『貝殻』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
貝殻
どこへ行くかも分からずに、制服を着たまま最寄り駅を過ぎて約30分。
友達は何をするのだろうか。そんな疑問をふと感じながら、窓の外をすっと眺めた。
ガタン、ゴトンと電車に揺られながら、私はふと隣にいる友達の顔を見た。
きっかけは、この子に相談をしたことからだった。
あの日も、今日みたいにうだるような暑さだった。
昔から私はネガティブで、いつもクラスでは1人だった。唯一友達と呼べるのは、中学校の頃から仲良くしている子だった。
人間関係がそんなにうまくいかない。たったそれだけの事だけど、毎日そんなのだから。
苦しくて、首を絞められているようだ。
――いっその事、本当に首を絞めてしまおうか。
日に日に増えていく手首の傷も、その子に見せて、もう終わりにしようと思った。
が、その子は、なにか言いたそうに眉をぐっと潜めて「どっか遠くに行こう」とだけ言われた。
そして、今に至る。
やがて、終点のアナウンスが流れる。電車がキーッと音を立て、体が反対方向に重たくなる。
扉が開くと、友達が「行こう」と私に目線を促した。
私も、頷いて、ゆっくり立ち上がって外へ出た。
小さな木造の駅を抜けると、独特の潮の匂いがしてくる。
確か、この町は海水浴で有名な所だ。
「ねえ」
「ん?」
私は先を歩く友達に声をかけた。
「どこ行くの?」
「海だよ」
それだけ言うと友達は、こちらに向けていた視線を前へもどし、歩くのを始めた。
やがて、小石が沢山ある地面へ変わり、ずっと前を向くと、大きな水平線が広がっていた。
夕陽が沈んでいくのが海にうつるのが、とても綺麗で。私はしばらく目を離せなかった。
しかし、友達は先へ先へと歩いていく。
私は、小石に足がもつれそうになるのを抑えて、後へついて行った。
砂浜にたどり着く。友達はすっとしゃがみ始めた。
何をしているのだろう。と見ていると。
指先で小さなものを拾い上げた。
「見て、貝」
友達はしゃがんだまま、笑って私に貝を見せた。
子供みたいだな、と思って私もつられて笑う。
やがて、友達はその貝を手に取り、他の場所も探し始めた。
「貝殻ってさ、」
「うん」
「もう、死んじゃってるんだよね」
突然何を言い出すか、友達は拾いながらそう呟く。
「そうだね」
「うん。でも、こんなに綺麗」
友達は、小さな貝一つ一つを私に見せてきた。
それは、白や黒、ペールオレンジなどの色があったが、お世辞にも綺麗とは言えなかった。
いえなかった、のに。
子供の頃、これってすごく綺麗に見えた。海に来た時は、必ず沢山持って帰って、家の前に飾っていた。
そんな事を、ふと思い出した。
「死んじゃっているのに、こんなに綺麗なんだよ」
「そうだね」
私は、懐かしいあの想いが胸の中を駆け巡り、どく、どくと心臓が脈打つのをより感じた。
この貝も、あの思い出と結び付いていると考えると、顔が綻ぶ気がした。
「私ね、貝殻好きなんだ。」
「そうなんだ」
「もう動かないのに、こんなに綺麗に海に散らばっているなんて」
私もしゃがんで貝を探し始める。この辺は、小さいのしかないか。目を凝らしよく探す。
「だから、私も貝殻みたいな人生を送りたい」
え、と私は友達の方を見る。
友達は、気にせず貝を探し続ける。
「死んだ時、『綺麗』って思われたい。そんな人生を送りたいな」
私は、海を見た。
この水平線の向こうには、大きな世界が広がっている。
私達なんて、ちっぽけな存在。
今ここで死んでも、誰もが通り過ぎてしまうだろう。
でも、
この世界のどこかで、死んだ時、「綺麗」と言われるのなら。
