『通り雨』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
冷めたお茶 煙草の煙 通り雨 別れ話が立ち去った跡
「通り雨」
─── 通り雨 ───
慌てて走っていく人を見ながら
私は店内でゆっくりと紅茶を飲んでいた
通り雨
気持ちが落ち込むと同時に止まって一休みできる!
ざざざざっと雨粒が落ちてくる。
リモートワーク中の僕は画面から離れるかを悩む。少しキリが悪いし、集中が切れてしまう。
これが洗濯ものであれば走って取込みに向かうのに。
雨足が強くなる音を聞き、観念して立ち上がる。ベランダがある方は雨が降り込みやすいのだ。
ついでだとコーヒーの準備。
ドリップではなく粉のインスタント。これはこれで嫌いではない。勝手知ったるか適当に入れて、席で胡座を組む。
雨が止んで太陽が出るとむわっと暑くなる。このまま降り続いて欲しいなって思いながら作業を開始する。
まあそんな都合のいい天気はそうそうないんだがね。
⬛︎通り雨
通りすがりの通り雨
通り言葉の通り道を行き
通り名無き遠回りの
遠吠えに遠ざからず
遠眼鏡を覗く遠目
通り雨の通りを尊ぶ
トートロジー
────────────────────────
通り雨
思考の海に言葉の雨が降り注ぐ。
それを半目で見つめる山高帽の男と、キョトンとした顔で文字を追う白い詰め襟の女が居た。
「…何だ?この言葉の羅列は…」
「言葉遊びというより音遊び、かしら?」
「本体にはそろそろ『思考の海には上等な言葉のみを届けます』とでも書いた誓約書を書かせるべきか…」
額に手を添えながら、難しい顔をして山高帽の男が呟く。
男の隣に立つ白い詰め襟の女は、静かに首を横に振った。
「…イメージでは駄目よ」
現実は何事も書面でもって効力をなすのだから。
山高帽の男は、「…リアリストのシビアめ」と苦虫を噛み潰したような顔をしたかと思うと、深いため息をつき肩を落とした。
ほんの少し前まで綺麗な青空を見ていたのだが、灰色の雲が覆い始める。
嫌な予感を覚えた青年は、恋人の手を取りカフェへ促した。窓際の席に座った頃、更に空の色合いは暗さを増していた。
ぽつ、ぽつぽつ……。
「わあ……雨降ってきましたね……」
彼女はスマホを取り出して、天気予報を覗き込む。
「一時間くらいて止みそうです」
天気予報アプリの画面を青年に見せつけながら、屈託のない笑顔を向けてくれた。
「出かけられなくなっちゃったね」
青年は視線を外に向けながら声のトーンを小さくして囁く。それを見た彼女は青年の手に自分の手を重ねた。
「通り雨ですから、止んだら続きのデートをしましょ。それまではカフェデートです!」
優しく微笑む彼女に、心が暖かくなるのを感じながら、手のひらをひっくり返して彼女の指と指の間に自分のそれを通した。
「そうだね。時間はあるんだからゆっくりしていこう」
彼女と一緒にいる時間、それは変わらないのだから。
おわり
一三四、通り雨
帰り道、通り雨にふられてしまった。
全身余すことなくびしょびしょな私を見て、
君は笑ってくれたよね。ただの楽しい学校生活だけど
私はそんな瞬間がずっと続いて欲しいくらいに大好きだ。
通り雨
トラック一台がどうにか通れそうな道を歩いていた。
後ろから乗り物……トラックのような音がした。
かなり大きな音だったので、大型のトラックかなと
道が少し広くなっている場所の端によけ、
後ろを振り向いた。
トラックの姿……どころか人一人さえ見当たらなかった。
私が見たのは、こちらに迫る白いカーテンだった。
それの正体を理解する前に、
私はずぶ濡れになった。
息が苦しくなった。
というか、できない。
何が起きたのかわからなかった。
一人、息ができずもがきながらだんだん状況を理解した。
トラックの音ではなく、雨の音。
白いカーテンは、とても強い雨。
迫るように見えたのは、
ちょうど降る降らないの境界だったから。
濡れているのは雨だから。
息ができす、苦しいのは……マスクが濡れたから。
私はマスクを外した。
息ができた。
でも、雨が入ってきて苦しい。
雨は、私を頭の上から足の先まで
ずぶ濡れにした挙げ句、
何もなかったかのようにピタリと止んだ。
