『静寂に包まれた部屋』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
カラン、と壊れた鈴の音が響いた。不思議と不快感はなく、むしろ故郷を想い出させる、懐かしい耳当たりだった。
真っ白な部屋の中央には、小さなテーブルと2つの椅子。その片方には綿飴のような黒いモヤが人の形を成して座っていた。
ここはどこ、あなたは誰、そんなこちらの疑問を全て理解したかのように、にも関わらずモヤは言った。
まあまあ、とりあえずお向かいにどうぞ
人助けだとでも思って、私の雑談に付き合ってくださいな
緩慢な動作で席に着くと、それに合わせるかのように、モヤはゆったりと話しはじめた。
とある部屋の話をするね
その部屋は、人生において一度だけ訪れることが出来る部屋で、そのタイミングは唐突。誰にもわからない。当の本人も、神様さえも。
そんでもって、部屋の中は人によって異なっているらしいんだ。
私の家族を例にだすとね
私の母は、趣味の読書が高じてドラマのセットのような、いかにも作家の部屋らしい重厚な部屋だった。
わざわざ海外から洋書まで取り寄せるような人だよ。4,5ヶ国語くらい文字を書き分けているところはみたことあったけど、喋るとなるともっと何ヵ国語も喋れるみたい。ね、結構すごいよね。私もこのことを知ったの、割と最近なんだけどさ。
それから
父は厳しい人でね。いつも家族の前ではむすっとしてて、まるで人に興味がないんだ。
でも父の部屋は、その性格からは想像もつかないほどの、おびただしい量の船や飛行機のプラモデルが陳列する部屋でね。
人の世界で生きるには優し過ぎる性格してたのかなって、最近話してて気がついたよ。家族の事もちゃんと愛してくれていたし、私はまぁ、父にも普通の男の子らしい憧れがあったことに安心したかな、逆にね。
あと
妹は、お気に入りのぬいぐるみやら、母のおさがりのアクセサリーやら、キラキラしたなにかやら。親みたいに統一性はないにしろ、収集癖のある、歳相応の可愛らしい部屋だった。物持ちをみるあたり普通の女の子なんだけど、時々私よりすごく大人びたことを言うことがあって、だから所々ぬいぐるみたちに混じってる、表面的にみれば少し理解し難いものも、彼女がよく本質を見抜く子だっていうのを表してるんだなって、思ったりね。
そうそう
友人なんかは、その部屋で恋人と会ったらしい。生物もありなんだね。
今でこそジェンダー、同性愛諸々あるけど、私の友達の国は当時、それは犯罪であり病気だなんて言われてて、ね……。友人は私の国に逃げることが出来たんだけど、友人の恋人は…。
まぁ全てを言わなくても貴方ならわかってくれるから、これ以上は言わないね。大丈夫、友人達は今ちゃんと幸せだよ。2人を見守っていると、羨ましいなって思うくらい。
私?私の部屋だって?
よく聞いてくれたね!私の部屋はね……
私の部屋は、何もなかったんだ。
色すらなくて、でもないってこともなくて、準透明って言うのかな。よくわからない、面白くなくてごめんね。
私は自分の世界を愛していた。
私が生まれた世界は、私が成人するよりも前には結構どうしようもなくて、私の国に至っては、多分近い未来国が破産して国を保つことは難しいだろうって言われてる。文明が発達するのに比例するように、他人(ひと)が他人(ひと)を簡単に貶めるような世界。それでも、人を信じたいって気持ちが一欠片だけ残ってる。
世界の寿命を延ばそうっていう取り組みより、破壊行為スピードの方が速すぎた。
子供と働き手が急減し、腰が曲がるほどの寿命を得た人が急増した。
政治家は「国の未来」より「現在の票」を求めている。
かつての幼子は若人に成長し、彼らは自身の声が国はおろか、誰にも届かないことを知った。
自分がいる場所に未来がないこと、外へ飛び立つ為の金も学も力もないことを憂い、みんな自分から逝った。
私はその時思い知ったんだ。自分は世界を愛しているのではなく、愛している「つもり」であったと。
私が好きになった、世界や身直に溢れる様々なものは、私たちの手自身で壊してしまっていること、今の生活の営みになんの意味もなかったこと、みんなそれに気がついてて、私だけ知らなかったこと。