「……もう少し、貝探す」
「うん」
今は、まだ死ぬ時じゃない。
私は、もう一度砂浜に目線を移して、小さな貝を拾い集めた。
さっき見た時より、手のひらに乗った、水が少し混じった貝たちは、生き生きとして、綺麗に見えた。
貝殻
仕事が休みの日が友達と合う日は決まって、みんな集まりバーベキューをするそれが俺たちのルールだ。
今日はいつも肉ばかりだと飽きるからと言って海鮮物を堪能したが、これがうまい。
4人で食うには多いと思っていた魚も貝も、スーパーで買い集めたものではあるが炭で焼くとどれも格別で、あっという間に無くなってしまった。
酒も入り腹も膨れたころ、常に意見が対立する佐藤と田中が楽しそうに談笑をしているのを見て、ふとしたいたずら心が俺の胸を満たし始める。
「なぁ、貝殻ってさ燃えるゴミ?燃えないゴミ?」
先程まで談笑していた二人もそれを眺めていた佐々木も一様に悩み出す。
そして俺の思惑通り意見が割れた。
佐藤は燃えるゴミで田中は燃えないゴミと主張し出し、案の定揉め出した。愉快である。
そして俺と佐々木はどちらでも良い。と言う意見に収まった。ぶっちゃけどうでも良いことだし。
だが、実は俺は俺だけは答えを知っている。
自分たちの住むこの自治体では貝殻は燃えるゴミとして出す事になっている事を。
それを知った上で2人を煽って意見を対立させる事が俺にとって最高のデザートになるのだ。そうこう考えているうちにも貝殻ゴミで揉めてる2人の心は加熱されていっているようだ。
「佐藤、お前はいっつもそうだなそもそも貝なんて燃える訳ないんだから燃やせないゴミだろ?」
まぁそうだな田中お前は間違っているけどその通りだ、貝殻なんて燃えそうにもない。
「田中ぁお前は固いなぁもっと柔らかく生きようや魚の骨は生ゴミだこれだって燃えないと思うぜ?でも燃えるゴミだ。だったら貝殻も燃えるゴミで良いんじゃないか?そうだろ!」
市役所の人間もそう思って燃えるゴミにしたんだろうなぁ。
「俺は魚の骨も全部洗って燃えないゴミに出してるぞ!生ゴミだって分別するべきだろ!」
きっちりかっちり分別するのは良いことだがやりすぎじゃないかな?田中よ。
「潔癖すぎないか?おまえん家ぃそれになんだ!バーベキューするって言うのに白い服なんて着てきやがって、汚れが目立つようなの着てくるなよな!」
田中は綺麗好きな上に上品だからなぁ。お前みたいにダラダラこぼして食べるような事はしないぞ。
論点ずれてるし。
「家は関係ないし服もこの際関係無いだろ!お前こそ俺のとなりでボロボロこぼしたりして正直言って不愉快だったぞ!汚したらどう弁償させようか考えていたところだったがな!」
関係ないっていって蒸し返すのはどうなんだろうなぁ。
その高そうな服を弁償する金は佐藤にはないよ金遣い荒いし。あー楽し。
「このヤロウあったま来たぜ。」
「こっちは最初から頭に来てるが言わなかっただけだ。」
そして互いに今にも掴みかかりそうな勢いになったいく。
うひひひひ。キタキタこっから腹ごなしの乱闘だぁ。俺は田中が勝つ方に1000賭けるねひひひ。
そして俺はゆるりと、黙り込んでいた佐々木を見た。もちろん楽しみを共有するためだ。ヤツも同種の人間だからどちらかに「賭け」たに違いないのだ!だが、いない。
しまった!ヤツめまた手を差し込む気だな!そうはさせまいと動くが遅かった。
2人とも待った!と声が響く。もちろん佐々木だ。
佐々木は息を切らせながら右手に持ったビニール袋からケーキを取り出す。
やられた!この下らない事で暴れる2匹の猛獣達は大の甘党であり、ことケーキに関しては愛すら抱いてるであろう。さらに食後である!