去ってゆく白いカーテンが見えた。
トラックも去った。
通り雨だった。
しばらくの間、トラックの音を聞くたびに
傘を握りつつ振り向くようになってしまった。
何もしたくないし、何も見たくない。
誰にも会いたくないし、誰とも話したくない。
一番話したいあなたはもういないから。
雨が窓を叩く音が私の嗚咽をかき消す。
どれくらいそうしていただろう。
気づけば雨はすっかり止んで、雲の隙間から太陽が顔を出していた。
私の気持ちは通り雨のようにはいかない。
通り雨
優しく元気な君は突然やってきて
過ごす日が浅いまま君はいなくなった
まるで最初から居なかっかのように
周りの皆は平然としてて
私の心だけに君がいた跡が残った
嫌な事も
不吉な予感も
悲しみも、絶望も
通り雨でありますように。
53日目
ザーザーと雨音が響き始めた
晴れ予報だったから傘なんて持ってないよ
そう思った瞬間に気づく
「なぜ自分は濡れていないのか」と
確かに外は雨、道行く人は傘を差している
「...外?」
あぁここはショーケースの中だった
消えようと思った。
こんなどうしようもない自分が大嫌いで許せなかったから。
それでも、
まだまだだって
自分のことを認められるように、
許せるように、
好きになれるように、
ずっとずっと向き合い続けてきた。
でも、この気持ちは一向に変わらなかったんだ。
流石にもうしんどいかな。
止まない雨はないっていうけどさ、
雨が降ってても進んで行ける方法を教えてよ。
ー通り雨
通り雨。
私の心に通り雨。
ずくにやむから、待っていてね
ランチを終えて会社に戻ろうと店を出ると、雨が降っていた。
ついてない。会社まで急いでも10分はかかる。傘を用意すればよかった。いや、降るとわかっていたら、もう少し近くの店にすれば良かった。
雨の中に飛び出す踏ん切りがつかないでいると、背後から声を掛けられた。
「柴田さん、傘入りますか、良かったら」
同じ課に最近異動してきた水無月さんだった。
ぽん、と折りたたみじゃない、しっかりした造りの赤い傘を開いて俺を見る。
「あ、ーーああ、店に居たんだ。気づかなかったよ」
女性社員とつるんで来ているわけではなさそうだ。まぁ着任して日も浅い。
しかし、あまり接点のない女性と一つ傘の下に入るとなると、ためらいが先に立つ。
「奥の方にいましたので」
入りません?昼、終わっちゃいますよと目で促す。
「あー、じゃお言葉に甘えようかな」
俺は水無月さんの傘に入らせてもらった。店先でうだうだしてたら店に迷惑だ。俺は柄を彼女の手から受け取った。
「俺の方が大きいから、差しやすいし、歩きやすい」
「ありがとうございます」
すぐに止む通り雨ですけど。水無月さんは朗らかに言った。
「分かるんだ、へぇ」
「まぁ雨が降る、上がるのことなら、大概。じつは私、妖怪アメフラシの子孫なんです」
俺はまじまじと水無月さんを見つめ返した。
軽い感じでいるけど、目がまじだ。こういう冗談を言う子なんだ、意外だな。
「奇遇だね、俺、雪女の子孫」
「……へぇ、そうなんですか」
「うん」
「そういえば柴田さん、時々親父ギャグで場を凍らせてますもんね」
「え、そお? そうかな」
軽ーく傷ついたぞ、おじさん。
結構毒舌。顔に似合わず。俺は水無月さんに雨がかからないように、傘の角度を気遣いながら、会社への道を歩いた。
ーー、ひと雨来そうだったから、傘を持ってランチに出たんですよ。柴田さんの選ぶお店に…
相合い傘のチャンス、だからーー
「え、何か言った?いま」
雨音に紛れ、よく聞こえなかった。そう言うと、
「ううん、何も」
ふふふ。雨がざあっと強まった。
#通り雨
はぁ〜。
今日はついてない。
まさか抹茶パウダーが売り切れなんて……。
アイスクリーム屋さんも定休日だったし、
クレープ買ったら
下から全部落ちてったし。
通り雨は私の涙をかっさらった。
それは嬉しいけど
服はびっしょり。
3年ほど文通している人への手紙も
滲んで書きなぐりみたいな字になったし。
まあいいか。と出したのだけど、
裏側をメモ代わりに使ってたことを
今思い出してしまった。
しかも曲名をメモしていて
「にこにこしてたい。」
って書いてた気がする。
うおぉぉおぉぉおおぉ!!
