにもいたけど恋人がこいつと鉢合わせしなくて良かったなぁ、なんて今更脳裏をよぎるのであった。
孤独に眠るきみの手を離さないよう傍にいたのに、
いつの間に俺まで寝てしまっていたんだろう。
─風邪─ #142
(そろそろ長編書いていこうかな……)
風邪。
風邪を引くと安心する。
普段は心という見えないものと戦っているが、身体症状として現れてくるのは親切設計だよな。
風邪薬は市販であるのに、苦しみから逃れるには精神科に行かなければならないのはなぜなんでしょう。
娯楽が薬なのか。コミュニケーションが薬なのか。
苦しみが視覚化される世界だったら、どうなるんだろう。
……その程度の辛さで悲しむな、とか言われそうだな。逆に生きにくい世の中になりそう。
視覚化されても、経験がなかったら心ない言葉を言う人もいるだろうし。
苦しみだけが人生を絶望に追いやるとも、言えないはず。
そういうSF小説ありそうだな。
似たようなものでは、『アンドロイドは電気羊の夢見るか?』では、喜びを他の人に分ける装置が出てくるからな。目的はよく分からん。
感情というものが資源化されたのだろうか。
『メイドインアビス』のカートリッジみたいに、自分の苦しみを代わりの誰かに背負わせることができる時代も来るのかな。来ないでほしいな。というか、倫理的にアウトな気もするけど。
でも、実際生まれ持っての気質とかあるだろうし、平等ではない。
こんな話がある。
『偶然とは何か その積極的意味』では、「すべての人々に人間として必要な生活条件が保証されるべきであり、そのための費用をより幸運な人々が負担すべきである……(以下略)」
という考えが提唱されている。
「精神疾患を持っている人は、他人よりも苦労し、苦痛をより多く味わう可能性が高い。
故に、その苦しみは、幸福な人々に程よく分配されるべきだ。(動物でもいいのだろうか)」
こう主張を言い換えることができる。
どちらにせよ、あまり考えたくない話だ。
……実際可能であったとしても、実施されるとはとても思えない。
倫理的問題はまず考えられることかな。
「代わりに誰かが苦しむ」という時点で、苦しみの当事者も、その代わりとなる者も結果としては両方苦しむだろう。
技術として可能になっても、いや、可能にさせてはいけない技術なのかな。……。他人の意見が聞いてみたい。
【風邪】
風邪じゃないうちは、風邪引かないかな。なんて思ってる、疲れきった毎日。
風邪引いたときは、早く普通の日常に戻らないかな。なんて当たり前のこと考えてる。
風邪のしんどさって風邪にならないと思い出さないもので。そのへん、人間って学ばないというか。忘れてしまうんだ、って。
「痛みって、忘れるんだ。」
それが寂しくも、待ち遠しくもある独り。
【風邪】
朝、目が覚める
喉がイガイガして咳き込む
「風邪でも引いたかな?」
でも、この程度で
学校を会社を休む訳にはいかない
マスクをして
なんとか、学校に会社に行く
だんだん咳が止まらなくなるし
鼻水も出てくる
心做しか熱も出て来た気がする
ここまでくると
本当に風邪なのだと実感して来る
家に帰ったら
胃腸に優しいものを食べて
しっかり薬を飲んで
暖かくして寝よう
風邪を引いてしまったとき
普段頼りのないひとが
いざとなって
真剣に看病してくれる
その気持ちは
うれしいしありがたい
1日中24時間
看病を続けて
お粥を作ってくれたり
お薬を飲ませてくれたり
さまざなことに
お世話してくれる
わたしが小さな頃に
風邪を引いたとき
お父さんが
ずっと付きっきりで
看病してくれた
慣れない手付きで
なんとしても
熱が下がって
元気になってほしいと
すごく頑張ってくれた
お父さんが作った
お粥は
あまり美味しくなかったけど
それでもなぜか
食べているうちに
美味しくなった
普段は
あまり役に立たない
お父さんだったけど
そのことを思い出して
今の状態と重ね合わせてみると
なんだか涙が出てきた
懐かしい時間
優しい時間
忘れない時間
すべてが