それは鎮静剤の如く良く効き猛獣達は先程までの勢いは消え去り、笑顔を携えてケーキを食べる。
完全に俺の賭けはおじゃんだたまったもんじゃない。
「2人ともこれを見てくれ。」
佐々木の手にはこの街の燃えるゴミ袋がある。
「この袋には生ゴミのイラストがあるが、そこに貝殻が描かれている。つまり、貝殻は燃えるゴミだ!」
おぉー。すっかり苛立ちが消え去った2匹の飼い犬達は特に興味も無さそうにケーキを食っている。
くそ、やられた。
ヤツは俺と一緒にゲームをするプレイヤーだと思っていたが、まさかこのような愚行に出るとは。
まさに法の番人を気取ったクソヤロウと言えなくもない。
おれは気分が一気に白けていった。
そうしていると佐々木が歩み寄ってきた。
「よっ!大変だったな!」
ふん貴様がいなければもっと楽しかったんだがな!
少しふてくされながらも、俺はまぁな。と答える。
その顔が面白かったのかは分からないが、佐々木はニヤリと話し出した。
「どうやら賭けは俺の勝ちのようだからこのレシートは置いていくぜ?」
くそっ!ハメられた!
ヤツは初めから俺がゲームを持ちかける事に賭けていやがったんだ!
俺は2人のケンカが始まった瞬間からどちらに賭けをするか悩んでいたが、その間に水を差してケンカを終わらせれば佐々木の勝ちと言う事か!
もし、佐々木が帰ってくる前にどちらかが決着を着けていれば俺は佐々木に勝てたというのに。
だが決着など一瞬で着くものであるし、佐々木にとってはかなり分が悪い賭けのはずだ。
そうか、やはりそうだったのか!ヤツは法の番人でも気取り屋でもましてや、クソヤロウでもない。
生粋のプレイヤーだったのだ!
そして俺は手元のレシートをみる。
税込2000円丁度。
俺の賭け額まで読み、分が悪い戦いでも倍付けで回収する手際の良さ。完敗だ。
俺は敗者として佐々木が持ってきた燃えるゴミ袋に貝殻を詰め込みながらニヤリと笑う。
さて、次は何を賭けようか?
面白い相手に俺は胸がどこまでも踊った。
思い描いてたすべてが思い通りじゃなくても
良い思い出だった
って今なら言えるよ
呆れたり嫌いになったり好きになったり
全部薄まって行く 夏 残りのサイダー
勇気を出しても 殻を破っても
振り向かないこともあるし
さらっと忘れられるほど簡単なことじゃないけど
前の自分より少しだけ
成長できた気がするから
ありがとう
貝が死んだ。
2つの貝殻ができた。
2つの貝殻は別れた。
離れ離れになった。
会うことなんて無い、できない。
だって海にはこんなにも貝殻があるから。
同じ種類の貝殻が沢山あるから。
そうして片方の貝殻は傷が増えていった。
汚れて、欠けて、最後に潰れた。
彼は死ぬ前に私に言った。
『こっちに来るのは遅い方がいい。』と。
『向こうで会えたら、いいね。』とも言った。
会えるわけないのに。
貝殻みたいに死んだら、別れて、離れ離れになる。
会える可能性なんて無い。
確証だってないのに。
それでも私は、君を探すだろう。
だって今、君のいない世界の価値が、意味が、
分からない自分が居るのだから。
お題 〚貝殻〛
[※hrak二次創作/成代?/twst×hrak]
『ねぇねぇ、ホホジロザメせんぱぁい』
背後から伸し掛かってきたデカい図体の後輩は、相変わらず何の基準で付けたか分からない渾名で俺を呼んだ。聞く人が聞けば恐怖に震えるだろう猫撫で声で、何でかは知らないが腕を前に回してこちらに抱き付く他寮の人魚は、これまた猫の真似事でもするように頭を僅かに擦り付けてくる。頭撫でろってか。視線は手元の端末に向けながら反対の手でターコイズ色のサラサラとした髪を梳いてやると、背中に張り付いている後輩は満足そうな声を出した。
『毎回思うけど何でホホジロザメ?』
