『通り雨』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
最初に思ったのは、どの口が。だ。
例え今はニンゲンの姿をしているとはいえ、この畜生だって理解している筈だ。
ブルースが。ぼくのブルースが。
かつて畜生共にも慈愛を恵んだ、最たる神の存在であることを。
「……貴公、近くへ」
畜生がブルースを呼ぶ。
なんたる傲慢だ。
跪かせたうえに、ぼくのブルースを呼び付けるなんて。
名を口にしない点では評価したが、あまりの狼藉に、つい、戸惑いながらも立ち上がったブルースの手を掴んでしまった。
「クラーク?」
ああ、ああ。
オドンを介しているにも関わらず、きみの奏でる音はどうしてこんなに甘美なんだろう。
きみの音だけが、ぼくの鼓膜を震わす。
「……ブルース、行かなくていい。きみが傅く必要はないし、きみの居場所はぼくの隣だ。用があるなら畜生からくるべきだ」
本来なら視界にすら入らない存在であり、仮初めであっても姿晒すことはないのだけれど、ブルースと同じ姿をとるが故、仕方なく現した体で、オドンの孕み袋を見据える。
オドンの子を宿す道具でありながら、ブルースに手を伸ばした、強かといえば聴こえはいいが、業の深い畜生。
大人しくオドンの精子を啜り永遠に産まれない血の赤子を求めれば良かったものを、あろうことかぼくのブルースに手を伸ばした汚物。
「クラーク? 何を…」
「お願いブルース。行かないで?」
「っ」
きみってば、ほんとうにかわいくて。
生まれ変わろうが、ぼくのお願いにはいつも甘くいてくれる。
だいすき。だいすきだよブルース。
「し、しかし、彼女が…」
「………構わない。貴公は特別だ。…そうだな、本来なら私から出向くべきであった。……これを」
玉座にしなだれかかる畜生がゆっくりと立ち上がり、ブルースの前へと歩み寄る。
途端漂うは鼻を付くような甘い気怠い香り。
棒切のような腕がこちらへ伸ばされ、その指先には小さな輪っかが鈍く輝く。
誘われるよう腕を伸ばしたブルースを遮り、代わりに僕がそれに手を伸ばした。
確認しなくともわかる。かつてブルースが生み出した、穢れたオドンの血族が唯一誇れる神との誓約の証。
婚姻の指輪と呼ばれる、上位者が特別な意味を込めて作る、赤子を腕に抱く者の誓約。
"ブルース"の慈愛が込められた特別な指輪。
差し出す指の向こう、畜生の表情が揺れた気がしたけれど、気にせず"ブルース"の遺物を手中に収めた。
ああ、ああ。なんということだ!
焦がれ諦めていたブルースの一部が、何の因果かぼくに廻ってきた!
これは、この婚姻の指輪だけは手に入らないだろうと諦め、なかったものとして記憶から消し去っていたのに!
ああ、ああ、奇跡だ。こんなに嬉しいことだ!
「クラーク、それは?」
「ふふ。これはね……」
そう口にして、はたと思いつく。
「ねえ、ブルース。きみの故郷では婚姻の指輪はどこにつけるの?」
「婚姻? 左手の薬指だが…」
「ふーん?」
ブルースの両手はどこにも指輪などはまっていない。
はまっていたとしても関係ないけれど。
「つけてくれる?」
「は?」
「これ。この指輪ね? かつての…そう、かつて存在した優しい優しい神さまが特別に誂えた、身に付けた人を護る指輪なんだ。だから、ぼくのだいすきなきみからぼくに、……贈ってほしいんだ」
ね、と促せば、ぼくのことをだいすきなブルースは、少しだけ赤くした耳先はそのままに、仕方ないな、と指輪差し出すぼくの指先に手を伸ばす。
婚姻の指輪。その昔、虐げられるニンゲンを想って作られた、ブルースの優しさがつまった指輪。ぼくもほしいとねだったけれど、ぼくのために誂えられた指輪に込められたモノは違うモノだった。それは当然で。だってブルースもぼくを愛してくれていた。憐れみなんかじゃない、ブルースの心臓が詰まった指輪。勿論それはそれは嬉しかったし、大切に大切に肌身は出さず持ってる。でも欲張りなぼくは、ブルースの生み出すすべてが欲しかった。
望めばなんでも手に入るぼくだけど、この指輪だけは終ぞ手にできなかった。