風邪という
苦しく辛くとき
病気になったあの頃
もしかしたら
死んでしまうのかなっと思った
それでも
わたしは頑張った
負けないくらい風邪に勝った
それから
わたしは
もう何十年も
風邪を引くことは
一度もなくなった
相澤はよく学校を休む。
体が弱いのなら、四六時中騒いだりせず大人しくしていればいいのに。
きのう相澤の家の近くへ行ったから、ついでに寄ってみるとゾンビみたいな顔色で笑って出迎えてくれた。
どうやら雪にダイブして遊んでいたら風邪をひいたらしい。馬鹿だ。
「なんにも上手くいかないなら、せめて笑ってた方がいいだろ?」
「お前の笑顔は投げやりなんだ。」
これが僕らのお決まりの会話だ。
そしてどうやら、きのうがお決まりの最後だったらしい。
相澤は学校に来なくなった。
先生は病気を拗らせたのだと言った。
相澤の家を訪ねても、誰も出てこなかった。
僕は唯一の友人を突然失い、怒り半分、心配半分で学生生活を送った。
ある日、配給をもらった帰りに公園を通りがかると浮浪者がゴミ箱を漁っていた。
最近ではよくあることだと無視して帰ろうとしたら、目が合った。
相澤だった。
相澤は笑った。別人みたいな笑い方だった。
僕は頭が真っ白になった。
それでもガリガリに痩せた相澤に配給で貰ったパンを差し出した。
相澤は傷ついたように顔を歪ませたが、やがて奪い取るようにして貪り食った。
それから僕も体調をよく崩すようになった。
だけど相澤のことは未だに何も理解できていないし、笑うこともできない。
最近ちょっとだけ科学の方に興味が出てきましたよ。訳あって勉強がかなり遅れてるんですが、教科書だけでなんとか追いつこうと必死です。
せめて問題集だけでもあったらな。塾通えればとは思うけれど、遅れたのは私のせいでもあるしね。
風邪
もー年中ひいてる気がする。
おばさんになったら引かないイメージだったんだけどな。
つくづく残念な人ね、私。
風邪
ゲホゲホゲホ
お隣から咳が聞こえる。
今年の風邪は持ち回り制らしく、
誰かがゴホンとやり、その人が治る頃に
別の人がゴホンとなり、その度にコロナの疑いで緊張が走る。
幸い陽性になる人はおらず、
しかし入居者さんに風邪を移すわけにもいかないので
どうしても人手が足りなくなってきている。
うーん、どうしよう。
幸いなことに自分はまだ今回の風邪をひいていない。
今の状況で自分が風邪をひくと
職場がさらに逼迫し、無理をした人の免疫が下がり
風邪に感染し、さらに…という悪循環になりかねない。
お隣さんのことはよく知らない。
数日おきに女の子が通ってきて
ゴミを捨てたり何か話をして
帰っていくのは知っているが、それだけだ。
女の子のことも漏れてくる声しか知らない。
お隣さんの声は小さすぎて聞こえないため、
男か女かもわからなかった。
咳き込んでる音からすると女の人っぽいなあ、と
身支度をしながら考える。
うーん、どうしよう。
お隣さんのこと全く知らない。
コンビニのオーナーからは知らない人と話をするなと
割ときつめに言われている。
あなたの住んでるアパート、
どんな人が住んでるかよくわからないし、
変な人かもしれないから関わっちゃ駄目よ。
普段お世話になってるオーナーさんの忠告だし
ちゃんと聞いておきたい。
だけど。
先月のことだ。
夜勤明けだったのに、子供が熱を出して休みとなった
同僚の穴埋めをすることになり、
そのまま夕方まで仕事をすることになった。
その日は普段ご機嫌な入居者さんがなぜか風呂を嫌がり
別の入居者さんもご飯をいやいやして時間がかかり
とにかく疲れていた。
アパートに帰ってきて気が緩んだのか
階段前でうずくまってしまい、
このまま寝落ちしたら気持ちよさそうだと
誘惑に負けそうになっていたら声をかけられた。
見上げると知らない男の人だ。
無視しようかどうしようか迷っていたら、
俺、そこに住んでるんですけど、と
アパート一階の真ん中の部屋を指される。
上に住んでる人っすよね。
大丈夫すか?救急車呼びます?