『んーと……小エビちゃんが『サメも臆病な性格だ』って言ってたんだよね。オレらからしたら天敵って印象しか無いから結構びっくりしたんだけど、イグニハイド寮生のセンパイもそういうところあるじゃん。だからホホジロザメ』
『……分かるような、分からないような』
『あとねぇ』
『まだあんの?』
『ホホジロザメセンパイって、いっつもオレらの考えてること大体察してるでしょ? ──サメってさ、第六感があるんだって』
────ほら、センパイにぴったりじゃん。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
──何で今、思い出すかな。
目の前にあるのは沢山の貝殻で作られた風鈴。夏休みの自由研究で、クラスの"誰か"が作った"拙い作品"だった。……いや、『拙い』は言い過ぎか。エレメンタリースクール──小学生の作る作品にしては、かなり出来が良くて手の込んだ代物ではあるのだし。我ながら何様だとは思うが、なまじ『前の人生』でいろんな意味でレベルが高い連中と連んでいたせいもあってどうも自然と求める基準が高くなりやすい。良くないことだな。
ふぅ、と息を吐いて作者を確認した。『誰か』なんて惚けてみたけれど、本当は誰の作品かなんて分かっている。
名前の欄には、まだ慣れていない筆跡で『爆豪勝己』と書かれていた。
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あっちはどう思っているか知らないが、俺達は世間一般で言う所謂『幼馴染』というやつで、アイツは『個性』も派手で何でもできる『才能マン』というやつだ。その代わり口も悪ければ性格も残念……というか、みみっちい。別に悪いヤツではないしヒーローに憧れるような可愛げはあるけれど。ただまぁ誰にだって生理的に受け付けない人間ってのは居るもので、カツキ──『爆豪勝己』──は同じく幼馴染の『緑谷出久』に対してはかなり暴力的だった。お前らチビのときは一緒に遊ぶくらい仲が良かったのにな、何でだろうな。まぁ斯く言う俺も緑谷のことは苦手だけど。『良い子』ではあるんだろうけれど、一挙一動から漂う『RSA』臭が、もう、なんか…………俺には無理だった。閑話休題。
何が言いたいって、"多少"思春期とか反抗期のアレソレで暴力的ではあるものの親から一心に愛情を注がれて育ったそんなヤツが、漫画の一話で出番が終わるモブキャラみたいな俺と何で10年も連んでいるんだって話で。
……何を考えているんだろうな、本当に。
同じような声で、同じような獰猛さで、同じようにときどき甘えを見せてくるカツキは、容姿は全く似ていない癖にどこかあのウツボの人魚を思い起こさせた。
あぁでも、超が付くほどの気分屋な後輩と違って、カツキは割と静かな方かもしれない。付き合いが長いからかは知らないが、俺やもう一人に対してはそんなに声を荒げたり威嚇したりはしなかった。
緑谷に関しては論外です、関係修復は自分でガンバレ。イカれてる自覚も無ければ、幼馴染を色眼鏡で見続けている今のお前には無理だろうけど。
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「"ケイ"、お前ピアス開けたんか」
「ん? ──あぁ、うん。でも開けてから学校で付けれねぇってこと思い出したわ」
「ハッ、バカかよ」
「ホントそれな」
何となく、本当に何となくで開けた。多分後輩が付けていたものとよく似たピアスを露店で見たからかもしれない。ターコイズブルーでコーティングされた、鱗型に加工されている貝殻と銀の金具の三連ピアス。ここまで来ると呪いみたいだな、あのクソ論外。どうしてくれる。
「……そのデザイン似合わねぇな」