それが今、持ち主であるブルースのもとに戻り、ぼくへ贈られようとしている。
「いいのか?」
「うん?」
「左手の薬指で」
「うん。左手の薬指がいい」
溜め息を一つ。照れを隠すような仕草は昔から変わらなくて、つい目を細めてしまう。
愛しい愛しいだいすきなブルース。
ほんとうは生まれ落ちた瞬間からきみを拐って閉じ込めてしまいたかった。ぼくを、ぼくたちを思い出すまで真綿にくるんでずっと愛を囁きたかった。
あのあと。肉塊のままゆりかごの中で共に過ごすことだってできた。口に含んで永劫を共に歩むことも。
でも、でも。ぼくは見たかったんだ。
きみが望む夢を。きみが願う世界を。ニンゲンを愛するきみを理解はできなかったけど、できるだけ近くにいたかったんだ。きみの成すこと思うことをすべからくぼくも感じて、そうして微笑んですべてを包み愛し赦したかった。
かつてのきみが、そうしてくれたように。
ブルースの綺麗な指先が、ぼくの左手をとる。
左利きのブルースだからか、左手に指輪を、ニンゲンの赤い血が通う温かな右手がぼくの左手の甲に触れる。
滑らかなブルースの右手が戸惑うよう、ぼくの左手薬指を撫でた。早く、と急かすように下から重ねられた手を握れば、少しだけブルースの手が震えた。
ゆっくりとぼくの左手薬指に収まる、ブルースの慈愛が籠もった指輪。
銀色をした、デザインなんて何もないシンプルなソレ。
畜生に誂えられたはずの指輪は、不思議とぼくの指を締め付けることなく関節を過ぎていく。
それはそうだ。ブルースはあの畜生のために贈ったのではない。畜生から続く穢れた血族を護るために贈ったのだ。
代替わりを迎えても、加護が続くようにと。
銀色の輪っかが指の付け根に突き当り、ふ、とブルースが身体から力を抜くのが見てとれた。それがどうにもかわいくて、気付いたら抱き締めていた。
だって仕方ないじゃないか。ブルースがこんなときもかわいい。
「お、おい。クラーク」
「ふふふ。ごめんね。嬉しくってつい。そうだ、今度工房でブルースに指輪を作るね。強化結晶いっぱいの」
「不要だ。ずるはやめろといっただろ」
「えー? ずるじゃないよ。ちゃんとぼくがマラソンした」
「お前の存在がチートだからだ」
「えー!?」
ブルースを抱き締めたまま、左手に迎えた指輪を翳し見る。
指輪から微かに香る、"ブルース"の残滓とぬくもり。
いなくなってなお効力があるのは、それだけ強い願いが籠もっているからか。
懐かしく愛しい日々を思い出させる残り香に誘われるよう、対たる原初の上位者の一人であり、今はクラークと名乗るカル=エルは、鈍く光る銀色へと唇を寄せた。
end.
#7 通り雨
足についた過去の懺悔を洗い、
次にこうべから水をかぶり一旦頭を冷やし、
そしてそのまま芯の後悔を流そう
そうすれば虹が迎えてくれる
2023/9/28
通り雨
さっきまであんなに晴れていたのに、急にどんよりと暗くなった。
そして、ぽつりぽつりと雨が降り始める。
嫌な感じの雨ではなく、どこか温かみのある雨。
空に目線を移すと遠くの方で青空が見えている。
もうしばらくしたら、雨が止むであろう。そう思っていると、雨足が段々遠のいていく。
何事もなかったかのように、また空が明るくなった。正しくその名の通り、通り雨。
ついでと言ってもなんだが、うっすらと虹が出ていた――
通り雨
たまに出会うくらい
今年はまだ出会ってないはず
出会ったら雨宿りしつつ
どうするかをしばらく考えて諦めて歩く
帰ったらシャワーだなってね
行きだと困るけど
行きだから仕方ないんだよね
行かない訳にも行かないし
最悪帰りにコンビニで傘を買う
通り雨って何故か毎回強い雨
雨ではないけど
通り霰に一回出会ったことがある
バイトの行きでしかも自転車
あれは困ったよ
遅刻でいいやってしばらく待ってた
割とすぐに止んだから遅刻はしなかった
出会ってしまったらどうしようもない
これが嫌な人間なら手段はある
でも空からは逃げられない
運が良いと
空に虹が出たりするから
ちょっとくらいなら悪くはない
雨に悪気はないんだから
人間よりはまだいいんじゃないかと思う