どうも急病人と間違えられたようだ。
違うんです、ちょっと疲れて休んでただけです。
起き上がって階段を登ろうとしたら、
ちょっと待ってと呼び止められる。
男の人は自分の部屋の鍵を開け中に入ると
ビニル袋を持ってきた。
中にはみかんとカップうどん。
顔色悪いよ。
あまりもんで悪いけど、持ってけよ。
起きて腹減ってたらすぐ食えるよ。
お大事に。
そう言ってモノだけ渡すと
さっさと部屋に戻って行った。
鍵を開けたら再び鍵をかけるので限界だった。
風呂にも入らず、着替えもせずに
布団に潜り込んでぐうぐう寝た。
夜中に起きた時、みかんを食べた。
美味しい。
その時初めてとても空腹であると気がつき、
電気を付けてお湯を沸かし、
うどんを食べた。
身にしみる美味しさだった。
うーん、どうしよう。
あの時嬉しかった。
うどんもみかんも美味しかった。
下の部屋の人のことは全く知らないけど、
知らない人にも親切な人がいるとわかった。
出勤時間迄まだ少し時間がある。
悩んだ時は相談しよう。
部屋を出て、近所のコンビニに行く。
オーナーさんはいなかったけど、
顔見知りのバイトの外国人のお姉ちゃんがいて、
お隣さんが風邪引いてるけどどうしようと相談したら
オーナーを呼んでくれた。
オーナーは少し難しい顔をした後で、
コンビニの袋に風邪薬とのど飴、
ゼリー飲料とポカリを入れた。
あそこのアパートの人あんまりよく知らないのよ。
女の人の姿もほとんど見てないし。
顔合わせずに、袋をドアノブにかけるだけにしなさい。
顔は厳しいままだが、そう言って袋を渡してきた。
代金を支払おうとすると、
病気のお見舞いにお金とれないと笑った。
タダはまずい、何か買わなきゃと慌てて見回すと
レジの前にみかんがあった。
みかん。
自分用に、という名目でみかんを買った。
あと、メモも一枚もらって、ボールペンも借りた。
知らない人からもらうの嫌かもしれないし。
ガリガリと走り書きする。
今から戻って職場に行くとギリギリだ。
少し焦る。
オーナーにお礼を言って
慌ててアパートに戻る。
ドアをノックして袋をかける。時間がない。
パタパタと階段を降り、小走りで職場に向かった。
あの日のみかんは本当に美味しかった。
真夜中に食べた温かいうどんがとても助かった。
相手が袋の中身をどうするかはわからない。
そんなことは知らない。
だけど、あの時自分はとても助かって嬉しかった。
だから同じことをする。
職場には1分前に到着した。
汗だくだったが、気持ちは明るかった。
『風邪』
くしゃみする
1回、2回、
望みをかけた3回目
願いも虚しく4回目
苦笑いして薬を飲んだ
『風邪』
つらい……
一人暮らしを始めて初めて風邪をひいた。
実家にいたときはお母さんがおかゆを作ってくれたっけ…
食べたいな…
あの味が懐かしい。
ピンポーン。
え…?