ポストの前で頭を抱え叫ぶ変人の完成だ。
滲んで変な誤解を生まなければいいのだが…。
靴も濡れていて
重くて足が上がらない。
もう帰ったら寝よ。
倒れ込むように寝た翌日、
文通している人から
速達で手紙が届いた。
内容はいつも通りだったが、
よく見ると
暖かい言葉が使われている。
最後には
"Good Midnight!"
と書いてあった。
メモに気づかれなくてよかったぁ〜。
ほっとしたのもつかの間、
力が緩み
左手に持っていたスマホが
足へと落ちる。
イ゙ッダア゙ア゙ア゙ア゙ア゙。
もしかして今年のおみくじ大凶引いたから?
あと半分で今年終わるってぇぇえ!!
1人家でキレていた今日この頃。
通り雨
だれかにとどめを刺す絶望ではなく
涙を隠すために奔走する穏やかな雨でありますように
「通り雨」
レーダーに
指を滑らせ
わが街を
覆う雨雲
見て嘆きけり
騒がしい雨音が
雑な気持ちを
かき消してくれる
傘が無いから
しばらく帰れそうもない
まあいいか
家にいても
することはないし
返事のない
言い訳をだらだら
考えてるくらいしか
私の頭は働かないし
いっそこの雨と一緒に
どこか遠くまで
飽きるまで泣き喚いて
心在らずのまま
流れていけたら
いいのにね
『通り雨』
朝目が覚めると、まず最初に死にたいと思う。また憂鬱な一日が始まるという事実を受け入れることが出来なくて、小さなため息がこぼれ落ちる。
鉛のように重い身体をゆっくりと動かして階段を降りると、母のすすり泣く声が聞こえてくる。
「お母さんどうしたの」
傍に立って、心配そうな表情を浮かべながらそう尋ねると、母は私の手首を掴む。
「あの人はどうして私を捨てたのかしら」
母は震える声で私にそう尋ねたかと思えば、死ねば良かったのかしら、消えれば良かったのかしら、つらいのよ、苦しいのよ、とヒステリックになり始める。
「大丈夫だよ。私はお母さんを捨てたりはしないよ」
そう言って母の背中や頭を撫でると、母は段々落ち着きを取り戻し、涙が止まり、やっと私から手を離してくれる。
「そうよね。私とあなたは死ぬまで一緒だものね。パン焼いておくわね」
母は私の赤くなった手首なんて気にもとめず、満足気に笑って朝ごはんの用意を始める。
これが私の朝のルーティンだ。
どれだけ早起きをしても、母が中々泣き止まず、学校に遅刻してしまったり、理由も言わず、ただただ娘を帰らせてくださいと学校に電話をかけてくるせいで早退させられたりなんてことは珍しくなかった。
そんなんだから、家庭内暴力があるらしいだとか、親が捕まっていて働かなければいけないらしいだとか意味の分からない噂が絶えず、廊下を歩けば色眼鏡で見られ、後ろ指を指される。もちろん、守ってくれるお友達なんてものは存在せず、先生でさえもモンスターピアレンツの子だと距離を取ってくる。
人間は誰しもつらいことがあるのだと、いつかは必ず幸せになれる日が来るのだと、そんな言葉をよく耳にする。胡散臭い言葉だと思いながらも、もうすぐ幸せになれるんだ、つらいのは今だけだ、これは通り雨なんだと自分に言い聞かせ耐えてきた。
でも、もう限界なんだと思う。
道路を走る車を目にすれば飛び出したい衝動に課せられて、学校の屋上に行けば飛び降りたい衝動に課せられる。眠ろうと目を瞑れば母の泣き声が聞こえてきて、息が苦しくなる。涙はもう何ヶ月も出なくて、死にたい気持ちだけが高まって、誰にも届かない声が私の中をぐるぐる回る。
私は一体どうしたら良かったのだろう。
私はただ雨が止んでほしいだけだった。雨宿りをさせてくれる人が欲しいだけだった。雲一つない青くて綺麗な空が見たいだけだった。それだけだったのに、そんな小さな願いは何一つ叶わなかった。
でもやっと、幸せになる覚悟が決まったんだ。
暗くて寒い自室で、自分の顔と同じくらいの大きさの"幸せへの入口"を作って、そっと足を踏み入れる。私にまとわりついていた息苦しさも、つらさも、死にたいという気持ちも、全部全部を思い切り蹴り飛ばしたその瞬間。
それは確かに、雲一つない晴天だった。