あ、通り雨だ。
でもすぐ止むから残念だ。あなたが私の傘に入ってくれるの、あっという間に終わっちゃうんだもの。
「通り雨」
通り雨
いきなり降ってきて、傘を買ったところで止むような雨。やんなっちゃうよね。
でも大気中の水分が雨になるのだから、いきなりだと感じているのは私たちだけなのかもしれない。
空気が湿ってきて、蒸し暑く感じて、手がべたべたしてくる。
むわりとした重い空気に、匂いがこもってくる。
それが通り雨の合図なのかもしれない。
僕の彼女は雨が降るといなくなる。
――ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
彼女との帰り道、通り雨が降ってきた。
僕は折りたたみ傘を取り出してワンプッシュで
開いた。彼女のグレーの傘は骨を一本づつ伸ばす
タイプのようで、少し手間取っている。
彼女の髪や肩を雨が濡らす。
夏のセーラー服が素肌に張り付いて
彼女の存在を浮き出す。僕は濡れる彼女に傘を
差し出すけれど、彼女は断った。
彼女は付き合った頃から、僕を近寄らせない。
彼女が傘を開き終わって、僕は前を向いた。
会話は無く、僕たちは慣れた道を黙って歩く。
ふと靴の音が
一つになった。
傘に落ちた雨粒の音も
半分になった。
隣に弾む傘が
見えなくなった。
彼女が消えた。
僕はどうしたことかと思って横を向くと、
薄い雨の膜からぼんやりと彼女の輪郭が現れた。
彼女は居た。消えたというのは僕の勘違いだった。
でも視線を外すと
雨音にかき消され
隣の存在は消える。
彼女は雨に溶けて
なくなるみたいだ。
僕は不安になって
何度も彼女を見てしまう。
足元に水溜まりがあることに気づき、そしてその
水面にもう波紋が生まれないことに気付いた。
雨は止んだ。彼女はそれに気づいていて傘の骨を
折り始める。一本一本雨の余韻を折るたびに、
彼女はこの世界に滲み出てくる。僕は自分の傘も
差したままで世界に現れた蝶を見ていた。
やがて蝶はすべての骨を折って完全に存在を
取り戻した。彼女は笑いながら
「さっきからこっち見てない?もしかして今日の
私美しすぎる?」
と冗談めかして言った。
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通り雨
「雨が降ると消える彼女」
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雨が降ってきた。最悪だ。小さい頃から変えていない
折りたたみ傘を取り出す。灰色の傘は、まるで今の
心模様のよう。
彼の傘はボタンを押すと、一気に開く仕組みで
楽そう。少し羨ましい。私の傘はきっと、高校を
卒業するまではこのままだから。
彼が私に傘を差しかけてくれようとする。
私は断る。
私は、人ひとり分以内に近寄られるのが
気持ち悪いと感じるし、喋るのも好きじゃない。
その理由は、中学生のときの、世界からずれたような
感覚に帰結する。普通からはみ出してしまったと感じ、
まともに喋ることもできなかった時期。
高校に入ってからは、思春期も穏やかになり、他人と
話すことにそこまで抵抗を感じなくなった。
だけど、今でも人は少し苦手だ。
そんな私に、彼は好きだと言ってくれた。
特に下心もなさそうな、クラスでも優しいと評判の
男の子。なぜ私なのか、疑問は尽きなかったけど
こんな私を好きでいてくれる、彼の心を傷付けたくなく
ていい返事をした。私を肯定する彼を思って、
できるだけ良い彼女であろうと思うけど。
雨の日は、重たい雲や冷たい雨に、本当の私が
引きずり出される。自分がこの世で一番嫌いで、
消えたいと思う私。彼に1ミリの愛も返せない、
無様な私。雨音に紛れ湿気の中で蒸発してしまいたい
と思っている。
そういえば高校でできた友達と帰っているとき、
「今居る?」
と聞かれたことがあった。彼女は私がいなくなったと
思ったみたいだった。雨の日、私は消えたいと
思っていて、実際に消えたのかもしれない。
多分、いつもみんなが見ている私は消えて、
空っぽの本当の私が出てきたんだろう。彼女は本当の