「あー、やっぱり? たまたま目に付いて衝動買いしたけどコレジャナイ感が凄くてさ」
「んなジャラジャラしたもんよりシンプルな方がテメェに合ってるわ」
「あら、お前意外と俺のこと見てんのね」
「やるなっつっても平気で未成年喫煙する癖にツラだけは無駄に良いからな」
「ゔ、っ、うーん…………ソウ、ネ。煙草に関してはごもっとも」
本人は貶してるつもりなんだか何なんだかよく分からないが、カツキから見ても俺の顔は比較的整っている方だと認識していることは分かった。突然ぶち込まれたせいで変な返しをしてしまうくらいには驚いたが。お前それどういう感情で言ってんだ、聞きようによっては『ツラが良いから見てる』ってことになるぞ。言ったら高確率で喚き出すから黙っているけど。耳元でしゃらしゃらと鳴るピアスを外して制服のポケットに突っ込む。指先にライターが当たったが、素知らぬふりをした。
「おい、行くぞ」
「あ? どこに?」
「テメェのセンスじゃ、また似たようなの買いかねねぇだろ」
「あはは……仰る通りで」
【貝殻】
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
リハビリ品。(訳:タイムアップ&着地点見失いました)
成り代わったのは巷で『刈り上げくん』って呼ばれてるあのモブです←
【貝殻】
みんなの貝殻の中には中身が入っているのに
どうして君には何も入っていないの?
みんな殻からでてくるときもあれば
隠れて殻だけしか見えないようにするのに
どうして君は一度も出てこないの?
私は空っぽだから
夢も目標も何もないし
本当の自分さえ分からなくなっている
だから見せるも何もないでしょ
そっかじゃあ君の貝殻割ってもいい?
君の貝殻の内側には何があったのか全部見つけてあげるから
いつか君の心からの笑顔が見てみたいな・・・
幼い頃に偶然見つけた桜貝。淡いピンクのグラデーションがとても綺麗で、それはわたしの宝物だった。
夏の陽射しに照らされながらも、春の陽気みたいに柔らかなきらめきを持つ貝殻は、もうわたしの手元にはない。遠くに行く友人に渡したそれが、今どうなっているのかも知りようがない。
けれど、もしかしたらまた巡り会えるのではないかと。わたしは何となく、信じている。
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きらめき / 貝殻
24「貝殻」
貝殻をひろう。
片方だけの貝殻。
私も今、この貝殻。
「なー知ってる?」
「知らない」
「まあそう言わず。チョークって、本来棄てられるホタテの貝殻を砕いたものと、炭酸カルシウムっていうのを混ぜて作るらしいよ」
「ふ~ん」
「つまり、今ものすごい量のチョークの粉を吸った私は海の幸を取り込んだことになると思うのだけれど、どう思う?」
「やっぱり君の頭って面白いくらい沸騰してるなあって思う」
▶貝殻 #6
8月26日
瞬く
きらめき
遠のく
呼吸
めぐる
季節の
うつくしきこと
#きらめき
『貝殻』
小さな貝殻、シーグラス、まあるい小石。
自分が濡れないように、打ち寄せた波で拾った宝物を洗う君。
「ね、見て!カニがいるよ!」
君は楽しそうな声とともに瞳を輝かせてこちらを見る。
「お!どこどこ?」
彼女の元へ向かいながら思い出す。
こんなことあったな。
無意識に別の人を重ねてしまった。
僕はまだ忘れられていない。
叶わなかった、「また来ような」の約束を。
Theme:貝殻
子供の頃、「巻貝の貝殻に耳を当てると海の音がする」と聞いて試してみた。
確かに波の音がしたことをよく覚えている。
この貝殻の持ち主が故郷の海の記憶をしまっているのかなぁ…なんて思っていたけれど、実はちゃんとした仕組みがあるそうだ。