つまり私は、家族も友人も世界も、何も愛せなかったんだね。あれだけ長く喋っておいてね。
さっき友人が羨ましいって言ったでしょ、私、誰ひとりとして人を好きになれなくて、もしかしたら私はそういう部類の人間なのかもしれないけれど、なんだかいまだに人を好きになりたがってる自分がいる気がしてね。往生際が悪いよねぇ、自分でもそう思うよ。だってそれを諦めたら、もっとずっと、私は私を苦しまさずに済んだのに。
まぁでもその後は良かったかな。部屋から出た後のことだよ。今までで1番暖かい日の下を歩いてここに来られた。
家族にはもう既に先立たれてたから、誰かが丁寧に、といっても心当たりが1人だけいるけど。手厚く送ってくれたんだね、感謝しなきゃ……
…え、なんの話をしているかって?部屋の話だけど……
…そうじゃない?一体何の話を……
……
…………。
そーか、君は……、
ーーーーーー
その部屋は、静寂の部屋と呼ばれている。
亡くなった人の棺に花を一杯に添える時、その人が最後に見る夢のこと。
子供から老人まで、誰もが必ず一度訪れることになる、最初で最後の部屋。
そこから火をもって送りだされるまでの、わずかなひととき。
その人の全ては何一つ遺ることはない。
永遠の沈黙をもたらす部屋。
『静寂に包まれた部屋』より
楽し過ぎた
嬉し過ぎた1日だった。
心が、騒々しい感じ。
まだドキドキする。
扉開けて家路につく。
静寂に包まれた部屋が
溢れた楽しい嬉しいを
包みこんでくれる。
ちょっと寂しくなるけれど、
ホッとする。
『…お前、本当は俺の事好きじゃないだろ』
恋人が待つ家に帰り、真っ先に飛び込んできた言葉。
俺は思わず言葉を失った。
そう言い放った彼の目は怒っているようで、
どこか寂しげで。
『最近俺以外の奴とずっと一緒じゃんかお前』
戸惑う俺なんてお構い無しに続ける。
確かにここ最近、
俺だけ友達と遊びに行ってしまうことが続いてた。
…と言っても、家に帰ればずっと一緒なのだけど。
そんな言葉は、生唾と一緒に飲み込んで。
「ごめん。俺が悪かったよ。でも、俺が好きなのは
お前だけだよ」
『…そういうことじゃない』
そう言うと彼は自室に籠ってしまった。
静寂に包まれた部屋に、俺だけが取り残された。
頭が真っ白になった。
大好きな彼に嫌われてしまった。
俺のせいで。俺が自分勝手だったばかりに。
不意にスマホが鳴る。
画面に目を落とせば彼からのメッセージ。
時計を見ればもう何十分も経過していた。
画面にはこう書かれていた。
『ごめん。さすがに言いすぎた』
〜静寂に包まれた部屋〜
静寂に包まれた部屋
夜。
真っ暗な部屋の中で静かに目を瞑る。
豆電球の光さえ眩しく感じてしまうから、部屋の中はいつも真っ暗だった。
音のない静かな空間に、自分の心臓の音が妙にリアルに感じた。
ドク、ドク、と動く心臓から送られる血液が身体中を巡ってゆく感覚。
心臓は、生まれてから一度も止まらないで動き続けているし、これが止まると人は生命活動を続けられなくなる、人間の身体の仕組みが不思議で仕方ない。
光のない苦しみの中にいたあの頃でさえ、ちゃんと動いてくれていた。
だから、今も自分はここにーーー。
静寂に包まれた部屋の中で、自分の“生”を感じて今日も眠りにおちてゆく。
朝の目覚めを夢見ながら。
静寂に包まれた部屋
もう、しばらく誰とも会話をしていない。
テレビもラジオもない。一人だけの部屋。
時計の秒針や外の音が聞こえるくらいだ。
生きることに私は疲れてしまっていた。
だから、死のうと考え準備をしていた。
色々なものを次々と片付けていった。
全てするほどの気力はなかった。
うつ病となってしまったのだ。
生きる気力がなくなったのだ。
仕事も辞めてしまった。
ずっと部屋にいる。
静かに感じてきた。
遺書も書いた。
準備もできた。
お別れだ。
辛かった。
短い人生。
終わりさ。
全ては。
ぐっぅ。
……
…
そして、部屋は静寂に包まれた。
ねぇ 起きてる?
毎日の、何気ない夜
ねぇ もう寝ちゃったの?