私は見えなくて、消えたと思ったんだろう。
彼も今は雨の向こうに私を見つけることはできないだろ
う。でもいつか、この優しい人が私を見つけることが
できるように。
晴れたみたい。
傘をしまって。
まずは話すことから、始めてみよう。
「さっきからこっち見てない?もしかして今日の
私美しすぎる?」
笑って言った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「雨が降ると消えたい私」
暗い心をまるごと
サーっと覆い
潤わせ包み労わり癒せよ
通り雨のように
地を濡らし
爽やかな風をもたらせ
#通り雨
通り雨
突然の雨に降られて
僕たちは近くの軒先に駆け込んだ
薄暗く空を覆う雲は流れていく
「まだしばらく止みそうにないね」
濡れた髪を束ねて見えた
うなじにドキッとして目を逸らす
ドキドキする心臓の音がうるさい
「あっ!虹!」
君の声に視線をあげると
薄い灰色の空に大きな虹がかかってるのが見えた
「きれいだね!」
そう言う君の横顔の方がきれいだった
悪くないな
通り雨も…
『通り雨』2023.09.27
「あっ、降ってきた!」
稚内から札幌を自転車で目指す途中。滝川市に差し掛かった時だった。
顔に当たる雨が多くなってきたので、僕たちは近くのコンビニで休憩をすることにした。
雨脚はだんだんと強くなり、この雨の中を進むのはなかなかに厳しいものがある。
イートインコーナーでコーヒーを飲みながら、地図を確認する。
「ここからどうします。もうちょい進みますか」
「そうですなぁ。お二方、体力はどうですか?」
「まだ大丈夫ですけど、ちょっと膝が痛いです」
「それじゃあ、今日はちょっと早いけどここで休みますか?」
ああでもないこうでもないと、男四人が頭をひねる。
しかし、残りの日数も限られている。ある程度は無理をして先に進まないといけない。
地図から目を離し、外を見る。相変わらず雨は降っている。
時間を確認すると、十五時を少し過ぎたところだった。
「じゃあ、あと一時間して雨がマシにならなかったら、ここで今日はおしまいにするってどうですか?」
僕がそう提案すると、他の三人は顔を見合わせて同じように外を見た。西の空が少し明るくなっているような気がする。
「それでいきましょう」
この旅の全決定権を持つ社長が頷く。サポートメンバーの二人も異論はないようだ。
話はまとまったので、僕たちはそれぞれ思い思いの時間を過ごすことにした。こうしてゆっくり腰を落ち着けたのも、この旅始まってから久しぶりだ。
いつもは嫌なこの雨も、この時はありがたかった。
雨きらら 喧し悲鳴タオル跳ね 駅前駆ける乙女ら モーゼ
#短歌 #書く習慣 20230927「通り雨」
学校からの帰り道
突然降ってきた雨にため息を漏らす
せっかく今日は1人で帰れたのに
いつも一緒にいるあの子から開放されたのに
なんで今日に限って雨が降るんだろうか
別にあの子の事が嫌いな訳じゃない
けれどずっと一緒にいるのは
しんどくて息が詰まってしまう
折りたたみ傘も忘れて
雨に打たれながら空を見てまたため息を漏らす
こうなってしまったら
嫌な事が次々と頭の中で駆け巡る
なりたい自分になれなくて
ホントのじぶんを隠したくて
隠して殺して偽ってきたのに
なんでこう上手くいかないものなのか
卑屈になってどんどん気持ちが沈んでいく
今は1人、だからこそ感情が抑えられない
ボロボロと泣きたくもないのに
涙が目からこぼれ落ちていく
急な雨、嫌いだったけど
案外悪くないかもしれない
泣いている自分を隠してくれる
痛くて優しい雨
【2023-09-27 ― 通り雨】
街角の雑踏かき消す通り雨
ペトリコールに雲間の西日
/お題「通り雨」より
かっ飛ばせ太陽の素を
雨の中ホームラン狙って
ほら、ほら、雨が上がる
かっ飛ばせ貴方の気持ちを
勇気出してバントでも良いから
暖かいボールがどこかに届くよ
ほら、ほら、雨が上がる
お気に入りの喫茶店でコーヒーを楽しんでいれば雨が降り出した。