私たちの周りには常に何かしらの「音」がある。
図書館や自室などどんなに静かな空間にも、機械の駆動音や外を走る車の音、風の音など様々な音が存在している。
それらの音の高低が貝殻の中で共鳴し、耳に届く大きな音となって帰ってくる。
その音は周囲の環境と貝殻が造り出した音であり、それが「海の音」に聞こえるのはいわば思い込みなのだそうだ。
種明かしを見てしまうと「なーんだ」と少しガッカリするが、今の私には別の疑問が沸き上がる。
「じゃあもしも『海』を知る前のずっと幼い私が貝殻を耳に当てたら、何の音に聞こえるんだろう?」
風の音?ただの雑音?あるいは産まれる前に聞いていた音かもしれない。
分かりようもないのだけれど、だからこそワクワクしてしまう。
貝殻を身につけていた。
一歩、
また一歩と歩くたび、
貝殻が鳴る。
自分は今、ここにいるのだと
お題 貝殻
海が聞こえる
ザバァーン ザバァーン ザバァーン ザバァーン
私の心は波のよう
貴方への想いは絶えず押し寄せて引く
貝殻はその名残
砂浜に刻まれるわたしの思い
#124 砂になるまでリフレイン
浜辺の波が奏でる唄は
流れ着いた貝殻の
秘めた記憶の
遠い遠いどこかの唄
長旅の末、欠けてしまった貝殻の
欠けた唄の不完全なメロディーを
波は構わずにリフレインします
繰り返す波に洗われて
貝殻が砂となり
唄が消えてしまうまで__
お題「貝殻」
波音と砂音 それは静かなデュエット
小さい歩幅のその先に 巻き貝が1つ
白と茶が混じるその色は
色褪せた思い出を 思い出しそうで
理由なく溜まる雫
その味は塩っぽかった
それを耳にかざして 目を閉じた
バキンッと音がしてようやく足下に目をやった。
粉々に砕けた貝殻が床に散らばっていた。正確な数は分からないけど、両手では掬いきれないほどたくさんある。
ぼんやりとそれらを眺めていたらまた金切り声が部屋の中に響き出した。無遠慮に踏み込んできてより一層声を荒らげ、ガクガクと私の肩を揺さぶる。
黙ったままその人の目をみていたら頬を叩かれた。痛そうな音がするな、と考えていたら今度は反対側を叩かれる。抗議の意を込めてその目をみれば、大粒の涙を零しながらギャンギャンと騒ぎ立てるだけでとても話しなどできそうにない。
―疲れた
その一言さえ発することを許されていないのだ。
偉そうに胸を張って他人を見下すその人こそ、私の生殺与奪の権利を有しているのに情けない。ただ邪魔だから消えろと言えばいいだけなのにそれすらしない。
ひたすら己の自尊心を高めるためだけの行動を繰り返す様は滑稽で、毎日笑いをこらえるのに苦労している。
足下に散らばる貝殻のように踏み潰せたら、なんて。
私もまた狂ってしまったようだ。はやく処分してもらえないかな。
口の中いっぱいに広がる血の味を飲み込んで、その人のヒステリックが終わるのを待つ。これが私の仕事なんだ。
【題:貝殻】
例えば大きな貝殻が、海に流されて砕けてしまえばそれを貝殻と呼ぶことは出来るのだろうか。
きっと全てのかけらが集まって、元の形と同じ重さになったとしても元に戻すことは出来ない。
そしたら、君がこうして小さくなって私が抱えられる程軽くなってしまったのは当の昔に消えてしまったという事だろうか。
海の匂いが鼻をつんざき、砂が目に入るから泣いてしまう。こんな所に撒いたって君は自由になれないだろう。
だって、私が縛り付けたのだから。
後悔なんてしていない、していない筈だったのに。
時に穏やかで、時に激しくて、時に自由な波に身を任せ。たどり着いた浜辺には数々の出会いのカケラが待ちうけているだろう。
『貝殻』
「貝殻」
マコは海のある町に住む小学四年生の女の子です。マコは海が大好きで、毎日海岸を散歩しています。
