青と紫

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僕の彼女は雨が降るといなくなる。

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彼女との帰り道、通り雨が降ってきた。

僕は折りたたみ傘を取り出してワンプッシュで

開いた。彼女のグレーの傘は骨を一本づつ伸ばす

タイプのようで、少し手間取っている。

彼女の髪や肩を雨が濡らす。

夏のセーラー服が素肌に張り付いて

彼女の存在を浮き出す。僕は濡れる彼女に傘を

差し出すけれど、彼女は断った。

彼女は付き合った頃から、僕を近寄らせない。

彼女が傘を開き終わって、僕は前を向いた。

会話は無く、僕たちは慣れた道を黙って歩く。

ふと靴の音が

一つになった。

傘に落ちた雨粒の音も

半分になった。

隣に弾む傘が

見えなくなった。

彼女が消えた。

僕はどうしたことかと思って横を向くと、

薄い雨の膜からぼんやりと彼女の輪郭が現れた。

彼女は居た。消えたというのは僕の勘違いだった。

でも視線を外すと

雨音にかき消され

隣の存在は消える。

彼女は雨に溶けて

なくなるみたいだ。

僕は不安になって

何度も彼女を見てしまう。

足元に水溜まりがあることに気づき、そしてその

水面にもう波紋が生まれないことに気付いた。

雨は止んだ。彼女はそれに気づいていて傘の骨を

折り始める。一本一本雨の余韻を折るたびに、

彼女はこの世界に滲み出てくる。僕は自分の傘も

差したままで世界に現れた蝶を見ていた。

やがて蝶はすべての骨を折って完全に存在を

取り戻した。彼女は笑いながら

「さっきからこっち見てない?もしかして今日の
 私美しすぎる?」

と冗談めかして言った。
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通り雨

「雨が降ると消える彼女」


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雨が降ってきた。最悪だ。小さい頃から変えていない   

折りたたみ傘を取り出す。灰色の傘は、まるで今の

心模様のよう。

彼の傘はボタンを押すと、一気に開く仕組みで

楽そう。少し羨ましい。私の傘はきっと、高校を

卒業するまではこのままだから。

彼が私に傘を差しかけてくれようとする。

私は断る。

私は、人ひとり分以内に近寄られるのが

気持ち悪いと感じるし、喋るのも好きじゃない。

その理由は、中学生のときの、世界からずれたような

感覚に帰結する。普通からはみ出してしまったと感じ、

まともに喋ることもできなかった時期。

高校に入ってからは、思春期も穏やかになり、他人と

話すことにそこまで抵抗を感じなくなった。

だけど、今でも人は少し苦手だ。

そんな私に、彼は好きだと言ってくれた。

特に下心もなさそうな、クラスでも優しいと評判の

男の子。なぜ私なのか、疑問は尽きなかったけど

こんな私を好きでいてくれる、彼の心を傷付けたくなく

ていい返事をした。私を肯定する彼を思って、

できるだけ良い彼女であろうと思うけど。

雨の日は、重たい雲や冷たい雨に、本当の私が

引きずり出される。自分がこの世で一番嫌いで、

消えたいと思う私。彼に1ミリの愛も返せない、

無様な私。雨音に紛れ湿気の中で蒸発してしまいたい

と思っている。

そういえば高校でできた友達と帰っているとき、

「今居る?」

と聞かれたことがあった。彼女は私がいなくなったと

思ったみたいだった。雨の日、私は消えたいと

思っていて、実際に消えたのかもしれない。

多分、いつもみんなが見ている私は消えて、

空っぽの本当の私が出てきたんだろう。彼女は本当の

私は見えなくて、消えたと思ったんだろう。

彼も今は雨の向こうに私を見つけることはできないだろ

う。でもいつか、この優しい人が私を見つけることが

できるように。

晴れたみたい。

傘をしまって。

まずは話すことから、始めてみよう。

「さっきからこっち見てない?もしかして今日の
 私美しすぎる?」

笑って言った。

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「雨が降ると消えたい私」


9/27/2023, 12:21:41 PM