窓の外は慌ただしげな気配に変わる。近くの店に飛び込むもの、用意していた傘をひらくもの。なかにはすっかり諦めているものもいた。
誰もが慌てる中、しめしめとメニューを手繰り寄せる。
こうなっては帰れない。なにせ傘を持ってきていないのだから。
いや、雨マークはついていた。だがあえて持ってこなかったのだ。部屋の片付けを頑張ったご褒美としてデザートを食べにきたのだから。
これは帰れない。これでは掃除の続きが出来そうにない。そう言い訳しながら店員を呼ぶ。
コーヒーのおかわりが来た。
お天気キャスターの話では一日雨だと言う。
だと言うのに、晴れ間がのぞいている。
どうやら通り雨だったようだ。
なんだと不貞腐れながらコーヒーをゆっくりと飲み干していく。
「通り雨」
ここ一週間ほど、大きめの仕事をいくつか抱えてしまい、多忙な日々が続いている
まるで通り雨のような忙しさだが、ポジティブに考えれば、時間管理・タスク管理のスキルを向上させる絶好の機会だ。
具体的なテクニックをここに書き出し、アウトプットすることで自身への定着を図りたい。
●人に依頼するものは、早めに依頼をし、先手を打っておく。
●集中力を必要とするタスクは、集中力の高い午前中のうちに猛烈に取り組む。
●簡単なメール返信や問い合わせ等、2分で終わる処理は後回しにせず、その場で迅速に処理する。
●簡単な判断に30秒以上かけず、即断即決即行動を徹底する。
落ち着いたら、引き出しの中を整理整頓し、気持ち新たに業務に励んでいきたい。
通り雨
突然の通り雨…傘も無く、一人佇む私…大好きだったはずの彼と別れ、辛くて泣いていた…そんな時、とある一人の男性が、私に手を差し伸べてくれた…「お嬢さん。どうしたんですか?大丈夫ですか?」とその男性は、私に、傘をさしてくれた。私は、その男性の優しさに救われ、溜まりに溜まった涙を沢山流しながら、その男性に話をした…すると、その男性は、「それはそれは大変でしたね。もし、良ければ、このまま、お茶でもいかがですか?」と聞かれ、私は、「はい。ありがとうございます」と男性が行く道へと付いて行った…その後、二人でお茶をしながら、閉ざしていた心が打ち解けてきた頃、男性は、私にこう告げた。「これからは、貴方の辛い事、嬉しい事も全てこの私が支えていきたい。貴方は、覚えてないかもしれないが、実は、私達は、3年前にこの場所で出会っていたんです。私は、その頃から、貴方が好きで、また会える日を心待ちにしていました。」と。突然の言葉に戸惑ったが、頭の中をフル回転させ、3年前の事を思い出すと…確かに、この場所で、3年前も、全く同じ下りをしていた…3年前も大好きだったはずの彼に突然の別れを切り出され、雨の中、傘も無く、一人泣いていた時に、一人の男性に救われた…それがまさか、この人だったとは…頭の中の解析が終わった後、告白されていた事に、我に返り、私は、返事をした。「今ようやく思い出しました。確かにあの頃も一人の男性に救われ私もまた会えないかと考えていました。まさか、その方が貴方だったとは…こうして今、運命的な再会を果たした私達は、永遠に結ばれるでしょう。なので、私と付き合って下さい!」と。すると、貴方は、「ええ。もちろんです」と答えてくれた。その日から、私達は、どんな時でも、二人寄り添い生きて来た。
そんなラブストーリーを妄想する程に、次第に近付く現実の私達の共に過ごす未来…いずれ、この妄想も、現実になる日が来るのだろうか…今でさえも愛してやまない貴方と共に過ごす生活…どんなに幸せなんだろうか…あと3日で、私達は、付き合って8ヶ月記念日を迎える…長い様であっという間だった8ヶ月…だけど、その中には、沢山の二人だけの思い出…これからも沢山二人だけの思い出作っていこーね💕︎
また通り雨だ
すぐ避けて
濡れないように準備して
予定まで変えたのに
少ししたら晴れる
いつ雨に打たれてもいいように
常に傘を持ち歩くのもいいけど
私はなんとなくその備えを嫌う
憂う数だけ私が好きな自分になっていったから
荷物も軽い方がいい
きっと若さがそうさせるのだろう
いつか憂いを嫌い
通り雨を上手にやり過ごすようになるだろう