ある日、いつものように散歩していると、みたことのないきれいな色をした貝殻を見つけました。マコが知っているより一回り大きなホタテの貝殻です。一見真っ白に見えますが、日にあたって虹色に輝いていました。マコは貝殻の輝きに目を奪われて、砂浜から貝殻を拾い上げました。貝殻はずっしりと重く、マコはとり落としそうになって慌てて両手で持ちました。近くで見てみるとますますきれいに見えます。少し角度を変えると色が変わるのが楽しくて、マコは貝殻をくるくる回して眺めました。しばらくそうしていると、貝殻の中から小さな声が聞こえました。
「ううう、もうまわさないでぇ……」
マコは悲鳴をあげました。貝殻がぱかりと開いて、なかから小さな小さな女の子が涙を流しながら姿を現したのです。
「あ、あなたはだあれ?どうしてそんなに小さいの?」
尋ねてみると、女の子はべそをかきながら答えました。
「私は海の国から来たの。陸に行ってみたくて泳いでいたら、迷ってしまったの。おうちに帰りたいよぅ……」
「あなたのおうちはどこにあるの?」
「海の底にあるわ」
「うーん、それだけだとわからないな。とりあえず、わたしの家に来ない?わたしのお父さんは漁師なの。何か知ってるかもしれないよ」
こうしてマコは小さな女の子を家に連れていくことにしました。
お母さんは手のひらに乗るくらい小さな女の子を見てびっくりしましたが、事情を話すと優しい手つきで女の子をなでました。
「大丈夫よ。きっと家に戻してあげるからね」
お父さんは夜にならないと帰ってこないので、それまで待たなくてはいけません。マコは女の子の不安を紛らわすために、女の子とおしゃべりすることにしました。
「おなまえはなんていうの?」
「名前はないわ。海では名前を呼ばないの」
「じゃあわたしがつけてあげる。えーっと、貝殻姫とかどうかな?」
まるでおやゆびひめみたいだと思って言うと、女の子は初めてにっこり笑いました。
「かわいい名前。私、名前って初めてよ」
それからマコと貝殻姫はいろんな話をしました。マコが陸の話をして、貝殻姫が海の話をしました。貝殻姫はマコの話を聞いて喜んでくれたし、貝殻姫の話は聞いたことないような話ばかりで楽しいものでした。おしゃべりははずみ、外はあっという間に暗くなって、お父さんが帰ってくる時間になりました。
お父さんは貝殻姫の事を聞くと冷静にうなずきました。
「なるほど、海の底から来たんだね。僕はほたてが多くいるところを知っているよ。そこでかえせばいいのかな」
貝殻姫はこくんとうなずきました。お父さんは、明日漁をするついでに貝殻姫を送ってくれるといいます。拍子抜けするほど簡単に、貝殻姫は家に帰れることになりました。すっかり友達になったマコと貝殻姫は、ハイタッチして喜びました。
「よかった、帰れるんだね」
マコが言うと、貝殻姫は嬉しそうに笑いました。その笑顔を見た時、一瞬マコの胸がずきんと痛みました。せっかく友達になれたのに、貝殻姫とお別れしないといけないのです。
時間はすぐにたち、貝殻姫が出発する時間になりました。見送りに来たマコは、貝殻姫にビーズで作ったネックレスを渡しました。
「海に行っても、私たちは友達だよ。忘れないでね」
貝殻姫はおどろいたようにネックレスを見て、そして大切に握りしめました。
「こんなのもらったの、初めて。海にはこんなにきれいなものはないわ。大切にする」
貝殻姫はマコの人差し指をそっと握りました。
「ありがとう、マコ。私の初めてのおともだち。きっとわすれないわ」
そうして貝殻姫は帰っていきました。それを見送るマコの指には、貝殻姫とおそろいのビーズの指輪がはまっていました。マコはきっと、この不思議な出会いのことを忘れることはないでしょう。