おじ☆チャン

Open App

 貝殻
 
 仕事が休みの日が友達と合う日は決まって、みんな集まりバーベキューをするそれが俺たちのルールだ。
 今日はいつも肉ばかりだと飽きるからと言って海鮮物を堪能したが、これがうまい。
 4人で食うには多いと思っていた魚も貝も、スーパーで買い集めたものではあるが炭で焼くとどれも格別で、あっという間に無くなってしまった。
 酒も入り腹も膨れたころ、常に意見が対立する佐藤と田中が楽しそうに談笑をしているのを見て、ふとしたいたずら心が俺の胸を満たし始める。
「なぁ、貝殻ってさ燃えるゴミ?燃えないゴミ?」
 先程まで談笑していた二人もそれを眺めていた佐々木も一様に悩み出す。
 そして俺の思惑通り意見が割れた。
 佐藤は燃えるゴミで田中は燃えないゴミと主張し出し、案の定揉め出した。愉快である。
 そして俺と佐々木はどちらでも良い。と言う意見に収まった。ぶっちゃけどうでも良いことだし。
 だが、実は俺は俺だけは答えを知っている。
 自分たちの住むこの自治体では貝殻は燃えるゴミとして出す事になっている事を。
 それを知った上で2人を煽って意見を対立させる事が俺にとって最高のデザートになるのだ。そうこう考えているうちにも貝殻ゴミで揉めてる2人の心は加熱されていっているようだ。
「佐藤、お前はいっつもそうだなそもそも貝なんて燃える訳ないんだから燃やせないゴミだろ?」
 まぁそうだな田中お前は間違っているけどその通りだ、貝殻なんて燃えそうにもない。
「田中ぁお前は固いなぁもっと柔らかく生きようや魚の骨は生ゴミだこれだって燃えないと思うぜ?でも燃えるゴミだ。だったら貝殻も燃えるゴミで良いんじゃないか?そうだろ!」
 市役所の人間もそう思って燃えるゴミにしたんだろうなぁ。
「俺は魚の骨も全部洗って燃えないゴミに出してるぞ!生ゴミだって分別するべきだろ!」
 きっちりかっちり分別するのは良いことだがやりすぎじゃないかな?田中よ。
「潔癖すぎないか?おまえん家ぃそれになんだ!バーベキューするって言うのに白い服なんて着てきやがって、汚れが目立つようなの着てくるなよな!」
 田中は綺麗好きな上に上品だからなぁ。お前みたいにダラダラこぼして食べるような事はしないぞ。
 論点ずれてるし。
「家は関係ないし服もこの際関係無いだろ!お前こそ俺のとなりでボロボロこぼしたりして正直言って不愉快だったぞ!汚したらどう弁償させようか考えていたところだったがな!」
 関係ないっていって蒸し返すのはどうなんだろうなぁ。
 その高そうな服を弁償する金は佐藤にはないよ金遣い荒いし。あー楽し。
「このヤロウあったま来たぜ。」
「こっちは最初から頭に来てるが言わなかっただけだ。」
 そして互いに今にも掴みかかりそうな勢いになったいく。
 うひひひひ。キタキタこっから腹ごなしの乱闘だぁ。俺は田中が勝つ方に1000賭けるねひひひ。
 そして俺はゆるりと、黙り込んでいた佐々木を見た。もちろん楽しみを共有するためだ。ヤツも同種の人間だからどちらかに「賭け」たに違いないのだ!だが、いない。
 しまった!ヤツめまた手を差し込む気だな!そうはさせまいと動くが遅かった。
 2人とも待った!と声が響く。もちろん佐々木だ。   
 佐々木は息を切らせながら右手に持ったビニール袋からケーキを取り出す。
 やられた!この下らない事で暴れる2匹の猛獣達は大の甘党であり、ことケーキに関しては愛すら抱いてるであろう。さらに食後である!
 それは鎮静剤の如く良く効き猛獣達は先程までの勢いは消え去り、笑顔を携えてケーキを食べる。
 完全に俺の賭けはおじゃんだたまったもんじゃない。
「2人ともこれを見てくれ。」
 佐々木の手にはこの街の燃えるゴミ袋がある。
「この袋には生ゴミのイラストがあるが、そこに貝殻が描かれている。つまり、貝殻は燃えるゴミだ!」
 おぉー。すっかり苛立ちが消え去った2匹の飼い犬達は特に興味も無さそうにケーキを食っている。
 くそ、やられた。
 ヤツは俺と一緒にゲームをするプレイヤーだと思っていたが、まさかこのような愚行に出るとは。
 まさに法の番人を気取ったクソヤロウと言えなくもない。
 おれは気分が一気に白けていった。
 そうしていると佐々木が歩み寄ってきた。
「よっ!大変だったな!」
 ふん貴様がいなければもっと楽しかったんだがな!
 少しふてくされながらも、俺はまぁな。と答える。
 その顔が面白かったのかは分からないが、佐々木はニヤリと話し出した。
「どうやら賭けは俺の勝ちのようだからこのレシートは置いていくぜ?」
 くそっ!ハメられた!
 ヤツは初めから俺がゲームを持ちかける事に賭けていやがったんだ!
 俺は2人のケンカが始まった瞬間からどちらに賭けをするか悩んでいたが、その間に水を差してケンカを終わらせれば佐々木の勝ちと言う事か!
 もし、佐々木が帰ってくる前にどちらかが決着を着けていれば俺は佐々木に勝てたというのに。
 だが決着など一瞬で着くものであるし、佐々木にとってはかなり分が悪い賭けのはずだ。
 そうか、やはりそうだったのか!ヤツは法の番人でも気取り屋でもましてや、クソヤロウでもない。
 生粋のプレイヤーだったのだ!
 そして俺は手元のレシートをみる。
 税込2000円丁度。
 俺の賭け額まで読み、分が悪い戦いでも倍付けで回収する手際の良さ。完敗だ。
 俺は敗者として佐々木が持ってきた燃えるゴミ袋に貝殻を詰め込みながらニヤリと笑う。
 さて、次は何を賭けようか?
 面白い相手に俺は胸がどこまでも踊った。

9/6/2023, 10:12:37 AM