確認する自分の声だけが
静寂の部屋に包まれてしまう
重ねたように見える手
重みだけ乗せた手
パッと起きると
見たことない景色が
ここどこだ?
身体を起こそうとしても
痛すぎて力が出ない
「あ、目さめました?
警察がお話できますか?と言ってましたよ
もう少ししてからにしますか?」
なんの説明もなくそう言う看護師さん
何も答えない自分に対し
「今日はやめときましょうか、
明日にして欲しいって言われました
って言っておきますね」
そう言って部屋を出ていった
あんまりよく覚えていないけど
自分死のうとしてたんだっけ
誰もいない静寂に包まれた部屋に
たった1人取り残された
静寂に包まれた部屋
静寂に包まれた部屋の中
私は1人でいる
居心地の良い空間
青白く灯された空間
白いベールのようなものに包み込まれている
寂しそうな、冷たそうな
印象を受けるのだけれども
そこにいる彼女はどこか
安心していて心地がいい空間のようだ
そこから出て来てくれないか?
ダメならその中に僕も招いてくれないか?
大切な空間を壊さないように
彼女を抱きしめて進むから。
「静寂に包まれた部屋」
僕は元々ひとりが好きだった。
周りに人がいるのは好きじゃなかった。
自分のペースを崩されるし、ゆっくりできるし、気を使うだなんて面倒なこともしなくてすむ。
だから僕は静かな部屋が好きだった。のに。
君が僕の部屋に来るようになってから、誰かが傍に居ないことに寂しさを覚えるようになってしまった。
あっという間に距離を縮めてきた君は、一緒にいても嫌な感じがしなかった。むしろ、君の鼻歌だとか、髪の匂いだとかが、とても心地よくて、あぁ、これが恋なんだな、と思った。
僕に人との付き合い方だとかを君は教えてくれてたんだよ。そんな自覚はないだろうけど。
僕は今、誰かが隣にいてくれないと苦しいんだよ。
誰かが傍にいてくれることが好きになってしまったんだよ。
静かな部屋は嫌いだ。
だからね、久しぶりに僕の部屋に来て欲しいんだよ。
化けて出てきてもいいから……。
君こそ傍にいて欲しかったのに……。
窓
ノート
ペン
液晶画面
飛行機の音
君は
どこ
『静寂に包まれた部屋』
「微睡み憂い妬み返し、
過去は蒸れて未来は腫れる」
明日の夜の曖昧さに怯え
変わらない毎日に閑静を求め
情弱なまま攫われる私
声高く称えるあの陽気な鳥
その裏に潜んだ陰気な願い事
遠い昔に掠れ読めない本を手に取って
ただ静かに晩刻を迎えるまで
記録に残せばいい
床が軋んだ
埃が舞った
立ち上がりカーテンを開ける
陽が照らした床は未だ黒ずみ
開かないままの扉は軋む
あと幾年か
音もなく
光も届かない
静寂な部屋
その中にぽつんと
いる僕
寂しいけれど
1人が落ち着くの
犬の名付け親になんてならなきゃよかった
あまりにインスタントな別れ際に、
思い浮かんだのはそれだけだった
静寂に包まれた部屋の中
少しだけ開けた窓の隙間から
またひとつ、季節が流れる風の匂いがした
名も知らない小さな花が揺れていて
虚しさ続くここ数年
汚れてく未来にもう夢を描けなくなった
普通に生きることさえ難しくなったこの時代に
まだかろうじて心だけは
あの頃を宿したまま
散らかったこんな部屋の中からでも
見えるこのありふれた景色を
綺麗だ、と思える心が
まだ残っていて良かった
父に建ててもらった
白い小屋
十五歳の日にもらった
ひとりだけの部屋
若い思春期の時を
笑顔も涙もないまぜに
大人になるまで
この身体を囲み
包んでいた小部屋
安らぎと孤独の
同居した部屋
今はもう殺風景な白さばかり
廃れた空き地に佇んで
生きた気配のない
命の灯が消えたただの箱になり
わたしが足を踏み入れても
よそよそしく乾いた音をたてるだけ
この部屋がなくなっても
誰も気に留めはしない
わたしの生きた日々が
消えるでもない
それなのになぜだろう
胸の中に息づくわたしの一部が
今にも消え入りそうに
痛い
#静寂に包まれた部屋
「静寂に包まれた部屋」
これほど心地のいい地獄は無いかもしれない。
回る思考を制御しようと、必死にもがくこの時間が案外嫌いじゃない。
誰に傷つけられることもなく、話す必要も無く。
自分を傷つけるのは、自分自身の内側だけ。
見つめて、見つめて、見つめて、いずれ何もかもどうでもよくなった時にくる無感情を味わう為にここにいる。
【静寂に包まれた部屋】
静かな場所にいると、色々なことを考える
周りに人がいなければ尚更。
過去のこと、未来のこと、今のこと、
ぐるぐるぐるぐる頭を巡る
そしたら、最後には
__疑問だけが残っていく__
午前四時もエヌ回目。
変われないわたし。
変わってゆく日付。
なにひとつ合わない世界。
なにひとつ受け入れてはくれない世界。
醜い醜い私が悪いの?