傘を日常に備えた時
私は死ぬ
20230927【通り雨】
地下鉄の駅から地上への階段を登りきると、外はサアサアと音を立てて雨が降っている。
こんな時に限って折りたたみ傘は、家でお留守番している。
折りたたみ傘の役立たず。
こういう時の為の折りたたみでしょうが。
何、家で休んでるんだよ。
今日は非番じゃないよ、出番だよ。主役を守る助演だよ。良い役じゃん。今すぐ来いよ。
ほら、あんたという存在が輝く雨が、絶賛満員御礼雨あられって降っているんだから。
今すぐここに来いっ。
家に忘れたのは自分だというのにそんな事は綺麗に棚に上げて、鞄の中にいない折りたたみ傘に八つ当たりする。
八つ当たりすれば少しは気が楽になるかと思ったのに、全然ならない。
折りたたみ傘も悲劇よね、入れ忘れた自業自得な私に罵られて。あぁ、可哀想。可哀想よ。
でもね。
天気予報では雨の確率0%だったのよ。
わかる?ゼロよ。無いってことよ。
だから、折りたたみ傘なんて鞄に入れる訳ないでしょう?…は?日傘として持ち歩く人もいる?悪かったわね、持ち歩かない系女子で。
荷物重いの嫌いなの。箸より重いの持ちたくないお嬢様なの。
何よ?お嬢様に見えない?はぁ〜?目ぇ腐ってんじゃないのあんた!
ていうか、マジ時間ヤバいんですけど。
このままじゃ、遅刻確定しちゃうから。
行くよ、走るよ。
風邪引く?五月蝿いわね。女は気合と度胸なのよ。
誰とも知らない奴と脳内で問答という名のケンカをしつつ、私は雨の中を走り始めた。
通り雨は、大抵10〜20分程で止むことが多い。
もし、通り雨にあって時間があるのなら雨宿りをオススメする。
何事も時間とゆとりを持って…。
…この物語の女性には届かないか。
「いやー、災難だったね。服、けっこう濡れた?」
そう言って隣を見やる。傘を持ってきていて本当に良かった。
委員会が思ったより長引いてしまい、暮れかかっている日を眺めながら玄関口に向かっていると、突然雨が降り始めたのだ。目的地に到着したところで、土砂降りの外へ飛び出して行く、見知った姿が視界に触れた。
「先輩のおかげで、そんなに」
「そう」
折りたたみ傘は小さいもので、自然に2人の距離は近くなる。相手は何とも思っていないこと、理解してる。ただ一方的に自分の心臓が跳ねていることが恥ずかしく、多少の怒りさえ覚える。頭の隅にある下心だって認識できていたはずなのに、咄嗟に声をかけてしまった自分への罰だろう。
「こんな遅くまで、部活?大会近いからって大変だね」
「あー、いや、ちょっと呼び出されて」
「あー......」
聞かないほうが良かった。OKしたのかな。他人に興味を抱くことのないあなたのことだから、断ったんだろうな。
「恋人、作ろうとか思わないの。モテるじゃん」
理性が働く前に、考えていることが口に出ていた。傷つくのはわかってるから、こんな話がしたいわけじゃない、のに。沈黙がやけに脳に響くから、いつもより多弁になってしまう。
「先輩こそ、恋人いるでしょ。相合傘なんてしてちゃダメですよ、浮気者」
意外な返答に面食らう。相合傘とか、気にしてないと思ってた。
「いや、いないし。誰かさんと違ってモテないもんで」
「へー......そうですか」
質問、答えてくれないし。そうやってうだうだと思考を重ねている間に雨音は静かになり、しだいに聞こえなくなった。
「通り雨だったみたいだね」
角砂糖のような甘美な時間はもう溶けきってしまうらしい。元より家は真逆だ。一緒に帰る口実が出来たことさえ初めてだった。
そうして傘を畳もうとすると、腕を強く掴まれる。え、と間抜けな声が出る。
「何、なに」
動揺をうまく隠すことができない。この距離で見つめられると心臓に悪いからやめてほしい。考えていることがわからないのはいつもだが、今はそのポーカーフェイスが特別恨めしい。
「もうちょっと、このままでいいですか。日差し、強くなるかもだし」
「わ、わかった」
いや、わからん。圧に負けて咄嗟に頷いてしまった。日差しがなんだって?
ふと、掴まれた手から湿り気を感じる。もしかして。
「虹、出てますよ」
「......うん」