まさか、本当に来てくれるなんて。
少し体調が悪いと伝えただけなのに。
お母さん……
涙が止まらなくなった。
氷雅
風邪を引くと咳は止まらないし鼻水はずっと垂れてるしで、夜も眠れなくて辛い。
だけど、一番辛いのは「大丈夫か?」て心配されること。
あなたも大変なのにって、申し訳なくなる。
風邪を引いた人がいたので
代わりに出勤した
休みだったし、予定も無かったので
自分が代わりに出勤するのはごく自然なこと
責任も罪悪感も感じる必要はない
助け合いだ
そう思っていた
自分が体調を崩すまでは……
自分の時は誰も代わってくれなかった
あげく小言を言われる始末
それが何度も続いた
もう無理だ
程なくして退職した
2度とこの業界に戻らないと固い決意と共に
風邪
子供の頃風邪ひいた時に出てくる
大根おろしに蜂蜜かけたやつ
美味しくはなかったけど
風邪引くとふと思い出す
なあ。
風邪ひいた時とかってさ、無性に寂しくなるだろ。
そういう時、近くにいてくれる人がいるって、いいよな。
…だから、お前さえよければ、
今日は泊まってって。一緒にいてほしい。
こんなこと頼んでごめん。でも、お前がいい。
涙をこぼしながらそう弱々しく懇願されて、断るという選択肢など、あるだろうか。
【風邪】
お題『風邪』
頭がクラクラする。
現実と夢の違いが分からなくて、ふらふらする。今、歩いてる?
テーブルの上にあるリモコンが歪む。おもむろに掴んで、テレビを見ようとしたが止めた。頭が痛くて、情報を頭に入れたくない。
喉がビリビリして、それに伴って耳もじわあ、とする。これ、嫌いだ。
氷枕ってあったっけ?いつも入れてあったかなあ、と思いながら冷凍庫を開けた。無事それはそこにねむっていて、有難くタオルを巻いて敷くことにする。
部屋に行く途中で、さっきまでそこにあったか分からないペットボトルに躓いた。
だいぶ高熱らしく、本当に空気感が分からず、ひやりと体が冷えた。ぺた、ぺた、と歩く。足裏が冷たい。
視線の端で黒い何かが横切った、気がした。
今、私は、夢を見てる?それとも、現実を見ているんだろうか。
大好きな人が、
風邪を引きませんように
あなたが元気になるのなら、
わたしに移してください
【風邪】
風邪
「あちゃー、38,5℃かー。今日はゆっくりと寝なさいよ。」
そう言うと母は、お粥を置いて出て行った。
久しぶりの熱で抵抗力の弱った体では、この頭痛も喉痛ま堪ったものではない。
世界が渦巻いて見える視界で、天井を見る。
ぐるぐると回る電気や、天井が気持ち悪い。
この部屋は和室だから、私は畳の上に敷かれた敷布団の中で眠っている。
母の消えて行った障子を見つめる。もう夜の7時だからだろう。電気はついていても、何処となく薄暗い。
風邪を引くと、どこか虚しい。
「おばあちゃん。」
3年前まで生きていた祖母は、私が熱を出すと、ずっとそばにいてくれた。
会いたいな。
久しぶりにそう思った。
私はゆっくりと目を閉じ、少しでも寝れるように心がけた。
その時、不意に外がパッと明るくなった。
まるで真昼のような光が、障子を超えて、室内に入ってくる。
なんだろうか。
不思議に思って、障子へ目を向けた時、何か狐のような影が見えた。九つの尻尾、こちらを見るような顔、
これが世に言う九尾の狐だろうか。
そう考えた瞬間、唐突に眠気が襲った。
私は抗うまもなく、眠りについた。
次の日、目を覚ますと風は完全に完治していた。
「すごいわね、あんなに高かったのに。」
お母さんが驚いて言う。
「そういえばね、お母さん。私、昨日不思議な夢を見たの。」
私は昨日見た事を事細かに話した。お狐様のような影を見た事、不思議と怖くなかった事。
「なんか、お義母さんも同じ事を体験したって、昔話してくれたわね。」
不意に母が言った。その言葉で、私はもしかしてと思った。
あの時、私は祖母に会いたいと願ったのだ。もしかしたらあのお狐様は祖母の代わりに私を看病してくれていたのだろうか。
不思議と心が温かくなった。