なにもかも?ぜんぶ?
生まれ落ちた意味は何処にあるの?
ねぇ、誰か誰か─。
この生活の終わりに
一体なにがあるの?
この涙を飲み干す日々には
何の潤いもないけれど
本能だけが
わたしの血を身体に流し続けてる。
この命の宛は
一体、一体─。
056【静寂に包まれた部屋】2022.09.30
そもそも皇族がこの屋敷に足を踏み入れるのは、禁忌とされていた。唯一の例外は、皇子が幼かりしみぎりに、ルリイロハグロトンボのアルビノの標本を見たい、と駄々をこねたときで、それ以降、誰も禁忌を犯していないならば、この再びの皇族の来訪は、二十数年ぶりとなるはずだ。
その唯一の例外も、二十数年ぶりの再訪も、まさか我が身がおこなうことになろうとは、皇子自身、想像だにしていなかった。
馬車を降り、重々しい玄関の扉から、屋敷のなかに入る。すると、そこのぐるりの壁面はもうすでに、昆虫標本でいっぱいだった。子どもの頃の記憶より、一層さらに増えているのではないか、と思われた。通り抜ける廊下の壁も、静かに動きを止めた標本でいっぱいで、むしろ、自分が立ち上がって動いていることのほうが、なにか重大な過ちを犯しているのではないか、と錯覚されてくるほどであった。
たどり着いた部屋では、屋敷の主が待っていた。大伯父のアルフレード、93歳、先代の皇帝であった祖父の兄である。
曽祖父の代は、有力な臣下のつばぜり合いが激しかったという。それが、皇位継承争いにまで発展し、内乱勃発が危惧されたほどであったという。アルフレードは、意に反して、成り行きで一方の神輿として担ぎ出されていたが、みずから皇位継承権を放棄し、この黒森に引き籠り、そうすることで争いに終止符を打った。そして、皇族との接触を断絶し、臣下もそれに倣うよう宣言し、二度と己を争いの火種とできぬようにしたのである。
静寂に包まれた部屋の中で、この歴史的な騒乱に終止符を打った大伯父は、ここでもまた、おびただしい数の昆虫の標本に囲まれて座っていたが、禿げ上がった頭に丸眼鏡、というトレードマークは二十数年前と変わっていなかった。
圧倒的な量の死の静寂に包囲されて、皇子はたじろいだ。静かすぎるがゆえに、かえって、動かないはずの昆虫たちの羽音が、ブウンンンンンンンンンン……と一斉に立ち上がってくるかのような気すらした。
「ようこそ。セヴェリン……大きゅうなったのう」
跪いて無沙汰を詫びる皇子の頭を、アルフレードはいとおしそうに皺深い手で撫でた。皇位争いを拡大させぬために敢えて離婚し、二度と妻帯しなかったこの大伯父にとって、姪孫である皇子は実の孫にも等しい存在だったのである。
「久闊を叙したいところじゃが、そなたにはさようなゆとりはなかろう。単刀直入にいこう。例の謎の毒蛾の件じゃね……」
ここへ、と指し示されたテーブルにもまた、蛾の標本がある。
「まさか、ワシの道楽が国難救済のいとぐちになる日がこようとは」
アルフレードは嘆息した。
「……夢にもおもわなんだ……」
それは、幾重にも深い思いが折り畳まれた嘆息であった。
静寂に包まれた部屋
薄暗い空間に一筋の光が差し
部屋のドアの前に当る
その光はまるで行き先を標ているみたいだ
お前はここから出る必要がある
お前はここにいてはならない
ドアを開けてから先の世界は
誰一人としてわからない